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シン・BRICSについて

1.ヨハネスブルグ宣言

今回は、第15回BRICS首脳会議で、メンバーが拡大したBRICSについて取り上げる。南アフリカのヨハネスブルグで開催されたことから、今回の首脳会議での決定事項は、「ヨハネスブルグ宣言」と称されている。ちなみに、様々な経済協力を含む94項目が決まっている。
もちろん、最大の注目は6ヵ国の新規加盟が認められたことだ。正式には2024年1月に加わることになる。新たなメンバーは、アルゼンチン、イラン、UAE、サウジアラビア、エジプト、エチオピアである。これでBRICSは11か国になった。私は、これを「シン・BRICS」と呼んでいる。
ちなみに、下の図を見てほしい。BRICS拡大会議のメンバーや、既にBRICS加盟申請国などの状況を見ると、シン・BRICSはまだまだ発展途上にあり、これからもメンバーは拡大し、ますます存在感が高まっていくことだろう。

2.シン・BRICSの影響力

シン・BRICS加盟国の人口は、約36億人超となり、世界人口に占める割合は約47%弱である。今回の新規加盟国の人口は以下の通りで、3.5億人超が新たに加わったことになる。

エジプト・・104百万人
エチオピア・・104百万人
イラン・・・85百万人
アルゼンチン・・・46百万人
サウジアラビア・・・35百万人
UAE・・・10百万人

下の表はGDPや貿易額をまとめたものだ。

(※上の表で 人口について新BRICSと旧BRICSの数値が反対です。ご注意ください)

こうして俯瞰すると、BRICSの旧加盟国自体の存在も2015年から2022年の比較で大きく成長しているなか、今回の加盟国の拡大で更にパワーアップしていることが分かる。

(世界全体に占める割合)

国土面積は、世界全体の36%を占め、同時に耕地面積でも37%を占める。従って、下の表のように農業、穀物分野では圧倒的な支配力を持つ。

(世界全体に占める比率)

今回の加盟国拡大では、特にサウジアラビアなど中東諸国が加入したことで、エネルギー分野の存在感も高まった。原油の輸出は14%から40%に拡大している。

(世界全体に占める割合)

ESG分野でも、シン・BRICSの二酸化炭素排出量は世界全体の51%を占める。気候変動の議論は、シン・BRICS国を巻き込まないと、何の効果もないことになる。また、自動車販売台数の比率は、これから50%を超えていくだろう。非常に重要なマーケットということでもある。

最後に政治的な影響力であるが、ブラジルの推薦もあり、南米からアルゼンチンが選ばれたことで、南米の2大国が加盟したことになる。もっともアルゼンチンは、10月の大統領選で親米政権が誕生する可能性があり、その場合には24年からの加盟を取りやめるかもしれない。

アフリカではエチオピアが加盟した。同国は、中国と非常に関係が深いことで知られる。エジプトはロシアと関係が深い国で、かつBRICSの新開発銀行の株主である。いずれアフリカ最大の経済国であるナイジェリアも加われば、アフリカでもシン・BRICSの影響力は極めて強くなることだろう。

そして、今回の拡大メンバーでは、中東勢が目立った。サウジアラビアは中東の盟主であり、UAEは中東の経済のハブであるほか、近年は積極的な全方位外交で存在感が目立つ国だ。イランは中東で最も人口の多い国であり、1979年以降、ガチンコでアメリカと対立してきた猛者だ。サウジアラビアとの国交を回復し、ウクライナ戦争ではロシアにドローンを輸出して助けている。もちろん、核開発に最も近い国の1つでもある。
そして、こうしたシン・BRICSのリーダーは、誰がどう見ても中国である。習近平政権の「一帯一路戦略」や、「グローバル安全保障イニシアチブ」、「ドル決済に代替する貿易圏構想」などは、全てこのシン・BRICS主導で展開されることになる。習近平主席は、G7などを「小さなグループ」と称する。9月のインドでのG20には、ついに出席するせずに、李強首相を代理出席させるとのことだ。習近平主席は、これから出席する会議を選別していくのだろう。そして、習近平が自ら出席する国際会議こそが、世界で最も注目される会議に仕立てあげていくと思われる。新たな世界秩序は、シン・BRICS首脳会議で進めていく。そんな世界戦略が展開されているのかもしれない。


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