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学生と考える「食料自給率を上げるためには」 【安全の国をつくる】初開催

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年余り。私たちは平和な日常が瞬時に壊れ、それを取り戻すことがどれだけ難しいのかをまざまざと見せつけられた。私たちの国、日本は安全なのか。安全とはどのような状態なのか。安全は防衛費をGDP比2%以上へ引き上げることで担保されるものなか。
 たくさんの問いを多くの人と一緒に考えていきたいと、私たちは2023年2月25日、帝京大学霞ケ関キャンパスで「安全の国をつくる」を開催した。帝京大学の松本美奈客員教授と私たち帝京大学の学生が始めた課外授業だ。


国内生産の維持が不可欠

 初回である今回は、「食料自給率を上げるためには」をテーマにした。スマート農業推進に取り組んでいる農林水産技術会議事務局研究推進課長の藤田晋吾さんが講演。

 農水省の統計によれば、日本の食料自給率は38%*¹であり、1日の食事の6割以上を輸入に依存している。1998年当時日本は世界1位の農林水産物の純輸入国であり、食料自給率が低くとも諸外国から輸入できていた。しかし近年では他国の購買力が向上する一方で、日本の経済力は低下。世界最大の輸入国である中国やそのほかの国との輸入競争が発生し、農産品や農業関連資材*²において、日本が買い負けることで食料の供給が他国に左右される可能性が出てきている。

 農産品の安定した供給のためには、国内生産の維持が必要である。しかし基幹的農業従事者*³数は2000年からの20年間で半減したことに加え、平均年齢が67.9歳と高く、労働者の減少と高齢化が進む。人口減少によって国内市場の縮小が進む一方で、世界の農産品マーケットは、世界人口の急激な増加に伴い拡大を続けている。農水省は海外市場への販路拡大や、生産が需要を上回っている米から他作物への転換を支援している。

 その他にも、高齢化や従事者人口の減少に対応する切り札として、スマート農業の導入の取り組みを推進している。実証実験では一定の効果が認められたものの、コストの高さから、投資の回収が難しく導入が進んでいない。

 以上の課題を踏まえ、農業生産基盤を強化し、できる限り国内生産を維持していくために、「食料・農業・農村基本法」の見直しを中心に、様々な取り組みを進めているという現状報告が行われた。


農業への財政支出を増やせ

 これに対する指定討論人を務めたのは、帝京大学文学部2年(当時)の佐藤一平。

 財政支出を増やさなければ、食料自給率の向上は望めないという主張に基づき、他国に食料を頼らない国づくりのためのスマート農業推進予算として約5,348億円を追加するよう要求した。

 内訳としては①スマート農機具導入費用の補助として2,180億円②需要喚起政策として、米粉の価格支持政策に約85億円と余剰農産品買い上げ制度(米)に621億円③収入保険制度の義務化に2,453億円④産官学連携スマート農業普及政策に約9億円である。

 令和5年度の農水省予算は2兆6,808億円(林業・水産業を含む)であり、要求額5,348億円は大きな額だ。しかし、アメリカの2023年度国家予算に占める農務省予算割合は約12%であるのに対し、日本の2023年度国家予算に占める農林水産省予算割合は約2%であるように、日本の農業予算が少なすぎると佐藤は主張する。

 実家が秋田県大潟村のコメ農家であるという自身の経験を通じ、農家に対する今以上の財政支出がなければ、食料自給率の向上はおろか、現状維持すら不可能であると訴えた。


来場者の考えたアイデア

 討論会の後にはいくつかのチームに分かれてワークを行った。各チームには参加した高校教員や生徒、企業人、学生がランダムに分けられた。チームごとに目的と目標を決め、目標達成のためのアクションプランを出し合った(写真参照)。最後に行われた発表では、農業人口を増やすために、「農家アイドルを作成!」や、農家の収入をあげるために、「商品単価の下限値を決めよう」といった提案が行われた。藤田さんから各チームへ講評が行われ、参加者は他のチームの意見を通じ学びを深めていた。

 5月20日(土)に「安全の国をつくる」第2回を開催する。テーマは「森林を身近な場所にするために」。材木屋を経営し、木材組合の理事を務め、NECソリューションイノベータ(株)でICTによる林業の見える化を進めている川崎貴夫さんをお招きする。会場は帝京大学霞ケ関キャンパス。
 一緒に企画を考え、議論する仲間も募集中!参加申し込み・お問い合わせはhttps://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScCp_XtkCA7Zup_HwwQXvZAMzMzmoMfJdxXIeDRNb8WGgq_qA/viewformまで。

(文責・小澤太己)


*¹ カロリーベース。2021年度
*² 肥料等
*³農業を主たる収入とする農業従事者のこと

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