NO ONE KNOWS
「学園祭で女子達が軽音部にやたらキャーキャー騒ぎすぎて不公平問題」って事で、生徒会長のスギヤマ君から、我がオモシロ研究会にその対策についての相談が入った。
「やっぱあれじゃね?軽音部の奴らに対抗して、アテぶりのバンドでも出したら?」
「アテぶり?」
「ああ、わかりやすく言うと、ゴールデン・ボンバーみたいなヤツよ」
「いいネ!」
って事で話がトントン拍子で進み、前夜祭にて「ブリ・ロックフェスティバル'21」というアテぶりバンドだけを集めたロックフェスが開催される事になった。
当然、我がオモシロ研究会でも参戦する事になり、我々がコピーするバンドを、誰にも相談せずに部長特権でクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジに決めた。
理由は、俺の見た目がまんまジョシュ・オムだからだ。
俺は見た目を更にジョシュ・オム化する為、体重を20kg増量するという「ジョシュ・オム・アプローチ」を敢行。俺の下半身を包む漆黒の革パンは、見事なまでにピッチピチに膨れ上がった。
そして、オモシロ研究会新入部員のサイトウ君を「濃い顔に長髪」という理由だけでデイブ・グロール役に、同じくコバヤシ君を「高校生なのにヒゲが濃い」という理由だけでニック・オリヴェリ役に、で、もう一人のギターは、「個性が無く地味」という理由だけでヨシダにお願いした。
早速、課題曲であるNO ONE KNOWSを、放課後にPVを見ながら猛練習。その甲斐あって、いい具合に仕上がった。
ブリ・ロックフェス本番の出演順を決めるオーディション当日、よく伸びた顎髭をたくわえたコバヤシ君はなんと、頭をスキンヘッドに仕上げてきてくれた。上半身を脱ぐと、コバヤシ君、バッキバキの筋肉をまとっているではないか!
コバヤシ君をニック役に選んで本当に良かった。俺は、「本当に感動した時にしか出さない」と部員達の間で恐れられている伝説の"両手握手"で、コバヤシ君の手をしっかりと握り締めた。
行ける。これは絶対にグリーン・ステージのトリだ。
結果は、レッドマーキー(理科室)の一発目。
なんでやねん?!
「生徒会、センス無いわ〜。なんで俺らがレッドマーキー(理科室)やねん。せめてホワイト・ステージ(体育館)やろ〜」
「ちなみにグリーン(校庭)のトリは?」
「XJAPAN。んで、トリ前がクイーン」
「それ、まんま年末の紅白に出てた人選じゃん。生徒会マジで終わってるだろ」
「なんでそんな産業ロックに負けたんだ?」
「やっぱあれじゃね?鹿がいなかったからじゃない」
「あ〜。鹿な」
「鹿だわ。観客みんな、いつ鹿出てくんのかなー?ってなっちゃって、曲が終わって、なんだよ、鹿出ないんかーい、みたいな」
「鹿か〜。盲点だったわ」
「いや・・・」
「何だよ?ヨシダ」
「・・・誰も知らない」
「え?」
「マイナーすぎて誰も知らないんだよ。このバンド」
「・・・まあ、第1回フジロックのサザンカルチャー・オン・ザ・スキッズみたいに、「無名の奴らでバカ盛り上がり」みたいな例もあるからね。とりあえず頑張ろうや」
「その事実も、誰も知らないから」
「ヨシダ、お前、さっきからなんなんだよ!文句があるなら、お前、抜けろや。そしたら3人でニルバーナやるから」
「いや、僕(デイブ)以外は、ニルバーナ完全に無理あるでしょ」
「じゃあ、部長がクリスで、コバヤシがパット・スメアでいいですよ。俺がカートやります」
「ヨシダ、テメー、ふざけんなよ」
「ヨシダ君」
「はい?」
「君、鹿やってくれ。ていうか、お前は今日から鹿だ」
俺は両手でしっかりとヨシダの手を握りしめた。
2年後、サイトウ君はフー・ファイターズのボーカル役として、ブリロックフェスのグリーンステージのトリを張った。
コバヤシ君はコワモテのルックスを活かし、高級クラブのバウンサーになった。
ヨシダは鹿が大ウケした事でお笑いに開眼し、鹿の剥製を頭にかぶったピン芸人になった。
スギヤマ君は仕事が早い教師になって、色んな学校でブリロックを企画している。
俺はというと、最近では心が無い時でも躊躇なく両手で握手ができるセールスマンになった。
見た目は相変わらずジョシュ・オムだが、未だにその事実を誰からも指摘された事は無い。