婚活が始められないわたしの話1
婚活を始めようかと思っていた。
しかし、何度そう思っても始められなかった。今日も始めていない。
婚活を始めて苦労した人の話なら世間にあふれている。友達にもいる。だけどわたしは、婚活を「始めることさえできなかった人」の話をまだ目にしていない。たぶんこの世にはいくらでもあるんだと思うけど、見つけられていない。
だからこれは、ただぐだぐだと、始められない理由を考え続ける日記。それが誰かの目に留まれば少し嬉しい。
スペック:28歳、女 顔面は地味系のっぺり、BMI20
都内で事務員、年収は500届かないくらい
郊外の実家暮らし
恋愛経験ほぼなし
結婚したいのかと言えばなんともいえない。だけどずっと、「恋愛をしていない自分」へのコンプレックスが強かった。20を少し過ぎた頃から、容姿にはそこまでかかわらず、たいがいのひとは恋愛をするのだという事実がわかってきて、わたしをますます打ちのめした。
普通になりたい。人とつきあいたい。あわよくば、一緒にいてずっと安らげる人を見つけたい。
そんな気持ちは人並みにあるのに、わたしには「恋愛」が始まらない。
まるでわたしだけ、生まれてから今日まで、そんなもののない世界にいるみたいに。
目の前の人に彼氏がいること、彼女がいること、配偶者がいることを知ると、これまで同じ目線で話していたと思ってたその人が、わたしとは別の世界線を生きているのだということをまざまざと見せつけられて、毎回毎回、胸が切り付けられるように痛む。
結果としてこの歳になると、新しい人と知り合うたびに胸が痛んでいる。まるで狭心症の老人のようである。
そんな人間のために、婚活市場はあるように思える。婚活のベースは恋愛ではないようだから。
でも、私は婚活が始められない。
マッチングアプリを入れてみたことも何度かある。人間の写真がずらっと並んでるのがキモ過ぎて耐えられなかった。結婚相談所に行ったこともある。もらった資料は、封筒の中で埃をかぶったので捨ててしまった。
「それでも、未練があるならやってみた方がいいよ」
先日友人からやんわりとそう言われて、もう一度真面目に、自分と婚活について、考えようかと思い出したのだ。
だから本当は、自分の内面を掘り下げる自己分析をnote上でしようと思っていた。そしていつか、婚活を始める勇気を出そうとも。
だけど今日、またしても、その考えは潰えた。
夜の20時、乗り継ぎ駅のエスカレーター。眼下に見えるホームには今にも発車しそうな、10分に一本の各駅停車。エスカレーターを駆け下りようとするわたしの目の前を、若くてでかい男がのろのろと降りている。
思わず彼の踵に蹴躓くようにして、私はようやくエスカレーターを抜ける。降り口で彼を交わして駆けだすと、わたしに踵を蹴られたせいか、男はでかい舌打ちをした。
うるせえ。
私は走りながら、はっきりと振り向いて舌打ちを返す。投げキッスと聞きまごうほどの舌打ち。ドアが閉じだす前に電車に飛び込んだ。顔を上げてホームを見ていると、思った通り、男は窓越しに私を覗き込むように睨んできた。
心が通じたような気持ちで、私は顎を突き出さんばかりに彼を睨み返す。電車が動き出す。ホームにいる彼を追い越してわたしは帰路につく。
すがすがしい、一幕の悪意と悪意の交流。マナーの壊滅に、マナーの壊滅が返礼する。これこそがコミュニケーションだ。
ただ、発端はわたしである。舌打ちに舌打ちで返し、悪意と悪意のやりとりを続行させたのものもわたしだ。舌打ちに傷つきながらも、それをコミュニケーションに昇華させたことに満足している、どう考えても異常者はわたしである。
ああ、どの口が婚活などと。
わたしはそもそも、他人を求めてはいけない。
すべての始まりは、そこだったはずなのだ。
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