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来週の相場見通し(10/21~10/25)② (米国株式市場)

1.米国株式市場

今週も米国株は好調を維持した。S&P500、ダウ共に史上最高値を更新して引けた。米国の企業決算もいつも通り好調だ。S&P500採用企業の内、71社の決算が発表されたが、今のところ83%の企業が予想をビートしている。この71社中、27社が金融だが、とりわけ好決算が目立つ。10月1日には金融セクターのEPSの伸びは2%程度と見込まれていたが、足元では6.7%に上昇している。S&P500全体としては、EPSの成長率は5.3%が見込まれていたが、直近は4%に低下している。引き続き、決算をビートするハードルは低そうだ。
今週は、S&P500のセクターでは公益が最も好調で、エネルギーが▲2.6%とワーストパフォーマーだった。5つのセクターがS&P500をアウトパフォームした。やはり、トランプ氏が大統領選挙で優勢であり、トランプ・トレード的なものが起こっているようだ。

各種の指数を俯瞰しても、ラッセル2000やS&P小型600などの小型株が堅調であり、ここにもトランプ・トレードにおける「規制緩和」への期待が反映されているようだ。

今週のS&P500の個別銘柄のベスト10は以下の企業だ。決算発表シーズンのため、好業績を発表した企業の株価が大きく上昇している。

今週のワースト銘柄は、「ASMLショック」の余波から、半導体製造装置が目立つ。半導体関連では、AIに関しては第二波が来ている。しかし、最先端半導体関連以外が市場の期待通りには回復していない。つまり二極化が目立つというのが、足元の状況だ。

下のチャートは、エヌビディアの株価である。6月に史上最高値を記録した後、8月前半には100ドルを割り込み、直近の高値から25%超も下落した。この辺りでは「AIブームは終わった」というような声もちらほら聞こえたものだ。しかし、この10月に早くも史上最高値を更新してきたのだ。但し、現物の出来高は盛り上がっていない。オプションなどが活発に取引されているのだろう。恐らくは、この好調な株価推移を受けて、エヌビディアが好調な決算を出してくるなら、機関投資家の現物買いの後押しも期待できるだろう。

エヌビディアについては、10月入りしてからアナリストの目標株価の引き上げが相次いでいる。モーニングスターの売り推奨と、みずほ証券の慎重なスタンスが目立っている。

半導体に関しては、バイデン政権のCHIPSプラス法からの具体的な補助金や融資が次々に決定している。下の表のように現在では20社に対して、360億ドルを超える支援が決定済みだ。インテルは2回も選定され、総額で120億ドル弱もの支援を受ける。インテルは苦しんでいるが、この政府からのサポートを鑑みると、ゲルジンガーCEOの「地政学上の観点から、TSMC依存を引き下げる」という戦略はそれなりに説得力があるように思える。問題は技術力の回復だ。

さて、今週はSMR(小型モジュール炉)が市場の話題になった。米国ではバイデン政権がインフレ抑制法を成立させ、クリーンエネルギーを推進する姿勢を明確にしてきた。そして、原発の推進は既に進んできている。米国では1979年3月にペンシルベニア州のスリーマイル島原発でメルトダウンが発生し、それ以来、新規の原発建設はストップしてきたが、このところの状況は大きく変化している。昨年はスリーマイル島事故以来の初となる新設原発の稼働が行われた。今年の3月には廃炉原発の再稼働も決定した。9月にはマイクロソフトがスリーマイル島原子力発電所でコンステレーション・エナジーと契約を結んで話題になった。そして、何と言ってもGoogle、アマゾンが立て続けにSMR(小型モジュール炉)の開発契約を結んだことで、市場の関心は一気に原発、SMRに集まっているのだ。もちろん、背景はAI社会を実現するために不可欠な大規模な電力需要を賄うためである。

特にGoogleやアマゾンのハイパースケーラーが動き出したことの意義は大きく、これは1つの巨大なトレンドになるとの見方が強まった。従って、関連銘柄が異常な急騰をしているのだ。
例えば、あのサム・アルトマンが出資し、代表も務めるオクロだ。同社は「オーロラ」という核燃料リサイクル技術を活用したマイクロ高速炉を開発している会社である。この会社は、もちろん売上高はゼロだ。直近の決算は5億ドル程度の赤字企業であるが、株価は急騰し、時価総額が膨れ上がっている。

(オクロ 株価推移)

小型モジュール炉について、米原子力規制当局の設計認証を最初に取得したのが、ニュースケール・パワーだ。株価コードも「SMR」であり、まさに小型モジュール炉を代表する、世界初の専業メーカーだ。同社の開発するSMRの出力は7.7万キロワットと通常の原子炉の100万キロワットの10分の1以以下を目指す。この会社も、ほとんど売上高はゼロであり、先行投資により赤字が膨らんでいる。昨年11月にはアイダホ州で計画していた第1号案件を中止すると発表し、今年の1月には従業員の28%をリストラするなど、決して順風満帆な状況ではない。しかし、同社の株価も急騰している。

(SMR株価推移)

