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来週の相場見通し(9/2~9/6)②
1.米国株式市場
この夏の米国株式市場は上下に大きく動いたが、8月末を終わってみれば、S&P500は月間で2.3%上昇した。NYダウも1.8%弱の上昇となり、8月末には年初来で25回目の史上最高値更新となった。ナスダック100も1.1%弱の上昇となり、プラスのリターンで月を終えた。
今回は、まずはサマーラリーという点から、S&P500を捉えてみよう。サマーラリーの定義は特にないのだが、ここでは6月末から8月末の夏の2ヶ月間でS&P500が3%以上の上昇となった場合をサマーラリーとする。この定義によれば、今年は6月末から8月末に3.4%上昇しており、サマーラリーの夏だったことになる。下の表は、過去のサマーラリーが起こった年を抽出したものだ。サマーラリーの欄は2カ月間の上昇率を示している。そしてサマーラリーが生じた年の9月単月のパフォーマンスが次の欄である。そして最後の欄は9月~年末までの騰落率を示している。
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このデータ結果を整理すると、下のような結果になる。
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今年はS&P500ではサマーラリーとなったわけだが、その上昇幅としては2000年以降の平均の6%上昇と比べても見劣りする。しかし、2000年以降の9回のサマーラリーで5%未満の上昇率だった年は5回であり、物足りないものの、途中に9%弱の調整局面を挟んでいることを鑑みれば、かなり頑張ったと言えるだろう。問題は、やはり「9月相場」の弱さである。アノマリーに従うなら、9月相場で下落した局面での押し目買いが有効ということになるのだろう。
今年のサマーラリーのベストパフォーマンス銘柄は以下の通りだ。資本財や住宅関連が好調であった。
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一方で夏に低調だったワースト銘柄が以下だ。こうして見ると、色々と問題を抱えている企業が炙り出されているように見える。
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今週の1週間の状況は以下の通りだ。
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さて、今週はエヌビディアの決算が注目された。エヌビディアの決算について詳しくは取り上げないが、同社の株価の決算前後の短期的な動きはあまり気にしないほうがいいと考えている。これくらい有名で人気の銘柄になってしまうと、決算日を挟むオプションなどを利用した「決算トレード」的な売り買いが交錯することになる。これは、長期的な同社の価値とはほとんど関係ない投機的なものだ。今回の決算のポイントは2つある。1つは、市場の高い期待をしっかり超えたということだ。これは正しく評価すべきだ。但し、エヌビディアが高い決算期待をクリアーするほど、次の決算がまた難しくなる。どんな企業もいずれは高い期待に応えられなくなる。そういう宿命の道を歩んでいることは確かだ。2つ目は生成AIの成長ストーリーは決して崩壊していないし、ファンCEOは相変わらず非常に強気で明るい未来を見据えているということだ。但し、今回のカンファレンスでは、ファンCEOは幾つかの質問に正面から回答しなかった。例えば、こんな質問だ。分かりやすく、ちょっと意訳する。「これがゴールドラッシュだとして、金を掘る人にツルハシを提供するエヌビディアの好調さは認めるとして、本当に実社会は生成AIにより金鉱を発見して、大きな富を得られるのか?」という私が意訳した質問に対しては、ファンCEOは正面からは回答してくれなかったのだ。
さて、同社の株は乱高下したわけだが、アナリストはどう評価したのか?決算後の各社の同社の目標株価とレーティングを見てみよう。
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上記のように強気から弱気まであるものの、決算後には同社の目標株価は引き上げられている。(黄色の網掛け)同社の長期的な価値は揺らいでいないのである。エヌビディアについては、将来的にはライバルの出現であったり、過大な設備投資の巻き戻しであったり、根本的なアーキテクチャーのブレイクスルーなど、色々な問題が起こるかもしれないが、そういう心配は数年後の話であり、当面は同社の競争優位、そして実際に四半期に4兆円以上も売り上げている事実を評価すべきと考える。
さて、全体の企業業績を見ておこう。下のチャートはS&P500のEPSの前年同期比の推移である。結局第2四半期は+13%と好調な伸びとなった。(下図 赤線)
