誰シラ"ZANDER"リリイベに寄せて。(#011)
好きなアイドルがいる。
「誰もシラナイ。」。2021年2月のデビュー以来、名古屋を拠点に、全国規模でノンストップ躍進中の5人グループだ。
そんな「誰シラ」が、新作EP"ZANDER"をリリースする。1ヵ月かけて催されたリリースイベントの、クライマックスに足を運んだ。
アメリカ村、BIGSTEP階段広場。
関西のリリイベスポットとしては、最も憧れられる場所のひとつだ。
事前に受け取った整理番号は6番。余裕で最前列を狙えたが、NU茶屋町のリリイベは最前中央で観たし、吹き抜け含め360°以上から見渡せる構造を味わいたくて、ゆっくりめに会場へ向かった。
到着した頃には、ご覧の通りの人だかり。正面大階段は既に埋め尽くされ、あぶれた人か、はたまた通りがかりか、横の階段にも隙間なくお客さんが居場所を占めて、ライブの開始を待っていた。
想像以上に集まった人、巨大モニターに映る推したちに感じ入りながら、私も陣取る位置を探すべく、BIGSTEPを回遊し始めた。
見つけたのは、左斜め後ろの上階。
普段写真でしか見ることのない背中からの彼女たちと、お客さん、それらを取り巻く広い空間。BIGSTEPだからこそ見れる景色だ。
俯瞰で観れる位置にいると、いろんな人たちが目に入る。普段ライブハウスに足を運ばないであろう、ベビーカーを押した家族連れ。透明のエレベーターに乗り、手すりにもたれながら指差すカップル。いろんな人が目を向け、足を止めてくれるのを、この目で見ることができて、心の底から嬉しかった。「誰シラが見つかる」のを眺められる、とても贅沢な時間だった。敢えてこの場所を選んだ自分を褒めてやりたい。
左斜め後ろ上階(草越し)なんて、まぁ目を向けることのないスキマ物件なワケで、レスを貰うことはほとんど無い。それでいい。と思いきやなんと驚くことに、メンバーの1人が気付いてくれた。
愛狩ノア。気付いてくれて、ありがとう!
ノアはいわゆる「アイドルっぽい子」。個性派揃いの誰シラの中では、正統派寄りな方だ。とはいえフリフリ愛嬌を振りまいているワケではなく、ダークな面もあって奥が深く、根強いオタクがついている。
元々、細々した気配りが行き届いている子だった。ゆえにライブパフォーマンスより、ステージを降りてからの印象が強かった。けれど今回、その印象は変わった。ノアは360°、上も下も、常にどこかに身体ごと向けて、手を振って、笑顔を贈っていた。振付や歌割を意識しながらのそれは、冷静に周りが見えていてこそできることだ。出会った頃に比べると、歌も格段に上手くなった。ただの気配り上手じゃない。ステージ上のノア、かなり魅力的だ。
いつも返しを踏みつける桃瀬シオンがこの日は、階段1段目に足を掛けていた。あれ?なんか低いな?って思ってそうで、ちょっとかわいかった。
湊はどこにいても安定の歌唱力で信頼できて、「ほら!みんなこの子を観て!すごいでしょ!これが誰シラだよ!」って誇らしく思う。
自然光の中にいても、ここはライブハウスなんじゃないかって空気を醸し出してくれるのが猫守梦。どれだけ地上に進出しても、ぼーちゃんがいればきっと誰シラは変わらない(いい意味で)。
こはくは癒やし系ボイスとマイナスイオンを出せるから、音が放散しがちな野外会場でも、イケイケどんどんになりすぎない。
ひとりひとりに個性があって、なお調和している「誰シラ」。
背中から観ることで「アイドルしている姿」そのものを、楽しまされるお客さんの顔を、じっくり眺めることができる貴重な体験だった。正面から観るといつも楽しくなっちゃって、それどころではなくなってしまう。
前作(=デビューアルバム"KÄMPFER")のリリイベを、私は知らない。
その時と今とでは、きっと景色は違ったはずだ。
デビュー間もないリリイベだったなら、お客さんはこんなに集まらなかっただろう。上手くパフォーマンスできるか不安で、品定めされる恐怖、どこか温まらない空気を隠蔽したい必死ささえ、もしかしたらあったのかもしれない。
その最中から、何度も足を運んでくれるお客さんができ始め、顔や名前を覚え覚えられ、新しい人がどんどん増えて、今やごった返すほどのファンがいる。目を向け足を止めてくれるお客さんがいる。BIGSTEPでのライブやCDリリースを実現させてくれるスタッフ陣がいる。誰一人欠けずに、多難な局面を乗り越えて、絆が強まったメンバーがいる。
名古屋のアイドルが当たり前のように大阪でライブをしているのだって、すごいことだ。たくさんの人を愛して、愛されたからこそ、彼女たちは今、BIGSTEPで歌い、さらに先へ進もうとしている。
彼女たちの目には、その先には、心には、どんな景色が見えてるんだろう。ひとりの演者として羨ましかったけど、それ以上に、これから彼女たちが目にする景色を、できることならずっと一緒に見ていたいと思った。やっぱりオタクだ。
あぁ、誰シラは間違いなく、
"本推し"だなぁ、と嚙み締めた。(#005参照)
実はこのところ、個人的に抱える問題があって、浮かない日々を過ごしていた。生活もかなり乱れていて、リリイベだって行くか迷った。
