来週の相場見通し(5/23~5/27)
先週までの市場では、米国優良株の全面安、暗号資産の急落、ハイイールド・スプレッドの拡大など、全面的なリスクオフの兆候があったが、先週後半から、今週前半の米国株式市場が急反発したことで一時的に安心感が広がった。しかし、18日の米国市場でダウは2年ぶりの大幅安となり、ダウ、S&P500ともに年初来安値を更新した。そして結局週後半も地合いは弱いままで終わった。週間ベースではダウは8週連続安となり、これはなんと99年ぶりということだ。米国株式市場の底打ちへの期待が強かっただけに、今回の急落は典型的な「デッド・キャット・バウンス」を市場に連想させ、再びセンチメントは大きく悪化した。前回のこのレポートで記載したが、先週は重要な週だった。先週のマーケットで底固めできれば、市場の心理はとりあえず回復しただろう。しかし、結果として先週はむしろ今後の展開に疑念を抱かせるものとなってしまった。つまり、例えば今週市場が反転しても、投資家は、それがまた1日でムードが転換することを恐れてしまうということだ。現在マーケットでは、「バイヤーズ・ストライキ」なる言葉を聞くようになった。つまり買い手がストライキを起こしている、リスクを取ることを恐れる言葉としては最大級の表現だろう。もちろん、市場はいつもオーバーシュートするので、既にここまで投資家の心理が冷え込み、現金保有比率が高い状況は、もう底値圏を示唆しているのかもしれない。しかし、相場の天井と底は誰にも分からない。後になって分かるものであり、ここで最大限のリスクテイクをすることは投資というよりは投機になる。また、相場の下落の仕方も、いきなりVIX指数が50に跳ね上がるようなものではなく、「25から35」という高水準に張り付いている。つまり、オーバーシュートや達成感のある下落ではなく、だらだら低下しながら、上値が切り下がっているのは、まことに厳しい展開である。但し、私は米国株の下落は続かないと思っている。長期投資家においては、良い株を買えるチャンス局面だと捉えている。しかし、短期的にはまだ不安定で更に下落する展開は否定できない状況だ。ちなみに、米国株を長期的に強気に見ている理由は3つだ。①健全化の進展、②アニマルスピリット、③企業業績だ。米国株は昨年から既に新興電気自動車メーカーの株やSPACで上場した銘柄などは、大きな調整をしていた。実体の伴わない企業への投資家の厳しい目線は既に昨年から始まっていたのだ。下のチャートはルネルサンスIPOと新興電気自動車カヌーの株価チャートだ。
これに対して、今年の特徴は大手プラットフォーマーなど、これまで底堅かった銘柄も大きく調整している。とりわけ、アップルのようなバリュエーションが高くない銘柄の調整も進んでいる。
こうした強固なビジネスモデル、唯一無二のブランドネームを持つ企業の株価が調整し、実体を伴わない企業の株価が下がるところまで下がったというのは、相場の底に近いところに来ていると思う理由だ。そして、米国市場ではアニマル・スピリットが顕在だ。分かりやすい事例は2つ。1つはバフェット氏の動向だ。同氏が率いるバークシャー・ハサウエイは今年の第一四半期に511億ドル以上の株式を購入した。同社としての四半期の過去最高投資額は2018年第三四半期の177億ドルであるから、同社としてもそれまでの過去最高額の何倍もの資金を投じている。世界一有名なバリュー投資家が、動いている。バリュー投資家が動いているということは、割安な株が出現しているということだ。2つ目はハイテクの女王のキャシーウッド率いるアークのETFの動向だ。
このチャートが示すように、アークの旗艦ファンドは急落している。アークが一般の人に有名になったのは、2020年の驚異的なパフォーマンスであったから、そこから資金流入が加速して、多くの投資家が2021年頃の高値で投資しており、相当に損が拡大しているだろう。普通のファンドであれば、こうしたファンドは資金流出が起こる。しかし、アークのこのETFは今年も資金が純増している。解約する人もいるが、ネットで見ると資金流入が継続しているのだ。これも米国のアニマル・スピリットを示している。つまり、バリュー投資家が動き、その対極にあるハイグロース銘柄の将来性に賭ける投資家も多数いるということだ。そして、最後が企業業績だ。米国企業の最新の業績見通しでも、第二四半期は低下するものの、第三四半期以降から来年度にかけて10%弱の成長が見込まれている。なんだかんだ言って、米国企業の稼ぐ力は相当に強いということだ。もちろん、これから米国がスタグフレーションに陥るとか、様々なリスクはあり、業績は下方修正される可能性もあるものの、それでも今の時点では、業績はしっかりしているのだ。