同社の調整後純利益の推移は下図のように赤字が膨らみ続けている。

小型原子炉に対する期待は高いものの、様々な課題があるのも事実だ。ビジネスの面では小型ゆえに出力が小さく、規模の経済性が働きにくい。資材も高騰しており、発電コストに上乗せすれば高くなってしまう。SMRの大量生産には、新たなサプライチェーンの構築も必要となる。これにも時間と資本を要するだろう。稼働の時間軸も見えない。グーグルはカイロス・パワーとの契約締結にあたり、2030年までに最初のSMRを稼働させ、2035年までに追加炉を作り、最終的に7基を完成させる予定とのことだが、いずれにしても株式市場にとっては長期的過ぎる時間軸だろう。これだけの時間軸だろ、別途開発が進んでいる核融合の存在も見逃せない。核融合が完成するようなことがあれば、小型モジュール炉の価値は見劣りすることは確実だ。
技術的な課題も多い。SMRには新しい燃料や冷却材も必要となる。市場では、それも当然見越しており、これは投資機会として捉えられている。SMRに必要となるウランの濃度が5%~20%の高純度低濃縮ウラン(HALUE)関連の株価も急騰している。例えばセントラス・エナジーの株価が下の通りだ。

(LEU 株価推移)

エナジー・フュエルの株価は以下の通りだ。

(エナジ・フュエル株価)

原子力の部品や技術・サービスを提供するBWXTテクノロジーの株価も急上昇している。

(BWXT 株価推移)

このような大きなムーブメントにどう対応したら良いだろうか?原則として、SMRを専業にした売上高ゼロで利益が出ていない企業の株式への投資は、極めてリスキーである。それらの企業が小型モジュールを成功させて、更にはそれを安定稼働させて利益を獲得するのは、かなり先のことだ。投資の鉄則として、ゴールド・ラッシュで言えば、オクロやニュースケールは、ゴールドの探鉱者である。本当に成功するかは全く分からない。分からないのだが、アマゾンやGoogleが乗り出したことで、その成功確率が高まったと市場は判断しているということだ。しかし、これまで電気自動車関連で、消えていった新興企業の事例を思い出す必要があるだろう。アマゾンと独占契約を結び、アマゾンにサポートされてきたEVメーカーのリビアンですら、下のような株価チャートなのだ。

(リビアン株価推移)

株価が大きく上昇する前からオクロやニュースケールに投資してきた投資家は慧眼だ。しかし、この上昇を見て、今からこの市場に飛び込むことは極めて危険なのだ。それよりも、投資の鉄則としては、この原子力トレンドをサポートする企業を探すべきだろう。先ほどのウラン関係や、SMRの原子炉に必要な特殊合金であるとか、技術サポート、安全テスト関連などの企業も良いかもしれないし、小型モジュール炉は地下に建設されることになるであろうから、そうした地下建設関連やパイプ関連も恩恵があるだろう。
電気自動車とは異なり、米国民の理解が得られている点が、原子力の強みだ。下のアンケートは米国民の原子力に対する支持の推移だが、国民の4分の3が原子力を支持し、10人に約7人が新規建設を支持するという結果になのだ。これは、日本とは全く状況が異なっており、再び何らかの事故等が発生しない限りは、米国では国民の強い理解を得られながら、原子力を政策として強化していく路線は間違いないだろう。原子力関連は、また取り上げていくつもりだ。

さて、改めて好調な米国株を俯瞰してみたい。下のチャートのようにS&P500は2022年10月から現在の強気相場が継続している。つまりは、2年強に渡り、強気相場が継続してきたことになる。

(S&P500)

ちなみに1950年以降のS&Pの強気相場は11回あり、最も短命な強気相場は2年弱で終わり、最も長く継続した強気相場は12年以上も続いた。過去11回の強気相場の平均継続期間は約5.5年であることから、現在の2年程度の強気相場はまだ若い強気相場である。ちなみに、過去11回の強気相場に1年目~6年目までの平均騰落率を示したのが下のチャートだ。3年目がやや調子が悪く、それを乗り越えると、またパフォーマンスが上昇していく傾向にある。

(過去11回の強気相場)

これを今回の22年10月からの強気相場を加えたのが、下のチャートである。強気相場の最初の2年間のパフォーマンスは、過去の平均とほぼ同程度で推移してきたことが分かる。現在の強気相場は3年目に突入したところなので、来年の10月までのパフォーマンスは、やや慎重に見ておくべきかもしれない。年末ラリーで上昇した後、来年の前半で調整局面を迎えるイメージだろうか。

2.来週のポイント

日本の状況を取り上げる時間がなくなってしまった。来週は日本でも重要な企業の決算の発表が継続する。個別株の動向が注目となるだろう。ドル円相場は149円~150円前半で膠着しているが、150円を超えてくると、三村財務官から牽制発言が出てくる。前任の神田財務官の注目度が高かったことから、市場はどこかの時点で三村財務官の本気度を試しに行く展開になるだろう。相変わらず円のロングポジションは残っている。少しづつ円ロングポジションの維持が難しくなってきており、ドル円の下値は底堅いと思われる。

(IMM ポジション)

米国では多くの企業の決算発表が続く。

米国大統領選がいよいよ近づいてきた。市場はかなりトランプ氏の優勢に傾き始めたように思えるが、ここからの数週間は不透明要因が高い。世界的に株価は好調であるものの、私はいったんリスク量は調整すべきと考えている。もちろん米国株には中長期的に非常に強気ではあるが、今年はアノマリー的に弱い9月相場もなく、ここまで順調に推移してきたと言える。米国株は「上出来」なのだ。更に上昇していく可能性は高いだろう。しかし、米国大統領選、世界の不安定な状況、小型モジュール関連の大騒ぎを鑑みれば、いったんリスク量を落とすことは検討に値するだろう。大統領選が終わって、決算動向を確認してから、またリスクを取ればいい。もちろん、今の米国市場はかなりの追い風が吹いており、株式市場との向き合い方は様々だ。更にリターンを追い求めることも決しておかしいとは思わないが、私は目先は慎重にやり過ごしたいと考えている。
今週は以上です。暑かったり、寒かったり、ちょっと体調管理が大変ですね。ゆっくり休みましょう!!


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