[WSH]クロスファイアー左腕 DJハーズ
DJ Herz (DJハーズ)は、高い奪三振能力を持つ左腕です。
K% は 28.5% と、先発左腕としては菊池雄星やCole Ragansらに並ぶトップクラスの数値を記録しています。
独特な投球フォーム
ハーズは非常に独特な投球フォームをしています。
かなりサイド寄りのスリークォーターで、リリースのタイミングもオーソドックスなものとは結構異なっているかと思います。
脚を上げてから、リリースするまでのタイミングが読みづらいのではないでしょうか。(筆者は野球経験がありませんので何となくです)
この独特のリリースは、自然とそうなったものであると本人は語っています。ハーズは、高校までバスケットボールやアメフトを多くプレーしており、野球のメカニクスに関するレッスンなどは受けたことがなかったそうです。それゆえに、この独自の投球フォームが生まれたようです。
ハーズのインタビュー↓
そんなDJハーズは、6月4日、NYM戦でメジャーデビューを果たしました。
結果は4回4失点でしたが、3回までは無失点に抑えるなど、上々の初登板だったと言えるでしょう。
MLB初先発を振り返るハーズ↓
メジャー初登板後のハーズのコメントです。
その後は、持ち前の奪三振能力を武器とし、マイナーでBB/9 7.32 と課題だった四球の多さも、昇格後はBB/9 3.7にまで改善するなど、着実にメジャーでの実績を積み上げていきました。
特に、6月16日のMIA戦・7月2日のNYM戦で、無四球での2桁奪三振を記録し、ストラスバーグ以来2人目となる、最初の6登板で無四球2桁奪三振試合を2度記録した投手となりました。
若き日のストラスバーグの記録を呼び覚ましたということが、ハーズのポテンシャルの高さを表していると思います。
最強のチェンジアップ
ハーズのチェンジアップは最も評価が高い球種となっています。
投球の質を評価する Stuff+ は 114 と非常に高い数値です。(チェンジアップの平均は95)
ハーズのチェンジアップはバルカンチェンジに近いものです。2021年に当時カブス傘下在籍時のピッチングコーディネーターだった、ケイシー・ジェイコブソン氏の提案のもと、握りを従来のサークルチェンジ(写真左)から、現在のバルカンチェンジ(同右)に変更しました。
ハーズは自身のチェンジアップについて、自分のピッチングをより良いものにしてくれたと語っています。
バルカンチェンジは、中指と薬指でボールを挟むのが特徴的です。
4シームより10マイル(16キロ)ほど遅く83マイルほどですが、多くの空振りを奪えるのが武器となっています。今季AAAでは空振り率 34.6% を記録しました。
実はそこまで機能していないチェンジアップ
ですが今のところ、チェンジアップの空振り率は 26.1% とあまり優秀とは言えない数字となっています。その要因として投げてるコースに問題があるかもしれません。
ゾーンを見ると、真ん中付近に多く集まっていることが分かります。質の高いチェンジアップであっても、真ん中付近に来たらさすがにバットに当たってしまうのでしょう。
この章をまとめると、
・チェンジアップの握りをバルカンチェンジに変更した
・より多くの空振りを奪えるチェンジアップとなり、ハーズ自身の躍進に繋がった。
・現状MLBでは、チェンジアップでの空振りが少なく、投げてるゾーンに問題があると思われる
空振りを量産する4シーム
そう、今のハーズの最大の武器は4シームです。空振り率 31.2% は左腕の先発投手ではGarrett Crochet につぐ2位の高水準です。(500球以上)
またRun Value も+9と4シームが有効に機能していることが分かります。
左のクロスファイアーから繰り出される高めの4シームだからこそ、多くの空振りを奪うことができるのでしょう。また、その独特な投球フォームも空振り増加に一役買っていると思います。
そんな素晴らしい4シームですが、意外にもStuff+93(fangraphs)とあまり高くありません。Stuff+は投球フォームの独自性などはあまり評価に入っていないようですが、それでもこの数字は意外でした。
では、他にハーズの4シームを有効にしている要因があるのでしょうか。
有効性は打者の左右で差が生じている
ここで、打者の左右別に4シームの Run Value を算出すると、
右打者には+9でしたが、左打者には0と明確に左右差がありました。
左右差が生じた要因は、変化球にあると思っています。
先ほど、ハーズのチェンジアップは非常に質が高いことに言及しました。
