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嬉しくなる映画

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さいきんみた映画、何かの折りに思い出した映画のレビュー。
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#映画

〝彼女〟のいない特殊部隊はもはや信用ならない

 『ローグ・ワン』や『この世界の片隅に』が巷を沸かせるなか、今日劇場公開された『バイオハザード:ファイナル』。「ファイナル」すなわちシリーズ最終作、もう金輪際続編は作られないらしいのでほっとした。2作目から5作目がとてつもなくつまらなすぎて、一刻も早い幕引きをずっと心から願っていた。「つまらない」と言い切るからには私はしっかりこれまでのシリーズ全作を見たわけで、「つまらないなら見るのをやめればいいだろバーカ」とか「わざわざつまらない映画のつまらなさをブログで書くなバーカ」とか

私が『スネークフライト』を見た理由、あるいはクラリスブックスの愉快な仲間たち

 『スネークフライト』(2006)という映画をご存じだろうか。ご存じじゃなくて全然いいと思う。私だって見なきゃよかったと思ってる。  その名のとおりヘビ×飛行機のパニック映画で、事の発端はハワイでのギャングによる殺人事件。目撃者の青年とその護衛のFBI捜査官が乗る旅客機を墜落させようと、ギャングたちが大量の毒ヘビをこっそり貨物室に仕込んだせいで、機内は阿鼻叫喚の地獄と化す。 ■ まずはネガティブな感想を  ネットでざっと検索してみたら、好意的な評価が多くて驚いた。正直い

全力の『ジュラシックパーク』ごっこ

◆ 巨匠への愛と敬意と感謝を込めて  さいきん、幼い息子が頻繁に恐竜ごっこ、というか『ジュラシックパーク』シリーズごっこに興じ、周囲を巻き込みたがる。残念ながら彼の母と姉は恐竜に興味がなく、ティラノサウルスの腕の小ささをあざ嗤い「パラサウロロフス」も「コンプソグナトゥス」も覚えられない体たらくなので、どうしても父がごっこ遊びに参加することになってしまう。 ▲ パラサウロロフス(左)とコンプソグナトゥス(右)  思えば私がはじめて自分の意思でレンタルビデオ屋へ行って借りた

『シン・ゴジラ』

 前情報がすくなすぎて、胸の内には期待もワクワク感も大して育ってなかった。「まあ見とこう」というほどの気持ちで仕事の合間に映画館へ飛び込み、結果ボコボコに打ちのめされた。  たぶん生まれて初めて、映画のエンドロールを見て泣いた。映画の余韻に浸ってではなく、エンドロールそのものに泣かされた。巨大なスクリーンを上から下へ流れていった人・団体・機関・施設・作品その他いろいろの名前の羅列は、まさにこの映画が成し遂げた偉業を簡潔に、そして堂々と要約した超名文だった。 「これはもう一回映

私はJ.J.エイブラムスを心底信じてきたし、これからもずっと彼に身を委ねてゆこうと思った2015年末――『スターウォーズ/フォースの覚醒』

 謹賀新年。さっそくだが昨年末、『スターウォーズ/フォースの覚醒』を見た。すごかった。最高すぎた。あまりにもおもしろくて「こんなにおもしろくていいのか」となぜか涙が止まらず3Dメガネが曇って困ったので、ぜひ近いうちにもう一回2Dで見直そうと思っている。  私はスターウォーズに関しては〝にわかファン〟でしかない、と正直に告白するところから始めたい。出会いは今から18年くらい前、高校生の時のこと。当時約20年ぶりに製作される新3部作が話題になるなか、慌ててエピソード4~6(特別

思い浮かべてばかりの映画

 年末が近づくと〝年末っぽい映画〟がすごく見たくなる。といっても、慌ただしく日々を送るうちに気づけばもう晦日もう正月、当然「さてだらだら映画でも見るか」と手に取るのはもはや〝年始っぽい映画〟のDVDなので、実際に〝年末っぽい映画〟を年末に見ることは少ない。私にとって〝年末っぽい映画〟は見るものというより、思い浮かべるものなのだ。  具体的には『或る夜の出来事』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』『未来は今』――いずれもスクリュー・ボール・コメディとその周辺。「ストレ

男はもう時計を売るのをやめた――台湾映画について 02

2014年10月  ツァイ・ミンリャンはデビュー作『青春神話』(1992)から引退作『郊遊(ピクニック)』(2014)まで、すべての作品でリー・カンションを主演に起用し続けた。トリュフォーにとってのジャン・ピエール・レオ、コクトーにとってのジャン・マレーが想起されるが、それ以上の存在といってよいと思う。リー・カンションはツァイ・ミンリャンの分身でも詩神でもなく、映画をつくる動機そのものであり、映画をつくる唯一の具体的手段でもあったのだから。この21年間スクリーンに映じた無数

あなたが描く〝孤独〟は映画館で見るのでないと嫌だ――台湾映画について 01

2014年10月  ツァイ・ミンリャンが「長編映画製作から引退」し、「活動の場を美術館や舞台に移す」らしいと聞いた時、「〝私の台湾映画史〟が終わった」と思った。より正確には、ツァイ・ミンリャンの「引退作」である『郊遊(ピクニック)』(2014)のラストカットで、薄暗い廃墟の一室からリー・カンションが立ち去った瞬間にそれは本当に完全に幕を閉じた。いつもと同じ無音のエンドロールを憤然と睨みつけながら、「終わった」と何度も心のなかで呟いていた。  いきなり誤解の種をばら撒きまく