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芹沢長介は華がある。誰か映画化してください!

 先日noteに書いた「発掘捏造」に続いて、「発掘狂騒史」を読んだら、どんどん頭の中が脱線して行って、妄想が止まらなくなりました。



「発掘狂騒史」上原善広 著  新潮社

発掘狂騒史はこんな本です ↓ 

岩宿遺跡を発掘した在野の研究家、相澤忠洋。「旧石器の神様」と呼ばれた考古学者、芹沢長介。日本人の根源を辿る考古学界において、歴史を変えたその新発見は激しい学術論争、学閥抗争を巻き起こす。やがて沈殿した人間関係の澱は、日本を震撼させた「神の手」騒動に流れ着き――。微に入り細を穿つ徹底取材が生んだ骨太ノンフィクション。『石の虚塔 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち』改題。

新潮社 紹介ページより

 この本に出てくる主な登場人物は、
岩宿遺跡を発見した苦労人アマチュア発掘家 相沢忠洋。
2000年に世の中を大混乱に陥らせた自作自演の発掘家 藤村新一。
そしてその二人に深ーく関わった「旧石器の神様」芹沢長介。

芹沢長介は、華がある男

 この三人の中で、めちゃ華があるのが芹沢長介です。育ちが良くて教養が高く、頭脳明晰、容姿端麗、行動力もあり、考古学の分野で成功を遂げる一方、岩宿遺跡や「神の手」事件など、複雑な問題の当事者となりました。

 誰か、その芹沢長介の人生を映画化して欲しい。

 芹沢長介は、かの有名な人間国宝 芹沢銈介の長男です。柳宗悦と共に民芸運動でも有名ですね。私は芹沢銈介は知っていましたが、その長男が考古学の分野で有名な学者さんであったことは全然知りませんでした。

恵まれた子供時代

 芹沢家の長男であった長介は、子供の頃から洒落た洋装を着せられていたそうです。まだ和服が一般的だった時代、芸術家である父の用意したハイカラな服を着た長介は、さぞ目立ったことでしょう。容姿端麗で父譲りの画才もあったようです。
 そして旧制中学校一年の時、授業で出会った旧石器の虜になり、自分で郷土研究会を立ち上げるなど研究に熱中し出します。才気溢れる少年だったのですね。

最初の挫折・・・結核

 長介は、二十代の長い期間を結核との闘いで費やしています。入退院を繰り返し、抗生剤を「自分の体重ほど飲んだ」と後に語っていたとか。
 白皙の美青年が肺病を患って鬱々と過ごすというのは、本人には本当に申し訳ないけれど、絵面としてとても美しいと思いました。映画化するなら、この苦悩と同年代の若者たちに取り残されていく焦燥をじっくり描いてもらいたいです。

 その後なんとか病と折り合いをつけ、遅れた日々を取り戻すべく、写真の分野に進もうと土門拳に弟子入りするのですが、やはり体力の無さが致命的でまた挫折せざるを得ませんでした。
 そうですよね、私も写真家の知り合いが何人かいますが、彼らは物凄く体力があります。機材は重いし、辺鄙な場所で夜中からスタンバイして決定的瞬間を待ったりしてます。とてもか弱い美青年に務まる仕事ではないです。
 しかし土門拳のところでの修行は、後の考古学での撮影技術で活きてきます。人生、無駄なことというのは無いものだなと思いますね。

相沢忠洋との出会いと岩宿遺跡発掘、また杉原荘介との確執

 映画の前半山場はここでしょう。
 行商人でありながら、旧石器時代の遺跡発掘に血道をあげている相沢忠洋と長介が出会い、そして長介が相沢の発見した岩宿遺跡の価値に気が付きます。しかしながら、その功績は先輩である杉原荘介のものになっていく・・・。やがて二人の確執はどうしようもないものになり、長介は母校である明治大学を出て、東北大学に移ります。 
 
 長介が東北大に移ったと同じ頃から、やはり杉原に手柄を横取りされたと感じた(あるいは長介がそう思うように仕向けた)相沢も、長介と共にするようになっていきます。

 この長介と杉原の確執と別離は、研究の世界では、あるいはどのような世界でも、それぞれの信念が強ければ強いほど、避けられない道なのかもしれません。

 杉原荘介は動の情熱の男、そして長介は静かで冷静な男だったそうです。
 どうです? 二人のコンフリクトは絵になると思いませんか?

奥様との出会いと結婚

 長介が結婚したのは、同じ明治大学で考古学を勉強していた十七歳下の恵子夫人ですが、夫人は件の杉原の元で秘書もしていたらしいのです。このあたりのことは、あまり本には詳しくは書いてなかったのですが、イケメンの長介が自分の秘書をかっさらって行った時には、杉原はそれは面白くなかったでしょうね。「学生に手を出すなんて、何考えているんだ」と不満を周りに漏らしていたそうです。

 映画にはロマンスは付きものです。夫人は現在、芹沢銈介美術工芸館の名誉館長をなさっているということなので、ぜひ取材してそのあたりのエピソードを盛り込んでもらえたら嬉しいです。

 しかし奥様が考古学に明るいというのは、とても恵まれていますよね。普通の女性は、石器に命をかけるなんて理解できないでしょうけれど、同学の士であれば価値観を共有できます。家庭に理解者がいたというのは、きっととても幸運なことだったのだろうなと想像しました。

相沢との別れ、孤独、そして例の事件

 東北大に移った後、長介の学説を裏付けるような発見がなかなか無く、それにつれて学界でも孤独になっていきました。そして相沢の死。
 その後、在野の発掘家である藤村新一と出会い、藤村が「神の手」と言われるほど前期石器時代の発掘に続けて成功していく様(捏造)・・・・・・皆がそれに関わった、その狂気もぜひ描き出して欲しいです。

 本来であれば、長介が考えていたような石器とは違う形状のものが掘り出され、疑問に思うこともあったはずだと思うのですが、しかし現実には誰も藤村の発掘を否定せず、結局、みんなが踊った。

 事件が発覚した後の長介の苦しみ、悔い、そして迫る老いと情熱が変化していく様子も描写して欲しい。人というもののやるせない性をぜひ映画で謳って欲しい。

 関係者が沢山いらっしゃるので、なかなか実現するのは難しいことかもしれませんが、こんな映画的な題材は他にいないのでは。
 この本を読みながら今のアラフォーくらいの俳優だったら、誰がやったらいいのか、とか妄想が止まらなくなり、読む観点がどんどんズレていってしまいました。

 ごめんなさい。

 ここに書いたことは、物語の一例に過ぎず、もちろん芹沢長介の学説や、他の学者との関係等を深く硬派に描き出しても興味深いものになるかと思います。

 どこかの映画関係の方、題材を探しておられたら、ぜひ一度ご検討をよろしくお願いいたします。 


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