来週の相場見通し(6/17~6/21)
1.はじめに
今週は、非常に重要な週となった。結論から言えば、市場にとって都合の良いゴルディロクス相場が作られようとしている。但し、これは「雰囲気ゴルディロクス相場」であり、真の意味でのゴルディロクス相場ではない。その点について、今回は簡易版でポイントだけ説明したい。
2.「雰囲気ゴルディロクス」
いきなり、結論から入ろう。今週のFOMCで、FRBは「インフレについては超慎重なスタンス、労働市場については超楽観的な見通し」を示した。市場では、今後発表される経済データは、インフレについてはFRBが想定するより良いものが出てくる一方で、労働市場については、FRBの見通しよりも悪いデータが出てくると考えている。つまり、FRBと市場とで先行きの経済見通しに乖離が発生したのだ。これまで市場とFRBは年内の利下げ回数について乖離が拡大したり縮小したりしていたが、現在は利下げ回数ではなく、経済見通しそのものに乖離が出ているのである。市場はFRBはタカ派過ぎると考えており、そのタカ派なFRBが年内に1回の利下げを想定している。ということは、市場は「年内に1回以上の利下げは、ほぼ確定」と考えることができるようになったのだ。タカ派過ぎるFRBが年内に1回の利下げを見込んでいる中、今後の経済指標データはより利下げを正当化するものが多く出てくるだろう。FRBがハードルを下げたからだ。市場は最低でも年内に1回の利下げ、今後はそれが1回から2回以上に修正されていく道筋になると考えているということだ。これは、米金利がもうピークを付けたということに等しい。ゆえに金利面では、ゴルディロクス相場を産み出すのだ。但し、これはFRBが利下げと経済状態のハードルを下げたことによる「雰囲気ゴルディロクス」なのだ。米金利は下がるだろうが、ここまで好調な米国株が堅調地合いを維持できるかは楽観視すべきではない。私は米国株は年末に向けて更に上昇していくと見込むが、短期的には不透明になってきたと考えている。それは、やはり経済データの悪化が続くと「Bad news is bad news」になっていくからだ。雰囲気ゴルディロクス相場は、モメンタムが強いうちは継続する。しかし、そう長く続くものではない。当面は米金利については、上がりにくく、下げやすい展開。米国株は、モメンタムが強いうちは底堅い展開だが、なにかのきっかけで市場のムードが変化した瞬間に、調整局面に入りやすくなっていると考えている。これが本日の結論だ。
それでは、もう少し詳しくFOMCを見ていこう。FOMCでは、7会合連続で金利が据え置かれた。注目されたドット・チャートでは、年内の利下げ回数は3回から1回に減少し、25年は3回から4回に引き上げられることでバランスが取られた。ロンガーランも2.6%から2.75%に上昇した。経済成長見通しでは、24年の実質GDP、失業率ともに前回から変更なし。コアPCEは2.6%から2.8%に引き上げられた。今月末に発表されるコアPCEは前年比+2.6%まで低下すると見込まれている。つまり、FRBの年末時点の+2.8%という予測値はかなり保守的だ。パウエル議長の記者会見でも、最初の質問者であるCNBCの名物記者であるスティーブ氏から、「コアPCEが年末に2.8%と予測しているが、最新のデータでは今月末のPCEは2.6%になる可能性がある。これが意味するのは、年末までの半年間インフレは全く改善しない、または悪化すると見ているのか?」という鋭い質問がされていた。この質問に対して、パウエル議長は「保守的な予測が反映されている」と言ってしまっている。一方で失業率予想の4.0%については、直近の雇用統計で既に4.0%に到達してり、FRBが高い政策金利を維持するのであれば、今後は一段と悪化する可能性が高いため、これは楽観的過ぎると言わざるを得ない。すなわち、FRBの予測はインフレに対しては慎重で、雇用に関しては楽観的過ぎるということだ。つまり、今後の経済指標データは、市場にとって利下げについてはポジティブなサプライズが出やすいということだ。実際に今週はそのような経済指標が次々に出ている。
下のチャートは、FOMC前に発表された5月のCPIの内、スーパーコアの前月比の推移であるが、今回のデータでは▲0.04%に鈍化して、サプライズとなった。
その翌日のPPIについても、コアPPIの前月比は市場予想の+0.3%の伸びに対して、前月比横ばいとなり、鈍化を示した。このCPIとPPIを受けて、今月末に発表されるコアPCEは+2.6%程度まで減速するという見方が更に強まった。
