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来週の相場見通し(8/5~8/9)②
1.日本株の急落
今週の日本株の下落は激しかった。まるでこの世の終わりのような悲観的なムードに覆われている。しかし、まずは世界の株式時価総額のチャートを見てほしい。今回の下落は紫色の網掛け部分であるが、ほとんど無風くらいの下落である。2020年のコロナショック、2022年の世界の中央銀行の強烈な利上げなどによる株価急落時と比べると、さざ波程度のインパクトなのだ。まずは、ここをしっかり認識したい。世界的に何かショックが発生しているわけではないのである。(今のところ)
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ところが、日本の株式市場の時価総額のチャートにすると、コロナショックに次ぐようなインパクトがある。
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日経平均株価は7月11日の高値から15%程度も下落している。下のチャートの緑色のラインは直近高値から20%下落で弱気相場入りする水準だ。3万3,780円程度がその水準となる。先物市場の動きからすれば、来週にもこの水準をブレイクする可能性もある状況だ。
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ドル建ての日経平均ではまだ高値から8%程度の下落であり、為替相場の円高進行が効いていることが分かる。
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TOPIXやMSCI JAPANの状況を見ても、円ベースではだいたい高値から15%程度の下落となっている。弱気相場入り目前まで下落している。
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7月11日に日経平均株価は、史上最高値の42,224円をつけた。そこから8月2日までのベスト銘柄は以下の通りだ。225銘柄中で16銘柄だけが、7月11日以降でプラスのリターンを記録しているということだ。
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ワースト銘柄は、以下の通りだ。日本の主力の半導体製造装置メーカーや、トップティアの企業が並んでいる。
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米国のS&P500が高値を付けたのが7月16日だった。同じように7月16日から直近までのベスト銘柄とワースト銘柄を見てみよう。まずベスト20銘柄は以下の通りだ。ヘルスケアや資本財セクターの銘柄が目立つ。日経平均株価との重要な相違点は、S&P500の場合は7月16日の史上最高値を付けた時点よりも、現在のほうが上昇している銘柄が500銘柄中で251銘柄もあるのだ。
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次にワースト20銘柄だ。大規模な障害を起こしたクラウドストライク、そしてやはり半導体関連銘柄や中国売上が大きい企業、そして冴えない決算を出した企業が並ぶ。
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こうして日米を比較してみると、日本はパニック相場、米国は調整相場であることが分かる。世界では何らショックが発生していない。日本株だけがパニック相場に陥っているのは何故なのか?1つの要因は為替の乱高下だろう。
次に為替相場を確認しておこう。ドル円相場はトレンドとして円安が進んでいる。しかし、このところ1年に1回程度は大きな調整局面となり、円高がズトンと進行している。
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上図の赤い網掛けは2022年10月~12月の円高局面だ。この時は約21円の円高が進行した。現在の状況はこの時に似ている。22年10月は米国のCPIが鈍化した。そして日銀がサプライズ的に政策変更を行い、市場は円金利の先行き予想を引き上げた。つまり日米金融政策の方向性の違いが強く意識されたのだ。更には22年9月から10月にかけて政府が3回にわたり約9兆円の円買い介入を実施していた。そして、この間のVIX指数が平均で25で推移した時期だ。
一方で23年11月~12月の円高局面では約12円の円高が進行した。この時は、逆CPIショックが起こり、FRBが急にハト派転換し、市場では24年の利下げを6回程度まで織り込んだ。米長期金利は5%近辺から3.8%割れまで急低下した。この時のVIX指数は平均で15というレベルだ。現在の円高の状況は、この当時ともよく似ている。
但し、上記2回の円高局面は、結局はトレンドとしての円安基調の中で一時的な調整として発生しており、すぐに円安基調に戻っている。今回はトレンド自体が修正されるような円高局面になるのか、あるいは先の2回と同じく、一時的な円高に終わるのだろうか。私は後者の立場だが、為替相場の動向は注視していく必要があるだろう。
さて、株式市場に話を戻そう。外国人投資家の日本株へのフローが下のチャートだ。6月の4週目から、7月の1週目、2週目と外国人投資家の先物を中心とした買い越しが目立ったのだが、3週目と4週目だけで2.3兆円もの売り越しとなった。
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下のチャートはお馴染みの年初からの累積売買動向であるが、今年は7月の4週目までだが、既に僅か数千億円の買い越しの状況まで落ち込んでいる。8月の強烈な売り圧力を鑑みれば、年初からの累計は売り越しに転じていることだろう。但し、先物主体の売りであることから、地合いが変化すれば、急速な買戻しとなりそうだ。
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日本の個人は逆張り状態のようで、6月に大きく売っている。7月前半からは買いに転じており、4万円台はもとより3万9千円台で下落相場に立ち向かっていることが確認される。事業法人の自社株買いは、緩やかにたんたんと継続しているようだ。
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2.来週のポイント
来週のポイントは、相場のボラティリティが安定するかどうかである。米国の経済指標の発表は軽い週であり、今の状況だと月曜日のISM非製造業が最も注目度が高くなるだろう。前回のISM非製造業は市場予想の52.6に対して、48.8と大幅に下振れたことは記憶に新しい。ISM非製造業指数はコロナの2020年4月と5月に2ヵ月連続で50割れとなったが、それ以降は連続50割れは1度もない。今回50を割るだけでも、市場では騒がれそうだ。ましてや、前回値を下回るようだと、パニック的になりそうだ。市場予想は51である。逆に大きく上振れるようだと、景気後退懸念は行き過ぎだねという安心感に繋がると思われる。非常に重要な局面だ。
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もちろんIMS非製造業の雇用項目も注目だ。前回は46.1まで低下している。週末の軟調な雇用統計で市場は雇用関連にナーバスになっており、この項目は材料視されるだろう。
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5日はFRBが四半期ごとに実施する米銀上級融資担当者調査の結果も公表される。先般の決算では米銀は貸倒引当金を積み増していたが、今回の調査でどの程度、融資基準を厳格化したかが確認できるだろう。
そして、決算発表は相変わらず波乱含みだ。特に週末にはエヌビディアの新製品であるブラックウエルに構造上の問題が発見され、24年末にも出荷が見込まれていたのが、25年第1四半期まで遅延するとの報道が出ている。このタイミングで嫌なBADニュースが出たものだ。火曜日にはスーパー・マイクロコンピューターの決算もある。AI半導体関連の主力銘柄がどうなるのかで状況は変わりそうだ。日本でも東京エレクトロンやソフトバンクグループなど、約1760社の決算発表がある。大きな正念場となりそうだ。
冷静に考えれば、日経平均株価のPERは17.5倍から14倍台まで低下し、PBRも1.57から1.3程度までに急低下している。パニック相場にバリュエーションは無意味なのだが、そろそろ下げ止まってほしいものだ。但し、為替相場の状況、エヌビディア関連の悪材料、イランとイスラエルの戦争リスクなどを鑑みると、水準感から安心することはできない。成長力の高い優良企業に投資するのは良いだろう。しかし、リスク量には十分注意したい。万が一、可能性は低いものの、イランがホルムズ海峡を閉鎖したら、何が起こる?そういうこともイメージする必要があるのだ。
今回の株価下落は、自民党総裁選挙などにも影響してきそうだし、米国経済の鈍化も大統領選に影響しそうだ。このあたりは、また別途取り上げるつもりだ。Stay safe!