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読み返したくなる短篇

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黙ってたのしく読み返していてもいいけれど、あえて考えてみる。なぜ自分はこれらを読み返したくなるのか。
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#日本文学

「ああもっと読んでいたい」と焦がれる短篇小説――織田作之助「蛍」

*マガジン「読み返したくなる短篇小説」バックナンバー  時折、とにかく読み返したくなるオダサクの短篇。なかでも一番好きな「蛍」。衝動的に本棚から『織田作之助作品集2』(沖積舎)を取り出して開くや、ソファまで移動する時間すらもどかしく、突っ立ったままこの四六判わずか十数頁の物語を読み切ってしまう。自分の家なのに立ち読み。これが誇張でも捏造でもないということは、素晴らしすぎる冒頭の一節を引けば少しは信じてもらえるだろうか。  登勢は一人娘である。弟や妹のないのが寂しく、生んで

ことあるごとに読み返したくなる短篇小説――「親友交歓」(太宰治)

*マガジン「読み返したくなる短篇小説」バックナンバー  書く、という仕方で嫌な奴のことを表現するのはすごく難しいと思う。「こんな奴がいたのだ」と友人や家族に話すのであれば簡単だ。周囲が共感してくれるようならその嫌さをどんどん並べていけばいいし、反応がいまいちなら話をひっこめればいい。微調整しつつ話すうちに、嫌な奴のことがますます嫌になったり案外そうでもなかったと思い直したり、いろいろ新たな発見もあるだろう。でも、書くとなると難しい。書く時には誰もが絶対に一人きりだから、とに

布団の国の王様になると読み返したくなる短篇小説――「童謡」(吉行淳之介)

*マガジン「読み返したくなる短篇小説」バックナンバー 2015年1月  先週末からインフルエンザにかかってへろへろでした。小さな子ども二人にもうつしてしまい、みんなへろへろ。そんななか、ひとり踏ん張って元気だった妻に感謝です。  さて、病気話・苦労話を並べても詮ないので、古本屋らしく本を紹介しましょう。 吉行淳之介「童謡」(1961年)  病床に入ると、かならずこの作品について思いをめぐらします。吉行淳之介の超名短篇。高熱が引かずに入院した少年の物語。 「高い熱は