市場の関心の高い新規失業者保険申請者数は、市場予想の225千件に対して、下のチャートのように242千件に上昇するサプライズとなった。カリフォルニア州、NY州、テキサス州、イリノイ、ミネソタなど幅広い州で増加している。ちょうどメモリアルデーなどの祝日が近かったことから、ノイズの可能性もあるものの、労働市場は雇用統計以外は減速を示し続けていることが確認された。
週末に公表された輸入物価指数も予想を下振れた。市場予想の+0.1%程度の上昇に対して、前月比▲0.4%となった。コア輸入物価も市場予想を下回り、インフレ圧力の改善を示すデータとなった。
ミシガン大学マインド指数も市場予想を大きく下回った。市場予想の72に対して、65.6と大きく乖離して低下した。
特に消費者の耐久財の購入環境に対するマインド調査は大きく悪化している。(下図)今後の消費需要の抑制が心配されるデータとなった。
こうしたインフレ鈍化、景気の減速を示す経済指標がFOMC後に相次いでいる。米国10年金利は、一時3月後半以来の4.2%割れとなった。
10年金利と2年金利の逆イールドは、足元で50bpを目指して拡大中である。市場は米国の先行きの景気見通しに慎重になってきている。
こうした環境では、米国債投資は徐々に活発化する可能性がある。特に今月は、需給環境も良好だ。事業会社の企業の起債が少ないほか、FRBによるQTペースの縮小も開始された。6月末は、四半期末(米系には中間期末)の中で、株高が進行していることから、リバランスに伴う債券へのフローも大きくなると予想される。今の市場は金利が低下すると、金利上昇を見込んでいたプレイヤーのロスカットを招きやすい。また債券プレイヤーは米債投資に慎重な姿勢を維持してきたことから、金利がじりじり低下していくと、米債投資が遅れていることの焦りから、慌てて投資を加速する展開もあり得る。私は米金利は4.1%台前半程度までの金利低下を見込んできたが、場合によっては月末に向かって4%を試す展開も想定しておきたい。
さて、ロンガーランについて、少しだけ取り上げる。今回のFOMCでは論ガーランが2会合連続で引き上げられ、中央値が2.75%となった。市場では中立金利に対する注目度が高いため、今回の引き上げが市場を動揺させる可能性もあったが、特に大きな騒ぎは起きなかった。メンバーの予測では相変わらず2.5%を予測する人は最頻値である。前回時点では8名が2.5%を予想していたが、これが5名に減った。2.75%に2名、3%に1名がシフトしたようだ。但し、俯瞰すると大きな構造はあまり変わっていない。最も高い値を予想するメンバーも3.75%の1名ということも変わっていない。とりあえず、私は今回のロンガーランの引き上げは「誤差程度」と考えている。
3.欧州の状況
欧州の政局が荒れている。欧州議会選挙では予想通り、中道二大会派の欧州人民党(EPP)と社会民主進歩同盟(S&D)が概ね勢力を維持する一方で、極右会派である欧州保守改革(ECR)などが躍進した。一方で環境政党などが大幅に議席を減らした。特にフランスでは、マリーヌ・ルペン氏の国民連合が、マクロン大統領率いる与党「再生」の2倍以上の得票率とり、マクロン大統領は下院を解散した。この欧州、特にフランスの混乱を受けて、ドイツとフランス国債のスプレッドは急拡大している。2017年にはフランス大統領選挙でルペン氏が躍進した際に、独仏スプレッドは80bp近辺まで拡大したことがある。(下図)
過去のケースでは、こういうリスクが浮上すると、独仏スプレッドは拡大し、イベントが通過すればスプレッドは縮小する。今回もフランスの下院選挙が無事通過すれば、スプレッドはある程度は縮小するだろうが、元の水準には戻らないかもしれない。一方でルペン氏が勝利した場合には、一段とスプレッドは拡大するだろう。但し、実はドイツも政局不安を抱えている。9月には3つの州議会選挙があり、全て極右政党が勝利する可能性も指摘されており、フランス国債の逃避マネーが素直にドイツ国債に向かいにくいケースも想定される。意外と米国債が受け皿になるかもしれない。さて、マクロン陣営、ルペン陣営にはそれぞれ注目の若手政治家がいる。下院の選挙対決は、この2人の対決でもある。ルペン氏が勝利すれば、バルデラ氏はフランス史上で最年少の20代の首相となるかもしれない。日本からすると、ちょっとびっくりするような若さだ。
今回は、ひとまずこれで終わりだ。時間があれば、今週の日銀金融政策決定会合や来週のポイントを整理したいが、基本的には雰囲気ゴルディロクスの中で、どのように立ち回るのかを考えれば良いだろう。それでは良い週末を!