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来週の相場見通し(5/6~5/10)

1.はじめに

今週も市場は色々あった。為替市場での乱高下、FOMCでの重要なメッセージ、米国雇用市場、原油安、そして米国株式市場の回復だ。実に見るべきポイントの多い週だった。GW中のため、米国のポイントだけ簡易版でお届けする。時間があれば日本について取り上げる予定だ。

2.為替市場

まずはドル円相場だ。値動きも、そして人々の関心や心理という点でも、まさに為替市場が主役であった。下のチャートは、ここ最近のドル円相場の推移だ。日銀金融政策決定会合が、実にハト派的な会合であったことは、前回のレポートに記載した。その植田総裁の記者会見が終わって、欧州時間に入ったタイミングで、介入的な動きがあり、ドル円相場はドスンと落ちた。(紫網掛け)しかし、これはフェイクであった。そこからあっと言う間に160円台までドル円は駆け上がる。イエレン財務長官の介入に否定的な報道も、投機筋の円売りに安心感を齎したのかもしれない。しかし、160円台に突入したドル円は、財務省の為替介入により、一気に落とされる。(赤い網掛け部分)本当に介入であったかどうかは5月末の公表データを待つ必要があるが、市場では日銀当座預金の増減から5.5兆円程度の介入が行われたと推定している。160円台から154円台まで急落したドル円相場であったが、あっと言う間に158円へとドル高円安に戻す。市場のセオリーでは「介入の効果は一時的」であり、「介入で3円以上動いた場合は、逆張りで入れ」という経験則がある。当局と戦うのである。まさにヘッジファンドは、そういうファイティングポーズで臨んでいたことだろう。

(ドル円推移)

そして市場が注目するFOMCを迎え、パウエル議長の記者会見が終了して、安心しているところに、再度為替介入の追撃が入ったようだ。(赤い網掛け)このサプライズ的な追撃介入でドル円相場は、一時152円台後半まで円高が進んだ。これは実に効果的であった。ネット空間では「神田財務官」の話題で持ち切りであった。投機筋からすると厳しい展開だ。
そして、雇用統計を迎えて、予想を下回る結果を受けて、151円台まで円高が進行した。(緑色網掛け)これは介入ではなく、市場の自然な動きである。その後、152円後半まで戻して引けている。なかなかの値動きの1週間であった。
私は日米が連携していたと言うつもりはない。そんなことは知る由もない。但し、結果として植田総裁の円安を懸念していないような発言で円安が加速し、イエレン財務長官の介入牽制発言で投機筋のポジションが更に拡大したところで、大規模な介入が入った。更にパウエル議長のハト派的なスタンスで2年金利が5%台から4.9%台に低下したところで、2回目の介入が入り、かなり効果を発揮した。加えて、週末の雇用統計が下振れて、米2年金利が一時4.7%台へ低下したことで、ドル円相場も上値が自然体で重くなった。これらは偶然の産物だと思われるが、結果として、ドル円相場は160円に向かう力を当面は完全に失っただろう。私は「為替介入は伝家の宝刀であり、抜けば抜くほど効力が落ちてしまう」と考えており、安易に介入を行うと、当局は「介入の無間地獄」に陥るリスクがあると懸念していたが、今回は僅か2回の介入で市場の円安圧力を削ぎ落した可能性があり、これは効果的だったと言わざるを得ない。但し、結果論であり、当局が今回の成功に味をしめて、安易に介入を行うのは危険だ。
話しは逸れるが、今回の介入に際して、巷ではIMFルールなるものが話題になった。「介入は6カ月間で3回まで、そして3営業日内の介入は1回とカウントされる」というものだ。そうしたガイドライン的なものがあるのは事実である。
Annual Report on Exchange Arrangements and Exchange Restrictions 2022 | IMF eLibrary

しかし、それは先進国には何の意味もない。IMFとは経済的に困難な局面に陥った加盟国を財政支援で助けることを使命としている。IMFから財政支援を受けた国は、その対価として身を切る改革等を行う必要がある。それを怠れば、追加融資を受けられない等の罰則がある。しかし、IMFからの支援を受けていない国にとっては、IMFは象徴的な存在でしかない。制裁や罰則を適用する権限を持つ機関ではないからだ。例えば韓国中央銀行は通貨安を防止するために、頻繁に介入を行ってきたが、IMFから何も言われていない。
もっと言えば、IMFが問題視しているのは、近隣窮乏策を招く通貨安を人工的に作り、競争優位を得ようとする介入である。自国通貨安を防止するための為替介入については、IMFは黙認どころか推奨するだろう。

