岡田将生研究⑥まめ夫(慎森)で開いた新境地
美しい映像に洒落た音楽、心地よい会話劇、上等なワインのような味わいのドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」。理屈っぽくて面倒な性格、人付き合いが苦手な弁護士。このひねくれ者の慎森が、放送後「かわいい」「理屈っぽいのに憎めない」と評判になった。実はパンダが好きだったり、とわ子に一途だったり、憎まれ口をたたきながらも鹿太郎や八作に妙になついて結託したり・・・と「かわいい」の要素はそれなりに散りばめられてはいたが、典型的な愛されキャラではなかったはず。脚本を書いた坂本裕二氏も「本当にかわいかった」と絶賛するほど、慎森を魅力のある役に仕立て上げた演技の秘密を探究する。
岡田将生の「かわいい」キャラと言えば、ST赤と白の捜査ファイルの百合根キャップが真っ先に思い浮かぶ。百合根は、癖の強いSTメンバーを束ねていく役柄で、ひねくれ者集団から「みんなキャップが大好き」と絶大な信頼を寄せられる。真っすぐでお人好しで面倒見の良い愛されキャラを全身全霊で好演し、視聴者からも愛された。ことに、藤原竜也扮する赤城との関係性において、子犬のようにくっついてバディを成立させ、勢いよく落ち込んだり、認められて喜んだりする様が「かわいい」につながった。
一方まめ夫の慎森は、身振り手振りは大きくないが、表情で魅せる。くるくると大きな目をよく動かし、意外と表情豊かだ。会話の合間やちょっと考える時にくるっと目を上に上げる癖も効果的。かといって大げさすぎず、さじ加減が絶妙なのだ。例えば2話、「お土産はいらない」と言った後に大好きなパンダの饅頭を見て、ほんのちょっと目を見張っただけなのだが、その気まずさが視聴者に伝わり、くすっと笑ってしまう。決して「ざまあみろ!」と言う感じではなく「あーあ慎森やっちゃった(笑)」「かわいそう」とつい好意的思わされる。ほんの少し目を見張るだけ、細めるだけ、横を向くだけ、声色を変えるだけで慎森にくすっとさせられるのだ。3話の「花はいらない。ゴミになるから」と言った後にダリアを1輪もらうシーンの演技もまさにそれで、ほんの少しピクッと唇の端を上げるだけで、慎森が喜んでいることが伝わる。6話の翼との別れのシーン、2度目の「いってらっしゃい」を言う前の間の取り方と表情、その後の笑顔も最高だ。
次に着目したいのは、偏屈なことを言っているのに話し方がゆるふわであるが故のギャップ萌え。同時期の他作品に比べて若干高めのやわらかい声の出し方だ。一歩間違えば「うるさい!」と不快になりそうな台詞を言っても、当たりがきつくなり過ぎない。ちょっと甘えた感じにも聞こえる、いい具合に力が抜けた声。それでいて岡田の得意とする早口のコメディ演技も健在。2話の慎森が絶品なのは間違いないが、7話の屋上でとわ子との会話のシーンが自然体でなんとも良い。一転9話でとわ子の家に押し掛ける場面では駄々っ子のようになるが、とわ子との掛け合い、芝居の緩急、聞かせる台詞、すべてが両者ともに完璧で見入ってしまう。へっぴり腰でドアに張り付いての「ダメー」は最強に愛らしいが、「人の孤独を埋めるのは、愛されることじゃない。愛することだ」の台詞は心に刺さる。
そして何といっても慎森の最大の魅力はそのスタイリッシュな外見にある。20代半ばくらいの岡田は、外見の美しさをわざと生かさない演技、演出、役柄にこだわっていたように思える。前述のSTの百合根も愛されキャラだがイケメンキャラではなく、わざと天然パーマの髪で顔を隠し「笑顔がきもい」と劇中で言われる。不便な便利屋、掟上今日子の備忘録、ゆとりですがなにか、テレビドラマのコメディでは、常に残念でモテない役で外見の良さはほぼなかったことに。ところが慎森は「見た目はいい」と言われるイケメン設定。類まれなる外見の美しさは、確かに諸刃の剣だ。そのせいで演技が認められづらかったり、できない役柄もあることは否定できない。しかし、美しい人にしかできない役柄もあるし、見た目の良さで引き立つ役もある。まめ夫の慎森は後者で、あの顔で言われたら何でも許せる気がしてしまい、外見が役をより魅力的にした。
岡田自身が「皆さんに愛されるように演じたい」と語っていたように、ひねくれ者の慎森は回が進むにつれ愛されるキャラへと成長した。「余計なことはしないように心掛けた」演技は、端正な外見も相まって洗練された印象を与え、このドラマの上質な世界観を引き上げた。
岡田将生の最大の魅力は、その変幻自在さと成長力。次はどんな作品を見せてくれるか?というワクワク感だ。今作で開いた外見も生かした自然体のおしゃれコメディ会話劇という新境地は、次にはまた別の形に姿を変えるはず。(今作ではコーラスとラップ参加のエンディングにも度肝を抜かれた)新作が筆者の想像の範疇に収まっていた試しがないので、敢えて何も思い描かないでおくことにしようと思う。