チェンジアップ自体は、あまり有効に機能していませんが、それでもチェンジアップの質が非常に高いことは事実です。
右打者は、チェンジアップを警戒しているため、4シームがより効いているのではないでしょうか。
裏を返すと、左打者に投げるスライダーはあまり機能していないと言うことになるのかもしれません。
次からはスライダーを見ていきましょう。
スライダーのリリースを改善したい
スライダーは、ハーズ の弱点になっています。Run Value -2, whiff% 27.5%, 被wOBA .322 といずれも良い数字とは言えません。
スライダーが効果的でない要因として、スライダーのリリースが不安定であることが挙げられます。
下記の画像は、各球種の回転軸を表したものです。黄色のスライダーが回転軸がバラバラなのが分かるかと思います。
比較のために、マッケンジー・ゴアの画像と比較します。ゴアの方が回転軸のばらつきは少ないですね。
スライダーの回転軸が定まっていないため、変化量が定まっていません。
スライダーと言えば、利き手と逆方向に変化するものですが、ハーズの場合、スライダーの46%が利き手方向=シュートする軌道になっています。スライダーなのにスライドしてないとは…やはり、リリースを安定させたいですね。
また、制球も定まっていません。下記の画像を見てもらうと、大きくバラついていますし、ゾーン真ん中に集まってしまっています。リリースが安定するようになれば、制球も自ずと定まるようになると思うので、やはりリリースの安定が不可欠でしょう。
対左への被OPS .694 は、対右の.654 と比較してやや悪いです。
スライダーが安定するようになれば、左打者への成績もさらに良くなっていくのではないでしょうか。
まとめると、
・スライダーのリリースが安定していないため、スライダーがシュートしがち
・制球も定まっていない
・リリースが安定すれば、変化量も安定し、制球も定まるのではないか
総括
ハーズは高い奪三振能力があり、四球癖もメジャーでは改善傾向にある
とても優秀なチェンジアップを持っており、高めの4シームとの相乗効果によって、右打者を抑えることができている
スライダーのリリースが不安定な点は課題→安定すれば対左にさらに有効になるかも
自身のペースをつかむこと
DJハーズはMLBの舞台にたどり着き、そして大舞台で活躍するために全力を尽くしてきました。そして、実際にMLBの舞台に立ったのです。
そんな全力を尽くしてきたハーズですが、ほどよい力加減で投げるという感覚はやや足りていませんでした。
その感覚が不足していたためか、今シーズンAAAでの最初の20イニングで24与四球と、序盤は制球難に苦しみます。
そこでハーズは、ナショナルズのメンタル・パフォーマンス・ディレクターであるアダム・ライト氏と一緒に、上がりがちな自分のペースを落とすように努力しました。
ペースが上がっていると感じたら5つ数えたり、ボールを交換したり、プレートを外したりして、ペースが速くなりすぎないようにしていました。
加えてハーズは呼吸も意識しており、心拍数が高くなりすぎないようにしていました。以下はハーズの高校時代の監督であるサム・ガイ氏の発言です。
最初の2試合で見えた課題を克服し、呼吸を整えることで鼓動を抑えるようにしたハーズ。自分の中でのペースをつかむことができた6/17のマーリンズ戦で、ハーズは6回無失点13Kの快投を見せたのです。
まだルーキーシーズンを終えたばかりのハーズ。長期にわたって活躍し続けることは至難の業です。
ですが、自身の武器である奪三振能力、課題克服力を活かしてナショナルズのローテの一角として貢献していってほしいですね。
参考
ワシントン・ポスト, 「The secret to DJ Herz’s success? Remembering to breathe.」
https://www.washingtonpost.com/sports/2024/06/18/dj-herz-pitching-nerves/
ワシントン・ポスト, 「DJ Herz and the Vulcan change-up that changed his career」
https://www.washingtonpost.com/sports/2023/11/14/dj-herz-changeup-grip/
↓今回直接の引用はしていませんが、チェンジアップを理解する一助となりました。
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