実は米国の財務省も半期に1回、為替操作国を判断し、不公正な貿易取引を行っている国を議会に報告する義務がある。為替操作国に認定された場合には、制裁を発動することが可能だ。そして、為替操作国に認定される条件は、下の3つのルールに全て抵触する場合である。

  1. 大幅な対米貿易黒字(年間150億ドル以上の財・サービス貿易黒字額)

  2. GDP比3%以上の経常収支黒字、またはGDP比1%以上の現在の経常収支と長期的経常収支の間の乖離

  3. 外貨の純購入が繰り返し行われる持続的で一方的な為替介入(過去12カ月間のうち8カ月以上の介入、かつGDP比2%以上の介入総額)

今回、市場で話題になったのはGDP比2%以上の介入総額という部分だ。例えば簡略的に日本のGDPが4兆ドルだとすると800億ドルだ。これだと介入は12兆円くらいしかできないことになるため、財務省が既に8兆円以上の介入(2回の合計)を行ったとしたら、もう残りは少ないのでは?という話である。
しかし、これは間違いだ。GDPの2%ルールは、「Purchase of foreign currency」であり、「Sell of foreign currency」ではない。米国財務省が問題視しているのも、不当に自国通貨安を作り出す(ドル買い自国通貨売り)の介入なのである。日本の自国通貨安を止めるための介入は、そもそも問題にならないのだ。イエレン財務長官の言う「為替介入は頻繁に行うべきではない」というのは、G7の共同声明でこれまで確認されてきた「為替は市場で決定されるべき」という原則を繰り返しているだけなのだ。
もちろん、海外市場でドル売り介入を行う場合や、外貨準備の米国債を売却して介入を行う場合には、日本の当局は米国財務省に連絡しており、無断で実施することはないだろう。しかし、日本が真に自国通貨安を止めるための介入をやる必要があるなら、それは日本の国益を守るために、かなりのことはできるのである。

話を戻そう。介入は米国サイドのファンダメンタルズに変化がないとすれば、時間稼ぎの効果しかないので、再び円安はじりじり進むことになる。しかし、FOMCでパウエル議長は「利上げはまずない」と断言したことや、米国の労働市場の鈍化の可能性が垣間見えたことで、米2年金利が5%を持続的に超えることが難しくなったこ。従って、ドル円相場の上値は重くなったと思われる。

3.米国経済

まず下の図を見てほしい。成長とインフレから4つの区分をしたものだ。低インフレで高い成長は、株式市場にとっては最高の「天国」である。市場環境で言えばゴルディロクスだ。その下の「低インフレ、低成長」はお馴染みの2010年代の先進国経済型である。日本や欧州はその典型であり、米国でさえもこのグループに含まれていた。その横は、「高インフレ、低成長」であり、経済状態は極端に言えば「スタグフレーション」であり、市場にとっては「地獄」である。右上は「高インフレ、高成長」であり、これは通常は新興国経済に生まれる状況だ。但し、目下の議論は、世界一の先進国である米国が新常態(ニューノーマル)として、ここに位置しているのではないかということである。新興国のように強大な需要ではなく、テクノロジーや生産性上昇、新陳代謝の力で高いインフレを許容し、それを活用して高成長ができる国に進化したのでは?ということだ。

市場では米国経済がコロナショックを通じて、そういう経済に既に移行しており、潜在成長率や中立金利も引き上がっている。だから、FRBが高い金利水準を維持しても、経済は悪くならないと主張する向きの声が強まっている。しかし、FRBはそれを認めていない。FRBは現在のFFレートの水準を「抑制的な水準」であると何度も言っており、タイムラグを伴い経済に効いてくると説明している。この議論は注意深く見守っていく必要があるだろう。但し、重要なことはFRBが目指す左上の「天国」はもとより、右上の「新興国型」も、株式市場においては、どちらも結論としては「株高」に帰結するということだ。ちなみに、上の4つのマトリックスの中では、持続的な株安は右下の「地獄」だけだ。4つの内で3つのマトリックスは強弱はあっても、基本は株高なのだ。これだから、株のショートは長期で保有するとリスクなのだ。そういう視点で今週の経済指標のポイントを確認しよう。

