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来週の相場見通し(11/4~11/8)① (今年最大のイベント 米国大統領選)

1.はじめに

今週は大統領選直前の週であり、市場では大統領選を意識した動きが中心だった。こうした中で、雇用統計などの重要な経済指標が発表され、ある意味でサプライズ的であったが、ハリケーンやストライキの影響が強く、非常にダーティーなデータであるため、あまり分析しても意味がない。市場で明確な動きは、世界的に金利上昇が継続しているという点である。
来週は大統領選一色になるだろう。結果がすぐに出ない可能性も高い。市場では、ハリス氏が勝利した場合は、「金利低下、ドル下落、株は動意なし」という見方が強く、トランプ氏が勝利の場合には、「金利上昇、ドル高、株高」との予想が強いが、私はトランプ氏が勝利の場合は、議会の状況にもよるが、「金利上昇、ドル高、株安」で反応すると警戒している。今回は、その点について中心に考えていきたい。まずは、米国大統領選をざっと振り返ろう。

2.米国大統領選

(1)異例の大統領選

さて、いよいよ来週は米国大統領選である。4年に1度に世界が注目するこのイベントであるが、今回はその中でも異例中の異例の大統領選であった。まず現職のバイデン大統領が史上最高年齢でありながら、大統領選から撤退せずに予備選に進んだことから、民主党内の有力な大統領候補達は、「現職大統領が二期目に挑戦する場合は尊重する」という伝統に従って、出馬を見合わせた。しかし、バイデン氏のメディアへの露出が増えれば増えるほど、言動に年齢からくる衰えが目立つ(時に奇行)ようになり、民主党内からも「バイデン大統領で大丈夫か?」との不安が拡大していった。一方の共和党サイドでは、トランプ候補を中心に予備選が戦われた。当初はスター候補だったフロリダ州知事のデサンティス氏が失速し、やがて選挙戦から撤退していく。最終盤まで粘り強く選挙戦を戦い抜いたのはニッキー・ヘイリー氏であった。トランプ氏は複数の罪状で起訴され、女性問題に関する口止め料の虚偽記載では34件の罪状で有罪判決が出るなかでも、トランプ氏への支持者の人気は衰えず、結局は共和党の正式な大統領選候補となった。こうして民主党からはバイデン大統領、そして共和党からはトランプ氏という対立構図が完成した。初のテレビ討論会は、通常は9月に開催されるのだが、6月に前倒しで実施された。これも異例だ。そして、このテレビ討論会でバイデン大統領は、あまりに精彩を欠いた姿を視聴者の前で晒してしまい、賭けサイトではこのテレビ討論会後に、トランプ氏の勝利確率が急上昇し、多くの人が「勝負あったね」という感想を持った。7月にはトランプ氏に更なる追い風が吹く。遊説演説中に暗殺未遂事件が発生したのだ。銃弾はトランプ氏が偶然、頭を傾けたことで耳をかすめたに留まり、大事には至らなかった。多くの専門家が、トランプ氏が僅かに頭の位置を変えたことが、運命を変えたと分析している。「シンゾーの声が聞こえたような気がしてね・・」とトランプ氏が答えたとの噂が盛り上がったが、これはデマのようだ。そして、この暗殺未遂事件直後のトランプ氏の行動が歴史的なものとなった。耳から血を流しながら、勇敢に立ち上がり、拳を天に突き上げて「戦え、戦え、戦え」と叫んだのだ。この日は雲一つない晴天だった。トランプ氏が拳を突き上げ、その後ろに星条旗が風に揺られている。そんな「奇跡の一枚」となる写真が見事なアングルで撮影された。この瞬間に、全ての人がトランプ氏の強さを認識し、大統領選の勝利を確実なものとしたと感じたことだろう。更に言えば、トランプの熱狂的な支持者は、この暗殺未遂事件でトランプ氏が九死に一生を得たことを「神の啓示」と信じた。トランプ氏は、米国を救うという大きな仕事のために、神に生かされたというロジックである。トランプ氏自身も、この事件の直後は何やら憑き物が落ちたような晴れやかな、そして柔和な表情で民衆に語りかけ、聴衆も「「トランプ氏が生まれ変わった」というような話題がよくされたものだ。もちろん、それは一瞬のことで、トランプ氏はすぐに攻撃的に相手を罵るいつもの姿勢に戻ってしまったが。
こうした状況に焦りに焦ったのが、民主党の指導部である。このままでは、トランプ氏に負けるだけでなく、上院、下院の全てを共和党に取られる。こういう危機感の中で、バイデン氏を選挙戦から撤退させる協調行動が取られていく。バイデン氏は最後まで撤退を拒んでいたが、ペロシ元下院議長やオバマ前大統領の説得工作、そして何より選挙活動資金の急減により、バイデン氏は大統領選からの撤退を決めた。大統領選の年の7月に撤退するのは前代未聞である。そして、バイデン氏に代わり、副大統領であるカマラ・ハリス氏が民主党大会で正式に大統領候補に選出されたのだ。副大統領時代は悪評が多く、史上最低の副大統領と批判されてきたハリス氏であるが、高齢のバイデン氏から、若くて見栄えのするハリス氏への交代で人気が急速に高まり、ある意味でお祭り騒ぎの中で、支持率を高めた。選挙資金も潤沢に集まり、8月から9月にかけては、支持率でトランプ氏を逆転した。ハリス氏は、このようにとんとん拍子で大統領候補になったので、民主党の予備選も戦っていない。どのような政治信条があり、どのような長所、短所があるのかもよく分からないなかで、ご祝儀相場的に人気が高まったのだ。しかし、大統領選挙は、そんな簡単ではなかった。9月後半になると、米国な大型ハリケーンの被害に襲われた。また、中東ではイランとイスラエルの緊張の高まりなど、地政学リスクが一段と目立った。こうした緊急時にバイデン政権、ハリス氏は適切に対応できていないとの批判的ムードが出てきた。更にはハリス氏が、どうもアドリブに弱く、演説中に精彩を欠いたり、テレビ番組の司会者に追いつめられるなど、その能力にも疑問が付き始めた。こうなると、作られた人気が剝げ落ちるのは早く、10月になると激戦7州の全てでトランプ氏に逆転される状況になったのだ。現在では、接戦との見方が強い。これが、今回の米国大統領選の振り返りである。接戦とのことだが、世論調査がどこまで信用できるかも不明であり、我々は11月5日の結果を見守るしかなそそうだ。

