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来週の相場見通し(9/2~9/6)①
1.はじめに
来週は、今年で最も重要な週の1つになるかもしれない。言うまでもなく、市場は米国の労働市場の動向にナーバスになっている。前回の雇用統計は、市場に大きなショックを及ぼした。サームルールなる言葉も一人歩きした。その後は様々な労働関連データから、過度な米国景気後退懸念は払拭されているものの、来週の一連の経済指標次第では、再び景気後退懸念がゾンビのように復活してくる可能性は十分ある。米国雇用統計が遅行指標であるなら、先行指標としてのISM関連指標も要注目だ。7月のISM製造業指数は46.8まで低下した。この指数が50を割れることはよくあるが、45を割り込むことは珍しく、43まで低下すれば、景気後退レベルだ。この8月の数字がサプライズ的に45を割り込むようなことがあれば、市場は動揺するだろう。しかも、「9月相場」という米国株式市場においては警戒すべきタイミングであり、来週の経済指標が適度なものか、あるいはサプライズ的に悲観的なものになるかで、9月の相場がどのように推移するかの趨勢が決まると言っても過言ではないかもしれない。
今回は、2回に分けて、この9月相場のポイントを整理したい。
2.米国の利下げサイクル開始
ようやく米国が利下げサイクルに入りそうだ。市場参加者は、どれだけ待ち望んできたことか。下のチャートのように2022年3月から開始された強烈な利上げは、2023年7月に最後の利上げを行うまでに525bp引き上げられた。この9月に利下げを開始するとなると、最後の利上げから14ヶ月で利下げサイクルに入ることになる。過去5回の最後の利上げから最初の利下げへの平均期間は11ヶ月間なので、平均より少し長い程度だが、体感的には「ようやくか・・・」という感じだろう。それだけ、この数年のインフレとの戦いは市場参加者にとっても経験のないほど激しいものだった。
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今回は、まず過去7回の初回利下げの状況を確認しておきたい。初回の利下げの幅が25bpであったのは、下の3回である。非常に興味深いことに、初回利下げが25bpであった利下げ局面は、結果として「短くて浅い利下げ」で終わっていることが分かる。いずれも25bp利下げが3回、累積利下げ幅75bpで利上げ局面は終了しており、利下げ期間も1年以内である。
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次に初回の利下げ幅が50bp以上であった局面だ。2007年~2008年の利下げ局面は、一般的には一連の利下げと捉えられることが多いが、私は2007年9月~2008年4月までの利下げ局面と、2008年9月の金融危機後の利下げ局面は、市場環境が大きく異なると考えるため、別の利下げステージとして分けている。下の表を見てみよう。
この2つの利下げ局面は、市場がパニック状態ではない局面で50bp以上の利下げが行われた事例だ。累積の利下げ幅はかなり大きくなっており、「長くて深い利下げ」局面であったことが分かる。
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最後はパニック相場における利下げである。2020年3月はコロナショック、2008年10月は世界金融危機だ。利下げ期間は短いが、これはもう伝統的な利下げ水準の限界まで達したためで、その後は非伝統的な金融政策が実施されている。つまり、危機の際には、FF金利の下限までどすんと引き下げ、それ以降は金利引き下げではなく、流動性供給や量的金融緩和で市場をサポートしてきたのだ。
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ここまでの振り返りで分かることは、初回の利下げ幅が25bpの局面と、50bp以上の利下げ幅になるケースでは、過去においてはその後の利下げストーリーが全く異なっているということだ。下のチャートは、現在の市場のFF金利の利下げ織り込みだ。9月の25bpの利下げは100%想定されており、50bp利下げが3割ほど織り込まれている。つまり、現段階では25bpの初回利下げのほうがコンセンサスであるということだ。それにも関わらず、市場ではその後も段階的に利下げが行われ、来年の7月までには8回の利下げが100%織り込まれている。これは、過去の利下げに照らせば、かなり異例のことであり、景気後退シナリオに近い状況が見込まれているとも言える。要するにソフトランディングをベースにすれば、織り込みすぎなのだ。あるいは、ソフトランディング下におけるこの利下げシナリオが正当化されるとそれば、インフレというのは一過性のものであり、2010年代のようなディスインフレ状態に戻る場合だろう。
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次にそれぞれの利下げ局面の経済インパクトを確認する。それが下の表である。
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例えば2020年3月のコロナショック時は利下げは1回(1ヶ月間)だけだったが、就業者数は2千2百万人以上も減少し、失業率は10.4%も急上昇した。パンデミックによるロックダウンの凄まじさが分かる。これに対して、2019年7月に開始された利下げ局面は4カ月間継続したが、この間に就業者数は1百万人増加し、失業率は僅かに低下している。新規失業保険申請者数は25千人ほど増加した。ISM製造業指数は2.9pt低下した一方で、ISMサービス業は僅かに改善している。経済はソフトランディングしている状態が示されている。初回の利下げが25bpであった2019年、1998年、1995年と他の局面では、経済インパクトもかなり異なることが分かるだろう。
