『MY STARWAY』と『SHINING LINE』——「わたし」のメロディとしての引用について
・『START DASH SENSATION』の転調について
本題に入る前に『START DASH SENSATION』のCメロにおける『SHINING LINE』の引用について簡単に触れておきたい。これについては他の方が書かれた記事があり、本当はそちらを読んでいただくのが一番良いのだが、消えてしまって引用することができないので僭越ながらここに付記させていただく。
石濱翔楽曲のよくあるパターンとして、「Cメロで同主調の短調に転調する」というものがある。『ダイヤモンドハッピー』、『KIRA☆Power』、『SHINING LINE』などもその一例で、例えば『SHINING LINE』ならト長調(G Major)からト短調(G Minor)へと一時的に飛んでいる。
『START DASH SENSATION』はホ長調(E Major)の曲であり、通例どおり同主調のホ短調(E Minor)へと転調すれば、比較的簡単に『SHINING LINE』のメロディを引用することができる。なぜなら、ホ短調(E Minor)は『SHINING LINE』のキーであるト長調(G Major)の平行調にあたるからだ。ところが、『START DASH SENSATION』はわざわざその半音下の嬰ヘ長調(F# Major)へと転調している。ここには、星宮いちご達の一歩後ろを走る大空あかり達の姿が表現されていると考えられる。
お手元にCDをお持ちの方は、『SHINING LINE』の右に『START DASH SENSATION』のジャケットを並べてみて欲しい。いちご達によってバトンを渡された世代が今まさに走り出す、その姿が見えてくるはずである。
・『MY STARWAY』の“かけがえない”メロディ
『MY STARWAY』でも最後に『SHINING LINE』のメロディが引用されている。上記の『SHINING LINE』と『START DASH SENSATION』との関係を踏まえると、例えば『SHINING LINE』の半音上に飛んで卒業したいちご達の姿を表現したり、『START DASH SENSATION』の半音下に飛んで『アイカツ!』の後に続く「わたし」の姿を表現したり……というパターンが考えられそうなものだが、『MY STARWAY』はそのどちらでもない変ホ長調(E♭Major)で歌われている。
なるほど『MY STARWAY』は「わたし達」という人称を注意深く避けた単数形の歌なので、『SHINING LINE』とも『START DASH SENSATION』とも違う「わたし」の道として変ホ長調(E♭Major)が採用されたのかもしれない。また、変ホ長調(E♭Major)は『START DASH SENSATION』の転調前(ホ長調)の半音下でもあるので、やはり『アイカツ』からバトンを受け取った「わたし」の歌であるように思える。
だがそれだけではない。『MY STARWAY』は石濱翔楽曲の通例どおり、Cメロで同主調の短調である変ホ短調(E♭Minor)へと移行する。つまり、『START DASH SENSATION』Cメロの平行調へと移行するのである。
ここにひとつの意味が浮かび上がってくる。『MY STARWAY』は「わたし」の歌であり、いちごともあかりとも違う「わたし」の道を行く歌だ。それは『SHINING LINE』とも『START DASH SENSATION』とも違う地点から歌われている。しかし、その音が短調(マイナーキー)へと転び、「眠れない夜」が来てしまった時には、あのはじまりの日々とのつながりを確かに感じられる。「つながってるなってわかる」。このCメロを経由してから歌われる最後のメロディラインは、音楽的にもまさに「この道の先」として接続され、かけがえない意味を獲得している。
「今わたしが歩いてる “かけがえない” きらめくライン」。このメロディを口ずさむ時、その意味はきっと無意識のうちに伝わっているのだと思う。それは『アイカツ』からバトンを受け取った「わたし」が今どんな場所に立っていても、胸の中に確かにあるはずの、かけがえない「わたし」のメロディなのだ。暗い気持ちになってしまったり、自分を信じられなくなりそうな時には、きっと何度でも歌い確かめるのだろう。今わたしが歩いている道は、確かにあのかけがえない日々の先にあるのだと。であれば、この道の先のどこまでも、「わたし」は輝きを連れていけるはずだ。まだ知らない、どんな夢が待っていても。この道の先なら、きっと。
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