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滑り台のような凍結路にご注意を!

この冬一番の寒気は、各地で大雪を降らした。
雪の中で様々な事故が発生しているようで、そんなニュースを聞きながら数十年前のことを思い出した。

凍結する事故現場

寒冷地にあるM警察署の交通課で勤務していた平成の初め頃のことだ。

当時、冬の滑り止めタイヤとして最もポピュラーだった「スパイクタイヤ」が禁止され、スタッドレスタイヤが普及し始めていた。

警察署に配置されていた事故処理車(ハイエースとかキャラバンが多かった。)にも、新しいスタッドレスタイヤが装着され、装備品として、タイヤを覆う形式で、スパイクのような鋲が埋め込まれた樹脂製の滑り止め(「ゴムチェーン」というような呼ばれ方をしていた。)が配備されていた。

警察署には「当直」と呼ばれる勤務があり、閉庁時間中の応急対応をするための人員が常駐し、24時間営業で事件事故に対応している。

毎日勤務の場合、だいたい6日に1回は当直勤務に就くようになる。

今年のように、寒の季節に大雪が降った夕方、当直について間もなく雪道で数台の関係する多重事故が発生したとの通報があり、早速出動することとなった。

滑り落ちるトラックが・・・

現場はS高原に続く県道だ。
登坂車線が設置されている比較的勾配がきつい上り坂で、標高は900メートルくらいの場所だったので、凍結したアスファルト路面に雪が降り積もり圧雪している状況だった。

現場に到着すると、登坂車線の手前に、小学校のスクールバスが止まり、付近に数人の子供たちが降りてきていた。
坂の中腹を見上げると、事故車両か立ち往生している車かわからないものの、数台の車が雪の中に停止しているのが分かった。

スクールバスは、道をふさがれて進めなくなっていたのだ。

すると、坂の中腹から右に左に蛇行しながらバックしてくるトラックが目に入った。

トラックは、坂の途中に停止している車にぶつかりながら一気にバックし、あろうことか、停車中のスクールバスにそのまま激突したのである。

現場には、衝突音と子供たちの悲鳴が鳴り響いた。
幸い、子供たちはスクールバスからは離れていたため被害はなく胸をなでおろしたものの、一瞬「ヒヤリ」としたその光景を忘れることはできない。

凍結した道路は「滑り台」

事情はこうだ。

坂の途中では、スリップして動けなくなった車とその横を通り抜けようとした車が衝突し、反対側から坂を下ってきた車がこれを避けきれず更に衝突するといったスリップ事故がいくつか発生していた。

当事車両は十数台に上った。

くだんのトラックは2トン車くらいのアルミパネルだったと思う。
スタッドレスタイヤを装着して坂の途中まで進んだが、スリップして進めなくなってしまった。
しかし、現場は凍結した路面に雪が降り積もって圧雪となっていたため、スタッドレスタイヤのみでは、その重さを支えることができなかったようだ。

重力に引かれて動き出したトラックは、運転手がハンドルを切ろうと、ブレーキを踏もうと、どうにも制御が効かず、氷の上を滑る「そり」のごとく、坂を滑り降りてしまったということだ。

【アドバイス】

重さのある車の場合、圧雪道路では金属のタイヤチェーンを装着しないと坂を登れないことは多く、トラックが「立ち往生」する場合は、大抵、ダブルタイヤにシングルチェーンだったり、スタッドレスのみだったりすることが多い。

雪道での装備には万全を期したい。

先へ進む・・・も?

その現場では、それぞれのドライバーから事情を聴いた結果、先ほど述べた事故状況が判明したわけだが、幸い事故によるけが人はいないことが判明したので、本署に戻ろうとしたところ、その先の高原でもいくつかの事故が発生しているという無線連絡が入り、私たち(相勤者と2名で臨場していた。)は凍結した急坂の先へ進まなければならないこととなった。

私たちは、先ほど目撃した状況などから、スタッドレスのままでは危険と判断し、配備されていた樹脂製の「ゴムチェーン」を装着してその先を目指すことにした。

真新しい物で、初めて使う装備だったので効果に多少の不安は感じていたが、案の定、坂を上り始めて間もなくタイヤは空転して進めなくなってしまった。

私は、念のため併せて載せていた金属製のタイヤチェーンに交換しようとエンジンを停止させ、車から降りようとしたところ、思わぬ事態に陥ってしまった。

滑る事故処理車!!

エンジンを止め、パーキングブレーキを引いてフットブレーキを離した刹那、事故処理車は停止した状態のまま坂を滑り始めてしまったのである。

先ほどのトラックのごとく、ハンドルもブレーキも何の反応もしない状態で制御不能に陥り、事故処理車は斜めの状態でずるずると滑り、運転席から後方を振り返ると、スローモーションのごとく、後方で動けなくなっている車に近づいていくのが見えた。

寒い雪の中で、ぐっしょりと汗を掻く感覚を想像していただきたい。

「もうだめだ!」と思い、リアガラスが割れ砕ける様を想像した瞬間、事故処理車は止まったのである。

「助かった」と思った。

車から降りてみると、車の後輪の周りには、数十センチの高さに盛り上がった新雪が絡まっており、これで「踏みとどまった」ことが分かった。

多くの車が立ち往生して通行が制限されていたため、しんしんと降り積もる雪がますます深まり、これにより衝突を回避することができたのである。

金属チェーンは、頼りになる!

その後、金属製のタイヤチェーンに巻き替え、S高原で連続発生していた交通事故の処理を済ませることができた。

金属製のタイヤチェーンは、馬力が違う。

氷点下10度近い低温下では、雪はさらさらでくっつかない。

圧雪路でも、雪は固まっていないので、サクサク崩れてしまって、スタッドレスタイヤや樹脂製の滑り止めでは用を成さない場合がある。

四輪駆動車であれば登坂は可能でも、下りの制動には不安がある。
もちろん、金属製のチェーンといえども万能ではないが、掻き上げる力は相当なものだ。
アンチロックブレーキがあれば、下りでも相当な効果を発揮するだろう。

何度も言うが、

雪道での装備には万全を期したい。

その後、私は自家用車を四輪駆動車に変え、金属チェーンを装備したことは言うまでもない。

あれから30年。
現在、FFのミニバンを使用しているが、積雪時は坂道には近づかない。

忘れられない記憶を、ここに書き留めておこう。



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