さて、米国経済指標も見ておこう。 最近の米国経済指標では、5月のミシガン大学消費者信頼感指数が59.1と2011年以来の水準に急低下したほか、5月のNY連銀製造業業況指数は予想のプラス17に対して、マイナス11.6と急減した。一方で4月の小売売上高は好調を維持したほか、前月の数字は大きく上方修正された。足元の高いインフレ率が、経済指標の振れ幅を大きくさせており、先行きの景気について楽観と悲観が入り混じる状況だ。極端にエコノミスト予想より下振れる経済データが出始めている点は要注意であり、今後の経済指標を総合的に見ていく必要があるだろう。下の図は米国のカード債務残高であるが、かなり増えてきている。米国の個人消費はまだ堅調であるが、その質は低下している可能性がある。米国人が実力以上にカードで消費するのはいつものことだが、このデータも注意していきたい。
米国について言えば、足元で期待インフレ率が再び低下している。これはインフレ見通しが変化しているわけでも、FRBへの信頼が強まっているわけでもなく、米国が景気後退になるリスクを織り込む人が増えているためだ。このように期待インフレは悪い形で低下しているにも関わらず、米国の名目金利はなかなか下がらない。6月から量的引き締めが開始されるのだから、下がりにくい。その結果として、景気後退が意識されているのに、実質金利である「名目金利ー期待インフレ率」は、+0.2%近辺と下がっていない。このミスマッチも株価にはネガティブな状況である。
中国株は反発している。中国政府が3月末から継続している上海のロックダウンについて6月中に解除する方針を示したのは明るい材料だ。中国の経済指標は、4月の工業生産が▲2.9%と2年ぶりのマイナスとなったほか、4月小売売上高も前年比▲11.1%に急低下、上海の4月の新車販売はゼロ!?と、ロックダウンの影響が直撃している。中国政府がゼロ・コロナ政策を緩和に動けば、マーケットにはリスクオン材料となる。
中国について、最近では注目度の高い中国国債への資金フローであるが、今月はやや流出額は減少したものの、依然として高い水準で流出が継続している。来月のデータに注目したい。
さて、ウクライナ危機の余波として、スウエーデン、フィンランドがNATOへの正式加盟申請に動いた。現状ではトルコが両国の加盟に反対の立場を表明しているが、両国の加盟は承認される可能性が高い。更には永世中立国として知られるスイスでも、NATOとの関係強化や連携が議論されており、戦後の国際秩序やパワーバランスは大きな過渡期を迎えている。
米国のロシアに対する制裁について、来週25日まではロシアがドル建て債の支払いを行うための資金決裁は制裁の対象外とされてきたが、米国はこの措置を延長しない方向で、ロシア国債をデフォルトに追い込むことが検討されている。ロシア国債がデフォルトになると、新興国スプレッドの拡大に多少影響が出るかもしれない。新興国スプレッドはじりじり上昇している。新興国リスクは、今年の裏テーマでもあるが、下のチャートを見ると、このスプレッドが5%を超えるのは、かなり異例だと思われる。5%を超える場合、他の市場に波及する可能性があるだろう。
日本において4月の企業物価が前年比10%の高い伸びとなった。輸入物価も前年比44.6%と高い。需要段階別の価格指数の伸びでは、素材・原料が65.5%、中間財が18%、最終財が4.9%と川上から川下に従って低下している。3月の消費者物価は1.2%であり、企業が消費者への価格転嫁に苦労している実態が示された。ただ、帝国データバンクが上場企業105社に調査した結果では、1月から5月に4,770品目が既に値上げされ、6月以降は3,615品目がさらに値上げとなる見込みだ。今年中には8,385品目が値上げとなり、平均の値上げ率は12%とのことだ。こうした影響が、日本の消費者の行動にどう反映されるかは今後の注目ポイントだが、岸田政権の支持率が上昇している点は興味深い。他国では、インフレによる生活費高騰により、各国政府の支持率は低下している。こうした中で岸田政権の支持率が上がっているということは、日本では消費者がそれほど痛みを感じていないのかもしれない。さて、日本企業の決算については東証プライム企業の純利益は4年ぶりに最高益を更新するなど、円安を背景に業績は好調だ。日経平均については、PBR1.1倍の水準は25,500円近辺まで切り上がっている。これが日本株が底堅い要因の一つと思われる。一方でソフトバンクなどの赤字により、EPSは決算前から横這いだ。すなわち、日本株は底堅いものの、上値も重い展開が見込まれる。従って、相場が不安定な局面では米国株よりも日本株が優位となるだろう。但し、反転局面では日本株よりも米国株優位となりそうだ。
今週は日米首脳会談、クアッド首脳会議など外交に注目が集まる。岸田政権の支持率は上昇しており、外交でも点数を稼げば、夏の参院選挙は大勝する可能性あり。但し、オーストラリアの総選挙でモリソン首相率いる与党連合が負けてしまい、9年ぶりに労働党に政権交代が起こることになった。オーストラリアは、クアッド、オーカス、そしてバイデン政権が発足させたいIPEFの要であり、この政権交代の影響はやや波乱要因だ。今のオーストラリアの労働党は、かってのような親中政策ではないものの、モリソン首相の政権のようには進まないかもしれない。今週は日米株価ともに反発する展開を見込んでいる。日経平均株価は2万7千円回復を予想しているが、2万8千円台は近いようでまだ遠いと感じている。想定レンジは26,300円から27,500円を予想している。