来週の相場見通し(11/4~11/8) ダイジェスト版
1.米国大統領選迫る
・米国大統領選がいよいよ迫っている。大勢は日本時間の6日の午後には判明するが、今回は接戦のため、各州による再集計が行われることは必至のため、最終的な勝利者の確定には1週間くらいかかるかもしれない。
・今回の選挙戦は異例中の異例だった。高齢のバイデン大統領が、7月に急遽選挙戦から撤退して、カマラ・ハリス氏に交代したり、様々な疑惑で訴えられ、有罪判決も受けているトランプ氏が共和党候補者になったり、そのトランプ氏が暗殺未遂事件で九死に一生を得たりと、様々なドラマが生まれている。
・選挙戦の情勢は、9月中旬まではハリス氏が優勢、その後9月下旬から10月にかけてハリス氏の勢いが失速し、トランプ氏が猛追して、遂には逆転する。10月中旬にはトランプ氏が激戦7州で全てリードした。しかし、この選挙戦直前では、ハリス氏の勢いが盛り返すなど、最後までどちらが優勢か不明な接戦で当日を迎える様相だ。
・こうした米国大統領選をにらみ、米国の債券市場では金利が大きく上昇している。2年金利は4.2%近辺、10年金利は4.4%近辺まで上昇してきた。どちらの大統領になっても財政拡張政策が実施されることへの懸念や、どちらかと言えば、市場はトランプ政権が誕生した場合の金利上昇を警戒した卯木沖だろう。
・但し、米国の2年金利の4.2%という水準は、市場が織り込むFF金利の先行きの利下げから逆算すると、あまりに高過ぎる。つまり、市場では年内に2回、来年は3回程度の利下げ、26年も更に追加の利下げを織り込んでいるのに対し、2年金利の4.2%という水準は、年内に2回の利下げを実施後、来年前半にはFRBの利下げは終了する展開を見込んだ水準だ。FF金利先物が示すFRBの行動と、2年金利が示す未来は乖離しているのだ。どちらの市場が正しいかは今後の注目となる。
・長期金利はタームプレミアムの動向に注目だ。今週発表された四半期定例入札の規模は変更がなかった。更に市場が警戒していた先行きの国債の増発も、「少なくとも向こう数四半期は中長期債の増発の必要なし」とのガイダンスが出ており、心配はなさそうだ。これは、供給サイドからのタームプレミアム上昇抑制要因となる。
・国債の需要サイドについては、来週のFOMCでFRBの量的引き締め(QT)の終了の議論がスタートしたことがアナウンスされれば、米国債の需給改善期待から、タームプレミアムを低下させるかもしれない。ここは、来週のFOMCの注目点の1つになるだろう。
・米国大統領選と市場の変動については、次のように想定している。上院選挙は、今回はかなり高い確率で共和党が勝利する見込みであることから、民主党が上院で勝利するシナリオは排除しておく。
① トランプ氏勝利+上下両院とも共和党
・この場合、市場では「ドル高」、「金利上昇」、「株高」で反応するとの見方が強いが、私は「ドルは上下に乱高下」、「金利上昇」、「株安」になると見込んでいる。
・トリプル・レッドは、今の米国市場のアキレス腱である金利上昇に拍車をかけ、それを嫌気した株安になると思われる。ドルについては、ここまでドル高が織り込まれてきており、上下に乱高下する展開を見込む。
② トランプ氏勝利+上院が共和党、下院が民主党
・これは市場にとっては、好都合な結果となるだろう。金利低下、ドル安、株高で反応すると思われる。議会がねじれることで、極端な政策が実施されるリスクは後退する。従って米金利は低下するだろう。トランプ氏が勝利した場合には、ハリス氏が結果を認めないことはないだろうから、政治的にも大きな混乱は起きない。民主党としても、下院を取れたことで、まずは最低限の負けに抑えたことになる。こうしたことを鑑みると、かなり年末に向けて株高が進むような展開を見込む。ハッピーなシナリオである。
③ ハリス氏勝利+上院、下院ともに共和党
・ハリス政権はスタート時からレームダック化するとともに、トランプ氏が不正選挙を主張し続ける可能性があり、これは最悪のシナリオになるだろう。民主主義のプロセスが脅かされる場合は、ドル安、債券安、株安のトリプル安となる。
④ ハリス氏勝利+上院が共和党、下院が民主党