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下の表は一連の利下げ局面において、最後の利下げが行われた月のFF金利の水準と2年金利の水準、更には中立金利の水準との関係を示している。例えば2019年7月からの利下げ局面では、10月に最後の利下げが行われ、FF金利は1.75%となった。この10月の2年金利は1.52%であり、FF金利を20bpほど下回ったということだ。また、その時の中立金利は2.5%であったことから、FRBは中立金利よりも75bpほど低い水準までFF金利を引き下げたということだ。中立金利については、2019年と2020年はFRBのロンガーランを使用している。ロンガーランは2012年以前は公表がないため、代わりにNY連銀の自然利子率推定値に物価目標の2%を足したものを使用している。2000年より前については物価目標として2.5%を足している。
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上の表からは、過去の利下げ局面では、FRBは中立金利よりも低く、FF金利を引き下げていることが分かる。また最後の利下げ時には、2年金利はFF金利を下回っていることが多く、市場は更なる利下げを見込んでいるようだ。先ほど、現在の市場は利下げを織り込み過ぎている可能性があることを指摘したが、一方で現在のFF金利は5.25%~5.5%であり、現在のFRBのロンガーランの2.75%から大きく乖離している。従って、今後のFOMCで中立金利が仮に3%まで上方修正されたとしても、250bpもの乖離幅がある。これは25bpの利下げの10回分である。従って、現在のFF金利の水準があまりに懲罰的であるため、ソフトランディングシナリオでも、「深くて長い」利下げ局面になる可能性はあり得る。しかし、ディスインフレ下のFF金利と中立金利の関係と、インフレ時代の関係は異なるかもしれない。また一部の有識者が指摘するように自然利子率が大きく上昇して2%~2.5%程度であり、インフレ目標も2%~2.5%程度のレンジという状況が望ましいとするのであれば、FF金利は4%台前半までしか引き下げられない可能性もある。これは、今後の大きな論点になるだろう。
それにしても、米国経済は底堅い。下のチャートは、実質FF金利を示している。FRBの利上げは昨年の7月に打ち止めとなったが、それ以降も実質のFF金利は上がり続けている。これはインフレが鈍化しているためだ。実質FFレートは、FFレートからインフレ率を引いたものだ。インフレ率に何を使用するかは色々あるが、ここではコアCPIを使用している。つまり、FRBが利上げを打ち止めた後も、金利面からの抑制的な金利環境は強まっているにも関わらず、経済はそれなりに推移しているのだ。
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下のチャートは、実質FF金利の長期チャートであり、赤い網掛け丸の部分が過去の利下げ局面だ。これを見ると、FRBの利下げが遅れたとも見えない。ちょうど良いタイミングで利下げを開始するのではないだろうか。
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最後に利下げ開始時のイールドカーブを確認しておこう。まずは初回の利下げ幅が25bpであった3回の事例だ。利下げが開始される頃には、10年金利と2年金利はほぼフラットに近い状況である。そして、利下げ終了時もあまりイールドカーブの形状は変化していないことが分かる。
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下のチャートは10年金利と2年金利のスプレッドである。長期間の逆イールドが継続してきたが、足元ではほぼフラットに改善している。
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次に初回の利下げ50bp以上であった事例だ。10年金利と2年金利のスプレッドが50bp以上あった段階から、利下げの最終局では200bp以上に大きく拡大している。
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パニック相場の時は、突然市場が悪化するのでケースバイケースだろう。
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これまでの論点をまとめよう。
・過去の初回利下げ幅が25bpであった利下げ局面は、いずれも「浅くて短い」利下げ局面で終了した。
・現在の市場は、ソフトランディングを織り込んでいるのに、利下げサイクルについては、「深くて長い」利下げを織り込んでいる。
・過去の初回25bpの利下げ局面では、米国労働市場は悪化していない。従って、やはり米国労働市場の動向が非常に重要。
・今回が過去の利下げ局面と異なるのは、FF金利が中立金利の水準よりも、かなり乖離した水準にあること。FRBの中立金利が正しいのであれば、ソフトランディング下でも「深くて長い」利下げ局面となるかもしれない。
・但し、ディスインフレの世界ではFRBは中立金利に向けて利下げを急いだが、インフレ環境の世界では異なる対応をする可能性もある。ディスインフレの世界に回帰しているのか、または新しい高圧的なインフレの世界が継続するのかは市場でも意見が分かれている。
・景気後退になれば、ストーリーは簡単で、FRBは大幅は利下げをするだけ。ソフトランディング下の金融環境こそが、相場展開を読むのが非常に難しい。
前半は以上です。後半では株式市場と来週のポイントを取り上げます。
引き続き、大雨にご注意を!