(米国雇用統計)
米国雇用統計について解説しようと思ったが、やめることにした。下のブログにこれ以上ないくらい詳細にレポートされている。これ以上の解説はどこにもないので、黙ってこれを読んでほしい。

米4月雇用統計・NFPは鈍化し失業率は上昇、利下げ期待再燃 | My Big Apple NY | My Big Apple NY

米国労働市場は総じて堅調とはいえ、変化が生じている可能性があるということだ。単月データで判断するのは危ない。ゆえに来週以降の新規失業保険申請者数の注目度は強烈に高まったということだ。労働市場はいったん悪化すると、継続して悪化を深める傾向にある。その兆候として、速報性のある新規失業保険申請者数が急増するような場合、市場はかなり反応することになるだろう。

パウエル議長は、先般のFOMCで次のように語っていることは重要だ。
「インフレはこの1年で大幅に緩和した。インフレが12か月ベースで3%以下に低下した今、我々はもう一つの目標である雇用に焦点を合わせつつある」
個人的には、かなり印象に残った言葉だ。仮に次回の雇用統計でも今回よりも悪いデータが出た場合に何が起こるのか?3カ月平均で見た場合の諸々のデータが急に悪化する。この点は注意しておきたい。市場はFRBの7月利下げの可能性を復活させる可能性があるのだ。

(インフレ関連)
今週のデータは、インフレにはやや懸念になるものが多かった。特に雇用コスト指数は「ECIショック」とも言うべきもので、市場ではかなり話題になった。

(雇用コスト指数)

更にISM製造業、ISM非製造業ともに支払価格が急騰したこともサプライズとなった。

(ISM製造業 支払価格)
(ISM非製造業 支払価格)

週末の雇用統計の平均賃金の低下では、市場のインフレ懸念を安心させることはできていない。来週のミシガン大学のインフレ期待の動向と、更にその翌週のCPIが注目となる。

(米金利)

米金利にとっても、今週は非常に重要だった。下のチャートは米2年金利である。先ほどのECIショックにより、2年金利は節目の5%を超えた。2年金利が5%を超えていくということは、FRBが利下げサイクルに当分の間入らないこと、更には利下げではなく利上げを意識していることを示す。そういう重要な水準を上抜けたのだが、FOMCと週末の雇用統計を受けて、一時は4.7%台まで急低下した。当面、米2年金利が5%を超えるリスクは消滅しただろう。

(米2年金利)

米国経済に鈍化が見られ始めている中で、2年金利が5%を超えないとするなら、米長期金利も上がらない。来週は3年、10年、30年債の入札があるが、ここは注目したい。先般の四半期定例入札では、利付け国債の発行増加はされなかった。それだけでなく、財務省は向こう数四半期に渡り、国債の増発はないと発表した。
下のグラフは米国の2年債から30年債までの利付け国債の入札額の推移だ。ずっと増加してきたのが、止まるのだ。

(米国債入札額 単位10億ドル)

それだけではない。FRBはQTの終了に向けたオペレーションを開始する。米国債について月額600億ドル縮小させていたペースを、250億ドルまで一気に落とすのだ。350億ドル分の償還をFRBが再投資するということであり、これは米国債の需給にとっては非常に大きいだろう。
また財務省はバイバックも開始する。米国債の流動性を改善させる措置であり、こちらも米国債全体にポジティブである。
米国の実質金利も2.5%を目指すリスクはひとまず消えた。今年の前半のような2%を下回る水準で安定推移してくれたら、米国株には非常にポジティブとなるだろう。

(米国実質金利10年)

今回は、とりあえずここまでとする。米国株は4月の調整を挟んで、再び勢いを取り戻しそうな気配だ。但し、個別株にはいろいろな妙な動きもある。エヌビディアの決算もまだ控えているし、ウオルマートやターゲットなどの小売業界もこれからだ。企業業績から、米国経済の実態を探る展開となりそうだ。日本でも大量の決算発表、そしてGWが終わり政治家が外遊から戻ってくる。政治の権力闘争の動きも色々と起こりそうだ。5月6日は私の推しである武居由樹選手の世界戦(ボクシング)がある。頑張れー。
それでは良いゴールデンウイークをお過ごしください。



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