・民主党にとってはベストシナリオ。市場が当初、想定したメインシナリオに近いため、大きな市場変動はないだろう。もちろん、トランプ氏が負けを認めないリスクは残る。また上院が共和党が勝つことで、FTC委員長のリナ・カーン氏などが交代になる場合には、大手テック企業にはポジティブな展開となる見込みだ。
・その上でリスク要因を挙げておきたい。まずハリス氏が勝利した場合に、トランプ氏が不正選挙を叫び続け、選挙結果を認めないリスクだ。共和党支持者の中には、前回のトランプ敗戦の選挙結果も認めていない人たちもいる。2回連続で「選挙が盗まれた」となった場合、彼らの怒りは暴力に波及し、米国が深刻な分断や内戦に陥るリスクがある。これは民主主義の崩壊であり、米国は短期的にトリプル安状態に陥るかもしれない。
・トランプ氏が勝利した場合の最大のリスクは、「普遍的基本関税政策」という公約が実現されるかどうかだ。本当に「中国には60%以上の関税、全ての国からの全ての輸入品には10%~20%の関税を適用する」という無茶苦茶な政策が実行されるとは思わないが、仮にブラフでもそれを強行する姿勢をトランプ氏が見せれば、これは長期金利上昇と大きな株安を齎すだろう。
・今後の重要な日程は以下の通りだ。12月17日の米国大統領の選挙人投票までに勝利者が確定していないようだと、米国は大混乱に陥っていることになる。正式には1月6日の議会で大統領と副大統領が正式に決まる。
2.その他のポイント整理
・S&P500採用企業の内、11月1日までに349社の決算発表が出たが、77%の企業が予想を上回る好調な業績を示した。24年3QのEPSの伸びも10月1日の+5.3%から+8.4%まで上方修正されてきた。いつも通りの米国決算である。大統領選でリスク要因が顕在化しなければ、米国株は不透明感の払拭から年末に向けて上昇するパワーは十分にありそうだ。
・為替市場では、IMMの円ロングポジションが解消され、円売りポジションに転じていることが確認された。これは想定通りの展開だ。円ロングポジションを維持するコストは大きいため、円高ポジションは円高が進まなくなると、苦しくなる。こういう巻き戻しの動きで、ドル円は9月の140円割れから、足元では153円台へと大きく円安に戻ってきた。
・ドル円が再び150円台に定着してきたからなのか、今週の日銀政策決定会合では、植田日銀総裁はタカ派的な姿勢を示し、「金融政策の変更に時間的余裕がある」という表現を封印した。市場では、12月の会合か来年1月の会合で、追加の利上げが行われるとの見通しが強い。円債市場のプレイヤーたちは、「日本の政局不安は、あまり植田総裁は考慮しない」との見方が強く、それよりも「一段の円安には対応する」、「0.75%~1%程度までの利上げは、金融正常化の範疇で総裁は進めたい」との見解のようだ。
・大統領選次第では155円を超えるドル高円安もあるだろうが、FRBが利下げサイクルにあることや、日銀のタカ派姿勢を鑑みれば、過去2年のようにどんどん円安が進行する地合いではないと思われる。
・日本の株式市場は、このところ日本の政治問題と並走している。総裁選、衆院選挙と、それなりのサプライズが何度も起こっている。そして11日以降に国会が召集されて首班指名選挙が行われる。日本の新体制はどうなるのか?補正予算の中身はどうなるのか?国民民主党が要求する「103万円の壁撤廃」などの改革案は盛り込まれるのか?自民党は権力闘争の中で、分裂していくのか?結集していくのか?石破政権はいつまで存続するのか?その後は短命政権が続くのか?政権交代は起こるのか?この先も不透明要因が非常に多い。
・日米関係も心配だ。仮にトランプ氏が勝利したら、真っ先に訪米してトランプ氏に会いに行かないと、トランプ氏は「シンゾ~はすぐに来たのに、今度の首相はダメだ」とレッテルを貼るかもしれない。トランプ氏に嫌われると、防衛費のGDP比2%は不十分であり、3%に引き上げろ!とか色々と米国に優位なディールを展開してくる可能性もある。何かと日本の今後の状況は見通せないため、日本株投資も短期投資はともかく、長期投資がしにくい状況ではないだろうか?
・詳しくは、レポートの①~③をご参照ください。