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但し、来期については下方修正されている。下の左側のグラフは、4月時点、7月時点、直近の来期のEPSの見込みの変化だ。7月の決算前は8%を超える見通しであったが、足元では5%台へと修正されている。通期については右側のようにあまり大きな変化は出ていない。
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ボトムアップによる1株当たり利益は以下のような見込みである。米国の景気後退懸念は、企業業績からは想定されていないということだ。
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最近、注目度の高いラッセル2000も見ておこう。景気後退にならないシナリオでは、ラッセル2000は上昇余地が大きいように思える。EPSもの前年同期比の伸びは、ここから大きく回復していく見込みだ。
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こちらも来期について7月時点の63%の伸びから、足元では39%の伸びに大きな下方修正が起こっているものの、それでも4月時点の見通しに戻っただけとも言える。引き続き、通期では20%超の成長が見込まれている。
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ラッセル2000の1株当たり利益は下のグラフだ。やはり、中小企業の業績面からも景気後退懸念は起こっていない。(今のところ)
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9月は米国大統領選のカマラ・ハリス氏とトランプ氏の戦いが激化する。下のチャートは、今日が投票日だったら、どちらが有利かという調査の推移だ。「トランプ氏の支持-カマラ・ハリス」の支持であり、緑部分がトランプ氏が優勢、赤色がカマラ・ハリス氏が優位を示している。トランプとバイデンの構図の時は、圧倒的にトランプ氏が優勢であったが、カマラ・ハリス氏に交代する中で、トランプ氏の優位は失われ、8月の民主党大会などの盛り上がる局面では、ハリス氏の優位は大きく拡大した。しかし、足元では拮抗してきている。大統領選は接戦になるだろう。
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言うまでもなく、勝敗は激戦7州の結果にかかっている。激戦州の戦いは、1ポイント、2ポイント差の微妙な差で決まる。そうした中で、ロバート・ケネディ候補が大統領選からの撤退を表明し、トランプ氏の支持を決めた。ケネディ氏は、8/26時点のTHE HILLの世論調査で、激戦州において以下のような支持を取り付けていた。最も注目されるペンシルベニア州でも3.9%の支持があったのである。もちろん、ケネディ氏がトランプ氏の支持を決めたからといって、ケネディ支持者が自動的にトランプ氏に支持を切り替えるわけではないものの、一定割合はそういう行動に出ることが予想される。
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米国大統領選関連は、また別途取り上げる。
3.日本株について
日経平均株価は8月は▲1.1%程度の下落となった。但しドル建て日経平均では+1.7%のプラスだ。TOPIXは月間で▲2.9%の下落、ドル建てでもマイナスリターンとなった。8月の日本株は、歴史に残るような上下変動を記録した。下のようなチャートは、なかなかお目に見えるものではない。足元では、50%戻し、61.8%戻しも達成し、8月の下落から回復している過程にあることが分かる。
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この歴史に残る8月の日経平均のベスト20銘柄が以下の通りだ。問題の多かった住友ファーマがベスト銘柄になるとは・・・・
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逆に8月のワースト20は以下の銘柄だ。
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年初来のベスト10銘柄は以下の通り。フジクラ強し。
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年初来のワースト10は以下の通り。
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さて、日本株は下値を固めてきている。下のグラフは、海外投資家の現物と先物の売買フローである。7月から8月の怒涛の売りの後、足元では徐々に落ち着いてきている。