(2)直近の世論調査

先週までは激戦7州の全てでトランプ氏が優勢であったが、直近(11月1日)では、リアル・クリア・ポリティクスの予想では、ミシガン州とウイスコンシン州でハリス氏が逆転しているようだ。そして、実はミシガン州とウイスコンシン州は、ペンシルベニア州と合わせてラストベルト地帯であり、ペンシルベニア州も逆転するかもしれないと目されている。そうなると、このラストベルト3州だけで44人の選挙人を総取りできることから、ハリス氏は勝利できるとの思惑も広がっている。いずれにしてもかなり接戦だ。

(リアル・クリア・ポリティクス)

一方で賭けサイトの予想であるが、こちらも全ての州でトランプ氏が優位だったのが、ミシガン州とウイスコンシン州でハリス氏が逆転している。

(Polymarket 予想)

(3)市場の備え

こうした状況の中で、各市場も大統領選に備える動きとなっている。まずは金の価格である。これだけ米金利が上昇している中でも、リスクヘッジ資産として、金の上昇は継続してきた。直近では、やや利益確定売りも出ているが、史上最高値を更新してきたのだ。

(金価格)

ビットコインもトランプ氏が優勢になると、規制緩和が拡大するとの思惑から、トランプ氏優勢の報道に合わせて上昇してきた。ここもと、ハリス氏の追い上げで、ビットコインも売られている。

(ビットコイン)

次に銅の価格だ。トランプ氏が勝利すると、世界的に関税が適用され、世界経済が減速したり、貿易量が減少するとの思惑から、上値の重い展開が継続している。

(銅価格)

為替市場では、トランプ氏勝利=ドル高とのイメージが強いため、9月後半からトランプ氏が優勢になると、ドル高が進行してきた。(下図)しかし、これは市場のイメージであり、実際にはトランプ氏が勝利して、ライトハイザー元USTR代表などが政権入りすると、明確な「ドル安政策」を取る可能性もある。

(DXY Index)

