私立デフジャム高校ヒップホップ部
よお、よお、よお。あん時、ラジオから流れてきたランDMCのウォークジスウェイっつう曲には、まったく度肝を抜かれちまったぜ。とにかく、俺が今まで生きてて、こんなにカッチョイイ音楽って聞いた事なかったからね。ラップっつうの?ラップっつったら俺、ワム・ラップ一択だったからね。
あ?サランラップって言うと思った?
で、ウォークジスウェイのイントロの、「チーたったラッタッタ、チーたったズビズビズビズビ」の「ズビズビズビズビ」の所、あれどうやって音出してんのよ!っつって大騒ぎになったよね。何よ?あのノイズっぽいカッチョいい音は。
で、すぐ駅前のレンタルレコード屋「ユーandアイ」にレコード借りに行ったのよ。そんで、レコードジャケット見てびっくりしたよ。ランDMCって黒人なのね。この人達、ラップも歌も両方うめ〜な〜って。
そんで、そのレコードジャケットがさあ、ガタイのデカイ黒人の三人組が写ってて、真ん中のメガネの人が「行くな、行くな」って他の2人を制止してる写真なんだよね。
まるで両脇の2人が誰かぶん殴りに行こうとしてるのを、真ん中のマジメなメガネの人が止めてる感じ?
だけど、足元見ると全員アディダスの靴紐外して履いてんだよね。「何これ?カッチョいいな!」っつって、俺もたまたま持ってた白いスタンスミスの靴紐、速攻外したからね。でも、なんか履きづらくて仕方ねぇんだよ。ちょっと歩くと脱げちまうの。でもランDMCもやってるからなっつって、スタンスミス脱げないようにいつもゆっくりゆっくりスローモーションみたいに気をつけて歩いてるよ。
んで、大阪から転校してきた玉井君が、赤いジャージにカンガルーのロゴマークが入った赤い帽子被って昔のデカいラジカセ肩で担いで歩いてたから、
「玉井君、何よ、その格好は?」
って聞いたら、
「これ、L.L.COOL Jやん」
っつうから、「何それ?」ってなって、
玉井君曰く今一番イケてるラッパーだって。
俺が、
「イケてるラッパーっつったらランDMCでしょうよ?」
って言ったら、
「とりあえずこれ聴け」
っつって、持ってたデカいラジカセでロック・ザ・ベルって曲を聞かせてくれて、これがまたカッコよくてぶっ飛んだね。
で、「このランDMCのウォークジスエイのイントロのズビズビズビズビと同じ、キュワキュワッって音って何なの?」
って聞いたら、玉井君はヘラヘラ笑って
「スクラッチやね」
と言ったのよ。
んで続けて、
「明日のベストヒットUSAでランDMCのビデオ流れるはずやから、見〜や。最初にスクラッチしてる映像出てくるから、絶対に見逃したらアカンで」
って教えてくれたのよ。
土曜日の夜はオヤジがプロ野球ニュースを見るから、あらかじめVHSの3倍モードでタイマー予約録画しておいたベストヒットUSAを、翌日、笑っていいとも特大号の最後の嵐山光三郎の枯れたメッセージが終わった後に、ドキドキしながらチェックしたんだよ。ビデオ再生して、また驚いちまったね。ランDMCのメンバーの中に白人いるのね。このハスキーな声、この人が歌ってたのか!この人らも、ヒョロヒョロに細くてカッチョいいな〜。
玉井君が教えてくれたスクラッチってやつが、レコードを擦って音を出してるって事実よりも、ランDMCのボーカルとギターの人がヒョロヒョロした白人で、やたらカッチョいい事に衝撃受けちゃったんだよね。
次の日、学校で玉井君に話したら、あれはエアロスミスっていうバンドのオッサン達で、ランDMCのメンバーではない事、ヒップホップのアーティストはサンプリングっつって昔のレコードから音源をかっぱらってるんやでって教えてくれた。玉井君、色々知っててスゲーな〜。俺、FMファンって雑誌の鮎川誠さんのコラムからしか洋楽の情報取れてないからね。
玉井君はヘラヘラ笑いながら、
「自分、ヒップホップに興味があるならこれ見てや」
って、タイトルの所に「ワイルドスタイル」って汚い字でなぐり書きしてあるVHSを貸してくれた。
家に帰って再生して、ぶっ飛んだよ。荒れた画面の中、草原で金髪のオネーサンと馬がXXXしている映像が飛び込んできたからね。思わず即効停止ボタン押して、テープを巻き戻しちゃったよね。テープが巻き戻ってキュルキュルいってる音がスクラッチの音みたいで、「この音が諸行無常の響きっつうのかな・・・」ってシミジミしちゃったよね。
んで、エアロスミスのレコードでもレンタルレコード「ユーandアイ」に借りに行こうかなって外に出たら、スタンスミスが思ったより足ごたえがなくて、前につんのめりに転んじゃったよね。やっぱり紐が無いスニーカーは歩きづらいわ。よお、よお、よお。
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