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いつもお見せしている海外投資家の年初からの累積フローは、売り越しになっている。これは逆に言えば、日本の総裁選の結果次第では、怒涛の日本株買いを行える余力が十分にあるということでもある。
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個人投資家は、8月前半の急落の局面でポジション整理を余儀なくされた後、あまり大きな動きが出ていない。傷を癒す時間帯か。一方で事業法人の自社株買いがたんたんと継続している。
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総裁選挙は、どうなることや。色々な候補者の出馬が言われているが、20名の推薦人と国会議員の総数を鑑みると、最終的には5人~6人しか推薦人を集めることは難しいだろう。ここから先は、私の独断と偏見による最近の感想だ。青山繁晴氏は、このところメディアでも取り上げられるようになってきた。ネットなどでは熱烈な支持者も多く、20名の推薦人を集められたら、凄いと思う。石破さんはこれだけの知名度でも、推薦人集めに苦労しており、やはり総裁になることは難しいと思わざるを得ない。加藤勝信、上川陽子さんは、この乱戦の中ではあまりに地味過ぎる。小泉進次郎さんは、やはり決勝戦へ進む最有力候補である。しかし、小泉進次郎氏の目指す政治が具体的に明らかになるのはこれからだ。今のところ、保守派にとっては非常に重要な皇位継承問題でも、金融政策や経済政策、安全保障や外交でも、同氏が積極的に持論を展開したことはないと思われる。環境政策や農協改革、デジタル分野を展開したいことは分かるが、重要なビジョンや政策について、あまりに知られていない。そもそも明確なビジョンがあるかどうかも分からない。現在は最有力候補だが、これから論戦が展開されていくと、急速に失速する可能性はあるだろう。河野太郎氏は出馬会見を開いたが、麻生副総理は会見に同席しなかった。それだけでなく、麻生派からたった5人程度しか会見に同席しなかった。前回の勢いは全くなく、決選投票に進むことは困難だろう。
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衆院議員では最も早く出馬を表明したコバホークこと小林鷹之氏は、当初は非常に注目されたが、ここへきて評価を落としている印象だ。文春にターゲットにされたようだ。パーティー三昧であるとか、リベラル弁護士の奥様のことや、財務省とのずぶずぶの関係に加えて、統一教会との関係が蒸し返されている。対応をミスると小渕優子氏のように、総裁候補だったのが、「ドリル優子」に格落ちして、総裁候補からは外れてしまうかもしれない。なんとなく、各種の報道を見ていると、「コバホークさんは、将来の総裁候補、今回ではないよね」というムードが大きくなっている気がする。斎藤健さん、野田聖子さんは20名の推薦票は難しいと思われる。
一方で勢いを増してきているのが、高市早苗さんだ。中国が領空侵犯をしたこともあり、保守からの支持を集めている。上に記載したようにコバホークさんが落ちてきたことも、高市さんの評価を挙げそうだ。更に言えば、権力闘争の中で、麻生氏がヘッジとして高市さんを応援する可能性がある。決選投票で小泉氏と高市氏になれば、麻生派は高市さんを推すだろう。林芳正さんと茂木さんは、決選投票は難しいと思われるが、茂木さんの票が決選投票でどこに流れるかは重要かもしれない。
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今のところ、海外投資家が日本の総裁選挙を凄く注目しているとは思えない。日本への投資も抑制されている。仮に分かりやすく、減税や財政拡張政策、産業保護政策、そして規制緩和を打ち出す人物が総裁になった場合には、海外投資家は短期間に大きな日本株買いに動く可能性はあるだろう。
4.来週のポイント
来週は重要な週となる。米国雇用統計は言うまでもなく、求人件数やISM関連の経済指標も要注目だ。米国では今年は起債が非常に活発だが、9月も来週のレイバーデー以降に起債が集中すると目されている。一連の経済指標も強いようだと、米長期金利には上昇圧力がかかりそうだ。
9月相場は要注意ではあるものの、今年は8月に調整局面を経ており、市場のムードは悪くない。来週の経済指標が適度なものであり、米国経済のソフトランディング期待とFRBの利下げの組み合わせがメインストーリーになれば、堅調な地合いを継続する可能性は十分あるだろう。特に日本株は、総裁選の候補者が決まり、徐々にその政策論が具体的に展開され始めると、思わぬ上昇もあり得る。ドル安基調も反転しており、為替市場の安定もサポート材料になりそうだ。
それでは良い週末を!