このように、各市場は大統領選に備えた動きをしている。問題なのが債券市場と株式市場である。

(4)米国債券市場

まず最新の市場のFF金利の織り込みだが、11月に25bpの利下げはほぼ100%織り込んでおり、12月の追加利下げも8割がた織り込んでいる。そして、来年3月末までには更に追加の25bpの利下げが見込まれている。ちなみに、来年末までの利下げの織り込みは5回弱まで後退している。9月のFOMC後の段階では8回ほどの利下げが想定されていたので、かなり利下げ見通しは後退したと言えるだろう。余談だが、利下げ見通しが1回後退すると、現在のドル円市場では約4円の円安が進行する関係性がある。3回の利下げ分で約12円の円安圧力となるわけだが、9月に140円を割れる円高局面から、足元まで13円超の円安が進んでおり、概ね一致している。

(FF金利織り込み)

ところで、米国の2年金利は、今週も更に上昇して4.2%台に到達している。

(米2年金利)

これは、私にとってはやや想定外の展開だ。何故なら、FF金利の先物の織り込みが正しいとして、この先にその通りに推移するとすれば、現在の適正な2年金利の水準は3.8%を下回るレベルだからだ。だから、私は米2年金利は4%近辺から大きく乖離しないと見込んでいた。
逆に2年金利の水準が正しいとするなら、来年早々にもFRBの利下げは停止してしまうことになる。現在の2年金利のレベルは、「FRBの浅くて短い利下げ」を織り込んでいることになる。FF金利先物の織り込みと、2年金利が示す先行きのどちらが正しいのか?これは、今後の1つの注目点となるだろう。もちろん、今の2年金利には大統領選に伴うタームプレミアムの上昇が加わっている。しかし、通常は2年の短期債に生じるタームプレミアムはそれほど大きいものではないはずであり、市場はどちらかと言えば、インフレ再燃シナリオを見込んでいるのかもしれない。確かに米国のインフレの再燃リスクは、来年の重要なテーマとなる。今週発表されたコアPCEは3カ月連続で2.7%だった。下のチャートのように順調に低下してきたのだが、それ以上は下がりにくくなっている。ラストワンマイルどころか、2%に近づけないのだ。

(コアPCE)

さて、次に米国債のタームプレミアムであるが、引き続き高い水準にある。(下図)

(米国債タームプレミアム)

債券市場のボラティリティを示すMOVE指数もちょっと無視できない水準に上昇してきている。

(MOVE指数)

今週は財務省が四半期定例入札を発表した。中長期債の発行規模は、前四半期から据え置きの1250億ドルとなった。(3年債580億ドル、10年債420億ドル、30年債250億ドル)これは市場の予想通りだった。更に市場が警戒していた先行きのガイダンス変化もなかった。すなわち、「少なくとも向こう数四半期は中長期債の発行を増加させる必要はない」とのことだ。市場では、ハリス氏、トランプ氏のどちらが勝利しても、米国の財政の悪化は既定路線であり、来年の夏場以降は国債が更に増発されると見込んでいるが、とりあえず当面は現状が維持されそうだ。
米国債のタームプレミアムは様々な要因が含まれるが、その中の重要な要素として債券需給がある。米国債の発行、すなわち供給が当面は増えないとなれば、需要サイドが強くなれば、タームプレミアムの低下要因となる。その点では、来週のFOMCはやや注目されている。量的引き締め(QT)終了の議論のスタートである。FRBは、現在の量的引き締めは、金融市場に過度なストレスを与えていないとの立場を取っている。レポ金利が上昇する局面が見られても、それはQTとは別要因の一時的なストレスとの見解である。しかし、いずれQTは、終了させる必要がある。FRBは政策の予見性を示すことで、市場との対話を強化しているため、突然QTを終了することはなく、FRB内で議論が始まっていることを示し、市場にQTの終わりを意識させながら、実際に終了に向かうプロセスとなるはずだ。ゆえに、議論のスタート自体は、FRBの意図でいつでも行うことができる。足元の米金利のタームプレミアムの上昇を理由とした不安定な推移を鑑みれば、来週のFOMCでQT終了に向けた議論が行われたことを示すかもしれない。このことは、市場においては需給を改善させることから、タームプレミアムの低下要因となるだろう。

しかし、そう楽観できないのも事実だ。明日は、金利上昇のリスク要因と、大統領選後の最大のリスクポイントと株式市場を取り上げる。
前半は以上です。(ちょっと体調悪く、寝ます・・・)





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