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カールコードに巻かれレて
俺は、財布をよく落とす。
今までの人生で、たくさん落としてきた。
落とした事に気付く度に、心臓が止まりそうになります。
映画「ロック・ストック・トゥー・スモーキング・バレルズ」で主人公がギャンブルで全財産をスッた時に、心の中でイギー・ポップ(ストゥージーズ)のアイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグが大音量で鳴り響くシーンがあるが、まさにあの感じだよ。命、削られるぜ。
失くした財布は、まったく出てこない事もあれば、金だけ抜かれて出てきたり、落としたときの状態で出てきたり、その再会は様々だ。だけど、ほとんどはまったく出てこないケースばかりだよ。もしかしたら亜空間に飛ばされているのかもしれない、俺の財布。
対策として、財布にカールコードをつける事にした。もう5年くらい財布にカールコードをつけている。ああ、わかってる。ダサいよな。でもこの5年間は財布を落としていないから、対策が功を奏していると言っていい。
なぜカールコードにしているかというと、ドクターフィールグッドの影響だ。彼らのライブ映像で、「ギターコードがカールコード」なのを見たからだ。
だけど、5年の間、誰からも「フィールグッドっぽいすね」とか「ウィルコ(ジョンソン)の影響っすか?」などと話しかけられた事は無い。
その代わり「私服刑事みたいっすね。アブナい刑事すか?」と聞かれる事はよくある。その度に俺は、不機嫌そうに「関係無いね」と吐き捨てることになる。
いいのさ、この世のどこかに、絶対に、俺の財布につけたカールコードを見て、心の中でウィルコのギターカッティングを響かせている輩がいるはずなんだ。そんな男への、俺なりの孤独のメッセージなんだよ!「タカ、タカ、ターカー、関係無いね、ウェイクアップ」って、心に恭兵の声を響かせてるやつらには、勝手にやってくれと言いたい。
ある時、田舎のパチンコ屋の換金所で並んでいる時に、前に並んでいたガテン系のニーチャンの携帯の着信音が、ポーグスだった事がある。こんなド田舎にポーグス好きがいる事に感動し、ニーチャンが携帯電話を切った後、思わず話しかけてしまった。
「ポーグス最高っすよね!」
「ああ?」
「いや、あんたの着信音、ポーグスでしょ」
「あ〜あ」
「シェーン最高っすよね!」
「ああ!」
「今度、どっかであったら一杯おごるよ!」
「ああ〜」
「(あ、しか言えんのかい)」
あいつにまだ、あの時の一杯奢る約束を果たせていない。駅前のアイリッシュパブに行く時は、一応、いつもおまえの姿を探してるんだぜ。
最近は、財布の代わりにスマホを落とすようになった。スマホの対策については、いずれ考えなければなるまい。