見つかりにくいところに陣取ったのは、実はそれも理由のひとつ。どんな顔をしているかわからないから見られたくなかったし、どういう気持ちでいていいかわからなかった。
正直、今のメンタルで合わせる顔ないなと思っていた。けど、行って良かった。救われた。
演者は、お客さんに希望を与える必要なんてないんだと思った。ひとりひとりに、生きる力、前を向く力、が元々ある。ところが人間社会はなかなか煩雑なもので、嫌なことや嫌な人や理不尽な諸々のストレスが溜まって、その力を塞いでいく。演者は、楽しませることで、凝り固まり塞ぎ込んだものをほぐして、取り除いて、元のその人に戻れるように少しつついてあげるだけでいいんだ。
溜まった膿がデトックスされて、「キミのままでいいんだよ」と包み込んでくれてる気がして、なんかちょっとラクになった。
音楽って、いいなぁ。
読書とか映画とか、静かな趣味が多い私は、アイドルどころか音楽にすら、ほとんど触れてこなかった。家族が掛けるCDやレコードを聴くことはあったけど、自分で選んで音楽を聴いたり、街を歩きながら耳を傾ける習慣ができたのは、大学生になってからだ。
それが今、アイドルと出会って、オタクになって、そこで出会った人がいて、生きる力をもらうまでになっている。
「あの時は1人だったね、でも今はさ、私たちのことも知ってくれて、オタク仲間とも出会って、みんなと一緒だね」
特典会で、シオンに言われた。
「あの時」とは、1年前の8月。「円舞」(280°見渡せる円形小劇場・ちくさ座でのアリーナ公演)のことだ。当時は現場仲間がまだ1人しかおらず、ペンライトの使い方もあまりわかっていなかった。変なボタンを触っちゃって、ずっと違う色しか点かず、これで振るのもなぁ...とモジモジしていたのが懐かしい。
当時はまだ、誰シラに出会って3回目。初めての名古屋遠征。主現場にしていた東京拠点アイドル以外をお目当てにしたのも、初めてだ。
劇場フェチの私としては、チケットを即決した動機の半分は「ちくさ座を見てみたい!」だった。けれど、まだ2回しか観ていなかったアイドルの単独公演、しかも遠征を即決するのは、今思えばかなり思い切った行動である。この時から、私と誰シラの物語は、もう始まっていた。
そんな思いを馳せながら、リリイベを観ていた。
この日の特典会は、1枚だけのつもりだった。
けど、心動かされたのと、直前に御一行と思いがけずバッタリしちゃったのもあって、「これは行かなきゃな」と急遽買い増し。
ライブが終わると、どうしていいかわからない気持ちが戻ってきて、特典会列に並んでいる間も、ずっと手が震えていた。あまり目を見れなかったり、言葉にならなかったり、覇気が無かったりしてちゃんと伝えられなかったから、代わりにここで伝えたい。
よそ者のおれが言うより、
ずっともっと実感してるだろうけど、
このEPが出来るっていうのはスゴイことだよ。
たった1,650円、厚さ10㎜に満たない1枚だけど、そこには5人が乗り越えてきた道のりのすべてが詰まってる。汗とか、涙とか、焦りとか、努力とか、不安とか、不満とか、劣等感とか、自信とか、夢とか、現実とか、そんなもんあるかしらんけどってのも含めて全部の、結晶で、成果だよ。この1年をアイドルとして生きてきた証が、多くの人が関わって、多くの人の手に届く。
しかも、残るよ。これから先、何がどうなっても、誰シラのことを好きな人が1人でもいる限り。おれがその1人になることは、ここで約束しておく。
「みんなが支えてくれたからだよ」
ってきっと言うだろうけど、
誰でも応援するワケじゃない。
みんな仕事や趣味や友達や恋人がいて、お金も時間も限りがあって、それらをどう配分していくかを考えた末に、選んでいる。
それでも誰シラが大好きで、それでも駆けつけたいと思えるような姿を、5人が見せてくれてるからだよ。
アイドルがオタクに与えて、
アイドルはオタクからもらって、
オタクもアイドルに与えて、
オタクはアイドルからもらって、
ひとつのコミュニティとなって、
一緒に進んでいく。
それが、アイドルだと、おれは思う。
そこにあるのはただ、頑張ってるオタクの毎日で、頑張ってるアイドルの毎日で、そのうちいくらかはもちろん、キミたち5人の毎日だよ。
EPに封入されているスクラッチカードを当てると、今夏開催される「円舞」第2幕へ、招待されることになっている。
誰シラと出会って、もうすぐ1年だ。
リリイベ、処はBIGSTEP。
ここまで来たら、後は4階まで上がるだけ。そこには多くのアイドルが目指す、BIGCATがある。
大阪で最も格の高いライブハウスと言っていい。
大阪のオタクとしては、彼女たちをここで、迎え入れないワケにはいかない。
その時、その場に、晴れがましくいられる自分でありたい。名古屋でだって、どの会場でだって、同じことだ。
「誰もシラナイ。」
その名前の由来が、「かつては誰にも知られてなかったんだよ」と言えるその日まで、彼女たちの姿を見守って、一緒に過ごす時間を大切にしていきたい。そう強く思ったリリイベだった。
おめでとう。
これからも、よろしくね。