山下澄人『ほしのこ』

 これって、芥川賞受賞後の次の作品なのか。なんとなく、その前の作品なのかと思って読んでいた。
 主人公かつ語り手の少女の「天」は、お父さんとふたりで暮らしている。どうも戸籍もなく、学校にも行かず、誰にも知られずに暮らしているらしい。お父さんも働いたりしていない。あとは昆布ばばあと天の呼ぶおばあさんだけが近くに住んでいる。スーパーの裏のゴミ捨て場から期限切れのご飯をもらったりしている。
 お父さんは、天は空に見える赤い星の隣の星から来たと言う。お父さんはある日、お風呂に入った後、星に帰ってしまう。その後、もっと小さい少女のルルが来る。
 でも、昆布ばばあと天とルルはときどき重なる。記憶が同じだったり、喋り方が同じだったり、実際に重なって見えたり。
 戦争から逃げた飛行機乗りが近くの山に落ちて、天は探しに行く。もちろん戦争はずっと昔のことだ、というような疑問は小説の中では語られず、天は飛行機乗りの体に入ったり、飛行機乗りが天=ルルを見たりする。
 というような粗筋を、なぜ私は書いているのだろうか。感想も、評価も何も書かないのは、批評すると、この世界が壊れてしまいそうな、乱暴な感じがするからだと思う。
 これを読んでいる途中で、自分が最近メルカリで服をちょっと買っていたが、やっぱり、あるものを捨てないで最大限生かして着るのがいいな、天みたいに、と思って、これは何だかあれに似てるぞ、『北の国から』みたいな、と思って、やっと、そうだ、山下さんは倉本聰の弟子だった、と思い出し、そうか、と思ったが、別に、この世界が『北の国から』みたい、というわけではない。
 私は『北の国から』はほとんど見ていなくて、でも、中嶋朋子は子供の頃(蛍)じゃなくて高校生役くらいの石田ひかりとやった「ふたり」の頃が好きだった。ゆがんだ口元が。全然『ほしのこ』と関係ないけど。
 『ほしのこ』は、空間がすかすかしていて、スケッチみたいだった。最近の山下さんの作品の、ぎゅうぎゅう詰まっている感じとはだいぶ違った。だから昔の作品なのかと思ったけど、そういうわけじゃなかったみたいだ。