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審査員の言葉 サ・チェンさん(リーズ国際ピアノコンクール2024)[10]


審査員のお言葉、三人目にご紹介するのは、中国生まれのピアニスト、サ・チェンさん。
1996年のリーズ国際ピアノコンクールで最年少として第4位に入賞、イングリット・フリッターさんと同じ2000年のショパンコンクールでも第4位、そして2005年のヴァン・クライバーンコンクールで第3位と、数々の入賞歴を経てキャリアを切り拓いたピアニストです。最近日本にはいらしていませんが、中国ではかなり大人気らしい。
前回のショパンコンクールに続き、次回も審査員に名を連ねていて、中国の審査員としてあちこちでお名前をお見かけするようになりましたね!

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―審査結果について、どう感じていますか? ジェイデンさんが1位に選ばれたポイントは何でしょうか?

優勝者の選択については、審査員みんなに同じ意見が共有されていたように思います。
彼はこれからキャリアをスタートさせるうえでしっかり準備ができているピアニストに見えました。演奏が一貫して安定していましたし、そのうえ自分のアイデアを伝えるためにどのように楽器を扱うべきか、どんなふうにピアノにアプローチしたらいいかを知っていて、プロフェッショナリズムを感じました。
いくつかの作品については特に、個性的な自分だけの声を持っていました。彼のキャリアはモントリオールなどの優勝ですでに始まっていたと思いますが、今回の優勝でさらに明るい未来に近づいたのではないかと思います。彼がこのあとももっとコンクールに出るかどうかはわかりませんが、将来輝かしいキャリアを築いていくことを願っています。

―2位、3位の入賞者の印象はいかがですか?

結果が出たばかりでまだ詳細を話すのは適切な時期ではないかもしれませんが……2位、3位については、それぞれの審査員が少しずつ異なる意見を持っていたと思います。
ファイナリストはみんな素晴らしいピアニストでしたし、全力を尽くしてくれたと思います。まだ20代半ばととても若いというのに、高いクオリティの演奏を聴かせてくれました。オーケストラと非常にうまく連携し、立派な能力を示していました。

―コンサートピアニストとして審査員を務めると、自分が弾くときとは違う音楽に出会うことも多いと思いますが、そういうときはどのように判断するのでしょうか。

作品へのアプローチは人それぞれに違って、それがパフォーミングアーツや音楽の面白いところです。ある意味ではこうして聴くということが、自分にとっても非常に良い経験になりました。自分とは違うもの、特に個性的だったり特殊なものにどうしたらオープンになれるのかをずっと自問自答していました。
そんな中で時々とても説得力があり、質が高く輝かしい個性に出会うと、すごく嬉しく思い、そのまま進んで欲しいと思いました。
例えば、ベートーヴェンやシューベルトの後期のソナタ、リストのソナタなど、ピアニストが長い時間をかけ、人生を通して取り組むようなタイプの偉大なレパートリーには、審査員もそれぞれに少し個人的な感情を持っているもので、どう演奏されるべきか議論になりがちなのは仕方ないことだと思います。
でも今回のコンクール中、私は個人的にいくつかの印象的な演奏に出会えて感銘をうけました。

―最後のソナタを選んでいるコンテスタントは何人もいましたけれど、勇気がありますよね。

本当にね! でも彼らはそうであるべきだと思います。自分が最も愛し、情熱を感じるものを選んで演奏すべきです。
作品に対してまだ十分に成熟していないこともあるかもしれないけれど、そんなことは関係ないのです。偉大な作品を演奏するうえで大切なのは、あなたととその音楽がリンクしているか、つながっているかということだからです。弾く場所がコンサートであろうと練習室であろうと、コンクールであろうと関係ないと思います。私は彼らの選択を評価しています。

―日本のメディアとしては、聴衆賞を受賞した牛田さんについての印象もお聞きしないと思うのですが…いかがですか。

彼がファイナルに通過しなかったことを本当に残念に思っていたので、聴衆賞を受賞したことをとても嬉しく思います。
フィードバックセッションで彼に会えたので、演奏をどれだけ楽しんだかを伝えました。彼はとても成熟していて、楽譜やそこに書かれていること、作曲家に敬意を払っているピアニストです。同時に、とても正直で誠実だということも伝わってきます。もちろんピアニスティックなレベルもとても高い。……私は彼に投票していますからね! これだけは確かなこととして言えます(笑)。
でも、こうして予期せぬことが起きてしまうのがコンクールです。彼のキャリアが開花することを願っていますし、絶対に開花するとも思っています。彼はミュージシャンとしてさらに大きくなるでしょう。

―ところで、このコンクールでジェンダーギャップの問題を配慮したルールが設定されていたことについて、キャリアを確立した女性ピアニストとしてどうお感じになりますか? ルールはうまく機能していたと思いますか?

結果をみればわかると思いますが…! 
でも正直、普段私は自分自身を女性のアーティストとしてあえて認識していたことがなかったので、このトピックが提示されたとき、ああ、そういえば私たちは女性として活動しているのだった!と気づいたようなところがあります(笑)。
一番大切なことは心とミュージシャンシップであって、性別ではありません。でもこれは、ジェンダー・バイアスを感じている人たちにとっては必要なことなのでしょう。どこかにストレスを感じている人がいるのかもしれません。
社会や世界に対して声をあげ、態度で示すという意味では、価値のある試みだったと思います。

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リーズ国際ピアノコンクール2024 現地レポート
10月26日(土)13:00~14:30

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