見出し画像

論説「私たちの食卓に目を向けよ」【安全の国をつくる】

(文責/写真・佐藤一平)

食料危機

 安全の国をつくるにあたって、食料自給率向上はひとつの重要な論点だと考える。まずはひろく国民を巻き込んだ大きい議論を始めたい。

 「安全の国をつくる」のチームワークで印象的だったのは、「国民の合意」という言葉を使った発表がひとつしかなかったことである。農産品価格の下限を農林水産省に設定してもらうといった発表もあり、国に何とかしてもらうという志向が強く、総じて食料自給率の問題を他人事に受け止めているように感じた。実際のところ、食料自給率を普段から気にかけている人の方が少ないのかもしれない。

 私たちの食卓に目を向けると、いつも食べているパンなどの小麦粉製品のうち83%が外国産である。同じようにいも類28%、野菜類21%、肉類47%であり、納豆やみそ、しょうゆの原料で、食卓に欠かせない大豆を含んだ豆類にいたっては92%が外国からの輸入に依存している*¹。

 一方で、ウクライナ侵攻にかかる小麦価格の高騰を見ると、食料危機というのは兆候なく来るものであることを示している。私たちは、台湾有事等のもしもの時に突然食料が輸入できなくなるという事態に向けて、日頃から備える必要があるのかもしれない。

 日本の農林水産業が抱える課題は担い手不足である。農業においては、2022年時点での従事者数が123万人であるが、そのうち50代以下は25.2万人で、全体の21%しかいない*²。50代で若手・中堅と呼ばれる職種であり、担い手不足は著しい。

 これに対して、近年解決の鍵になるとされているのが、AIやIoTを活用したスマート農業である。省力化と収量の増加が同時に期待でき、少子高齢化が進むこれからの日本の農業においては必須の技術だ。

 しかしスマート農業の導入には様々な課題がある。スマート農業技術の搭載された農業器具の価格が高いため、特に農業所得の少ない個人経営体には大きな負担となっている。例えば、自動運転機能の搭載されたトラクタは、非搭載のトラクタと比べて300~400万円高いと言われている*³。一方で、令和3年度の個人経営体の農業所得は115万円であり*⁴、スマート農業の導入は極めてハードルが高い。

 またかつての減反政策のように、消費量が上回った場合には生産量を抑えてもらうという方針では、結果的に農業経営体の利益を損ねることにつながる。スマート農業の推進による供給増に対して、需要も創出することは欠かせない。

 これらの諸課題に対応し、食料自給率を向上させるためには、今以上の農林水産業分野への財政支出をするべきである。重要なのは、これに対して私たちも関心を持つことだ。

 税金は私たち国民が納めるものである。一般に財源を確保するためには増税するか、他分野への支出を減らす必要があり、仮に国民の関心がない状態で農林水産業分野への財政支出を増やしても、運用面で不安が残り続ける。あてがわれた予算を効果的に運用し、食料自給率を向上させるために、私たちは無関心であってはならないのだ。

 食料自給率向上や、そのためのスマート農業の推進は一見すると私たちには無関係に思える。しかし朝昼晩のごはんがどのように私たちに届いているのかを考えると、これらの話は決して無関係だと言えないのではないか。私たちの食卓の奥にはスマート農業があり、農村の風景があるということを知る必要がある。安全の国をつくるその第一歩として、私たちは食卓にもっと関心を持っていくべきだ。


*¹農林水産省 令和3年度「食料需給表」https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/(最終閲覧日時:2023年4月27日 8:48)
*²藤田さんの配布資料より抜粋
*³クボタ「コンバイン/クボタ公式サイト-農業ソリューション製品」WORLD WRN6100 ワールドシリーズ(シンプル装備)のIoTとそうでない田植え機の比較
https://agriculture.kubota.co.jp/product/combine/?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_campaign=04&gclid=EAIaIQobChMIqZql5qGX_QIVmZJmAh0JUQxdEAAYAiAAEgLiRvD_BwE(最終閲覧日時:2023年4月27日 8:49)
*⁴農林水産省「農業経営に関する統計(1)」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/12-1.html(最終閲覧日時:2023年4月27日 8:50)


当日配布した資料

・農林水産技術会議事務局研究推進課長 藤田晋吾さん
 「日本の食料・農業の現状について」

・帝京大学文学部史学科2年(当時) 佐藤一平
「スマート農業を推進するならこれ!」

 ※お聞きになりたいことがあればコメントまで。

いいなと思ったら応援しよう!