始まりは終わるけれど〜YOASOBI 1st LIVE 「KEEP OUT THEATER」ライブレポート
2022年2月14日
バレンタインデーが暮れた夕刻と真夜中の狭間。
闇の中を、廃墟のような武骨な建物に向かう足並みが映し出された。
エレベーターに力強く立つそこだけで、高揚感が湧いてくる。
その短い間に、さりげなく円陣が組まれ、始まりを確かめ合う。
信頼した笑顔が、垣間見える。
扉の開いたエレベーターから、最後に2人が降り立つ。柔らかい笑顔で、歩きながら肘タッチ。
始まるんだ。いよいよ。
外は360° 、宵に鎮座したビル灯りの街並み。
夜の世界。
瞬く間に多くの人の心を掴んだ、その名だけが黒の中に浮かび上がるネオンサイン。
『あの夢をなぞって』
ikuraちゃんの声が、優しく響いた。
最初のフレーズを語るように、話すように歌い出す。
そのストーリーを彩る花火が、都会のビルの鉄骨に花開き、消えていく。儚い夢のようだが、はっきり聞こえた言葉の未来に救われる。
「ようこそ、一緒に盛り上がっていきましょう。」
ikuraちゃんが、誘う。
剥き出しの鉄色の骨、コンクリートの灰色の世界で、作りかけの世界で。
『ハルジオン』
一転して、蛍光灯が下の方で不規則にチカチカと点滅し、過去と現在、幻影と現実の差から目を逸らすような歌詞を思わせる。
Ayaseくんのキーボードを囲うライトが、境界線に見えた。
『MC』
ステージ全体に、ゆっくり灯りがつく。
それと共に、メンバーに笑顔が広がった。
緊張をほぐしながら、ikuraちゃんとAyaseくんが話し出す。
半年間、この日のために用意した充実感。
ここは、新宿ミラノ座の跡地で、新たな劇場の建設中の八階だと。
立入禁止の中に潜り込むのも、YOASOBIらしいと。
確かに、幼い頃に友達だけの内緒で忍び込んだ秘密基地に、連れて来てもらった気分だ。
ネットに繋がっていると、チャットに目を向ける。「オシャレ」というコメントに喜んだ。
空間だけでなく、衣装にもこだわった話をしてくれた。
白のMAー1を自分で、スプレーで自分の色に染めたと。世界で一つ。
同じ人がいないように、一人一人を認めて自分らしさを大切にしたいというメッセージに見えた。
そんな話の合間に回線が不通になる瞬間があったりと、リアルタイム感と共に、お客さんと仲良くなりたいという思いが伝えられた。
夜遊びの仲間を知りたい、親しみやすい雰囲気。
『たぶん』
オレンジに染まったスモークがたち込めてきた。ほんのりした朝を思わせる。
遠い上に、手を伸ばす。
重ねた時間と、寂しさと微かな期待を表現して。
『ハルカ』
今度は、青とピンクに満たされた。
そのカラフルさが、思い出と人を想う幸せのようだ。
話すように歌い、目を閉じて、祈りの言葉を送った。
『MC』
ハルカがマグカップの物語だからと、メンバーはそれぞれのマグカップを用意していた。
私達にも、準備できるかと問いかけながら、待ってくれている間に、中身の確認をする。ノンアルコールビール、りょくのお茶、コーヒーなメンバーには、朝に余裕のある人だと盛り上がる。
と、ikuraちゃんが何かわからないと飲んでしまう。
ツッコミにあいながらも、りょくのお茶だと。
お茶目な一面に、ほっこりしながら乾杯!
画面の向こうの私達にも、乾杯!
「後半もがんばっていこう!」と気合いを入れるも、「今、日本で一番、アーって響いたね。」の言葉が笑いを誘う。
『怪物』
大切な心にあるものを解き放っている曲だと紹介して、始まった。
逆光のスモークに覆われ、影に隠れる。
青とピンクがチカチカと迷走する心情が、怪しく目をひく。
本当の僕はなんだ 教えてくれよ
僕が僕でいられるように
周りに言えない葛藤をさらけ出せるよう背中を押す。
『Prologue』
疾走感を増した余韻の中を、オレンジが包み、「明日も明後日も、音楽が鳴り続けますように。」祈りの声。
『アンコール』
薄く底に雲海が漂う。崩れる砂のように、世界が終わるなら、思い出と共に好きな音を鳴らそうと、青く光が差し込む。
輝いている中、終わりに向けて音を続けながらも、もし終わらなかったら。
なんて とつぶやいた。
『MC』
これまでの感謝を語り始めたikuraちゃん。
終わるのが寂しいと。大きく変わった一年に、振り落とされないようにと、怖かったと。
でも一人ではなかったと気付いていた。
Ayaseくんも繋げる。
四人で始まり、辛かった日々。それがいろいろな人が集まり、こんなになるとはと。
始まったら終わるけど、始まるためにやってきた。
その始まりから、大切に共にきた曲が鳴る。
『夜に駆ける』
ビートに合わせたエレクトリカルな点滅が、ここまで走り続けてきたメンバーを照らす。
はやる心と投げやりになりそうな相反する中で、生きる人々を代弁するように。
『群青』
廃墟の中に、白い光が戻る。
笑顔で手拍子を始め、私達にもとその目が言っている。
一緒に、みんなで歌おうと。
あなたの本当の声も、響かせてと。
メンバー一人一人のそばに行き、歌う。
最後に、目を合わせる二人の姿に絆を感じる。
もう大丈夫、ありのまま楽しむだけだと。
始まりは終わるけれど。
それは達成感と寂しさが交差するけれど。
アンコールとありがとうと再会への希望と拍手が、チャットに流れ続け溢れ出していた。
仲間に話すように、思いを明かせる友として、夜遊びの基地に集ったみんなに、心を開いてくれた。
それはきちんと画面を通しても伝わり、みんなが確かに、そこにいた。
ikuraちゃんが望んだ、友達として。