杉、米杉、そしてカラマツという外壁の選択肢
1)木の家を考えた時、皆さんはどのような素材が思いつくでしょうか?
昨今の木張りの家は主に和風スタイルでは杉板、洋風スタイルでは米杉だと思います。石川県などではアテという翌桧(アスナロ)の木が使われていますが、これは米杉の特性に似ていると言われております。杉板は安価ではありますが柔らかく水分で痛むこともあるので防腐剤と合わせたり焼きで表面処理をして使うことが多いです。米杉は檜に近い防虫成分があるので腐りにくく屋外で無塗装でも使える素材です。
2)まずは土地に根ざした木を使うこと
木が育った地域で使うと木の持ちがいいのは何となくわかる気がしませんか?確かにそれはあるようで日本海側で育った木を太平洋側で使うと無駄に収縮やそり曲がりが出てしまうようです。恐らく育った環境と異なる温湿度の影響を受けてしまうのではないかと思います。自分が住宅を設計している湘南では神奈川の山にも杉がありますが、林業としては規模が小さく材も十分な太さが足りず、製材所も小規模で十分な材の供給が継続的にできないのも実情です。そこで太平洋側に区分され環境も割と似ている松本エリアの信州カラマツを採用しています。
3)以前は米杉が主流だった湘南エリア
湘南エリアは新しいもの好きの文化があり、北米の米杉材もその格好良さからあっという間に木張の家の顔として広がっていきました。雨が多く温暖な環境で育った米杉は湘南にも似た環境にあり、その素材の防腐性能(ヒノキチオール)や空隙が多いことから断熱性の向上も図れる素材として好まれてきました。またタンニンも多く含まれ、水分と反応して黒く経年変化する米杉の家は湘南の風景の一部にもなりました。
4)石油コストや円安の影響により輸入材は手の届かないものに
東京オリンピック以降、外材は関税特例もあり米杉も含めて安くそして大量に仕入れられましたが、近年の石油価格上昇・円安の影響により国産材よりもはるかに高いものになってしまいました。しかもその間に日本の林業は衰退し国産材が必要なこの時期に対応できないだけでなく、値上がりした建材価格を下げないよう山から丸太供給を抑えるなどのネガティブな動きもあり、せっかくの機会を無駄にしてしまっているのが今の国内の現状です。その中でも信州のカラマツ林業は戦後の植林から適齢期を迎え、若手の林業家を中心に本当に必要としている供給先との関係を待ち望んでいました。
5)油分が多く、塗料のノリが良い信州カラマツは第三の建材として湘南から発信
自分たちが注目したのは信州カラマツは標高千m以上の過酷な環境で育つその生命力の強さです。生長の早い杉や米杉と比べて、貧しい土壌でじっくり耐えながら育ったカラマツは腐りにくいが曲がりなどの癖も強いので繊細さを求める日本の建材としては嫌がられましたが、乾燥技術の発達により癖を抑えたことにより耐久性のある建材として注目しました。まずはその油分による腐りにくさと硬さです。厳しい環境でじっくり育ったことにより木の細胞は閉じていて塗料を長く保持する特性も身につけているそうです。雨が多く温暖な気候で成長の早い米杉は細胞の開きも多く塗料も落ちやすいので主に素地で使われるのに対して、カラマツは塗料の持ちが良いという特性があるので色に拘りたいエンドユーザーには人気の建材となりました。また湿度も高く、台風や雨の多い湘南沿岸部でもその油分で対抗できるということから積極的に外壁材として活用してきました。
2008年から多くの住宅に信州カラマツを採用し、さまざまなカラーの外壁材を生み出してきました。そしてその経年変化は色の変化をももたらし、黒くなるだけの木の家に新たな味わいを生み出してきました。写真でも分かりますがその表面の風合いと浮き上がる年輪の美しさが信州カラマツの特徴でもあります。
6)木を切って使うことが生む本当の意味とは
国産の木を使うというのは誰でもできることです。しかし自分たちが信州という場所に拘るのは、それで以上の良いサイクルをもたらすからです。湘南から比較的近い場所にあることで足を運べるメリットはもちろん、木を買ったお金を山に還元し継続的なカラマツ林業を次世代に渡って支えられること、信州カラマツを育てた人たちと触れ合い植樹などを通してを顔の見える建材として愛着が湧くこと、また親の家づくりを見てカラマツを好きになった子ども世代が山への関心を深め将来に新しい力を生むこと、信州の木を海側から増やすことで木で彩られた日本らしい街の風景を取り戻せること、そしていつかは日本のカラマツを海外で使いたいというニーズが生まれることがあるのかなと思います。皆さんの家づくりを通してこのようなサイクルが一つでも生まれれば、家は”買うもの”ではなく”造るもの”という意味が大きくなり、ワクワクするものになるのではないでしょうか?