来週の相場見通し(10/28~11/1)②(衆院選挙と来週のポイント)
1.日米株式市場
(1)米国株式市場
今週は米国株式市場も上値の重い展開で推移した。米国の決算発表は総じて良好だ。S&P500採用企業の181社が決算発表を出した時点では、8割弱の企業が予想を上回る決算で、第3QのEPSの伸びは4.4%程度が見込まれている。第2Qとの比較では冴えないものの、一時的な落ち込みであり、先行きは堅調な業績が見込まれている。(下図)但し、今週の決算発表はまちまちで、冴えない決算を発表した企業は、それなりに激しい下落をしている。
これまでの181社の業績発表を踏まえた直近のセクターにおけるEPSについて、7月時点と比較したのが下の表だ。好決算が目立った金融セクターが大きく上方修正されている一方で、エネルギー、資本財、素材などは下方修正が大きいことが分かる。恐らく今後決算発表が進んでいくと、S&P500全体では7月時点程度の8%~9%水準まで上方修正されていくのが、これまでの決算パターンだが、今週の主力企業の決算が、総じて冴えなかったことはちょっと気になる。
今週は米国株の上値が重かったが、その要因は決算ではなく、米国大統領選前のポジション調整と米金利上昇によるものが大半だろう。S&P500のセクターの週間パフォーマンスは以下である。一般消費財に含まれるテスラの急上昇がこのセクターを牽引したのは言うまでもない。
各種の指数では、マグニフィセント・セブンが週間で+3.5%と好調だった。もちろんテスラとエヌビディアの影響である。一方で米金利上昇を受けて、小型株が冴えなかった。
ファクターのパフォーマンスが下の表にまとめてある。どの戦略も今週は売りに押された。要するにポジション調整が広範囲に起こっているのである。
それでも、総じてみれば米国株は大した下落ではない。米国の金利は上昇しているものの、実質金利はまだ2%を超えていない。(下図)米国大統領選後に実質金利がどう推移するかは重要なポイントになるだろう。
米国の投資適格債スプレッドも安定しており、米国経済は好調だ。
また、今週はテスラ株の急上昇というサプライズがあった。テスラはロボタクシーイベントで投資家の期待に応えられずに株価は急落したが、オプティマスとスペースXの使用済みロケットの回収により、再び評価を高めた。そして、今回の決算を迎えた。EPSは予想を上回り、車両1台当たりの製造コストを過去最低の35,100ドルまで引き下げることに成功した。販売台数の462,890台は前期比年率+6.4%だ。更に10-12月期は50万台を大きく超える販売台数を見込んでいるほか、イーロン・マスク氏は来年は230万台に達するとの超強気の見通しを示した。新型の低価格モデルを25年前半に生産することも投資家を安心させた。テスラについては、ロボタクシーやFSDの将来性がよく語られるが、私はテスラの蓄電池に注目している。今回の決算でも、エネルギー部門のマージンは過去最高で強烈に成長していたが、この成長はまだまだこれからだと思う。
唐突だが、SF社会というのは、どんどん現実化している。SF映画やアニメなどの技術は注目に値するのだ。例えば、攻殻機動隊の光学迷彩のような技術は、既にかなりのクオリティで実現している。そういう視点で、SFの中の戦争シーンを思い出してほしい。ガンダムにしろ宇宙戦艦ヤマトにしろ、未来の兵器は大抵はレーザー砲やビーム砲が中心だ。しかし、現代の主力兵器には、未だにレーザー兵器は登場していない。しかし、近年のウクライナ戦争や中東戦争では、ドローン兵器の役割が極めて大きくなっていることは明らかだ。そして、この安価なドローン兵器を通常のミサイルで迎撃するのは、あまりにコストが高くつく。ドローン対策としては、明らかにレーザー兵器が理に適っているだろう。レーザー兵器の実用化には、高エネルギーの発電、蓄電技術、冷却技術、光学技術、センサー技術など、まだまだ色々なブレイクスルーが必要だと思われるが、イスラエルは既にアイアンドーム・レーザー兵器の開発を実施しているほか、米国も軍事企業のレイセオンなどがHELWSと呼ばれる高出力のレーザー兵器を開発している。英国軍の「ドラゴン・ファイア」も対ドローン兵器として注目度が高い。そして、このレーザー兵器用の蓄電池関連でテスラは将来的にキープレイヤーになると考えている。スペースXとの親和性も高そうだ。ちょっと先走り過ぎていることは間違いないが、テスラは自動車会社ではないのである。将来がとても楽しみだ。
ところで、今週はボーイングの労働組合が、会社側の提示した賃上げの条件等を否決した。会社側の提案は、今後4年間で35%の賃上げ、従業員の401Kに対する会社の補助の拡大、7千ドルの一時金支給を盛り込んだ会社提案であったが、ボーイングの組合員の64%が反対したのだ。組合員は何を要求しているのか?1つは今後4年間で40%の賃上げだ。これは会社側も妥協する可能性が高い。しかし、組合が要求する「確定給付型年金制度の復活」については、会社側は認めることはできないだろう。2014年にようやく廃止したもので、長年に渡り会社は確定給付債務に悩んできたのだ。確定給付型年金制度の代わりに401Kへ会社側が拠出しているのであり、確定給付型年金制度の復活は、企業の安定的な財務運営を危うくする。どこかで折り合うのであろうが、ストライキは長期化しており、ボーイングの混乱はNYダウのパフォーマンスの足を引っ張りそうだ。
さて、来週は注目決算が盛りだくさんだ。マグニフィセント・セブン銘柄も続々と登場する。市場はこれらの決算から、エヌビディアの決算を憶測する展開になるだろう。アップルの業績も非常に注目だ。但し、来週は米国大統領選前の最後の週であるほか、雇用統計などの重要経済指標も出てくる。個別株の決算で上下しそうだが、全体としてはリスクは取りにくい地合いが継続しそうだ。個別株買いとヘッジの指数売りがミックスする展開になりそうだ。
(2)日本の株式市場
今週の日本株式市場は、上値が重い展開が継続した。ローソク足チャートでは、11日連続の陰線という珍しい状況も発生した。「衆院解散から選挙日までは買い」というアノマリーは、今回は完全に外れたことになる。それだけ、今回の衆院選挙は色々な意味で異常な状況にある。
色々と書きたいことはあるのだが、明日が選挙日となるため、選挙後に話を絞って整理しておく。
(自民党単独過半数確保)
可能性:極めて低い
自民党内:石破政権、それを担ぐキングメーカーの権力アップ
政策運営:
石破政権の変節作戦が成功体験となることから、来年の参院選挙までは同じ戦略で臨む。つまり、市場フレンドリーな政策を継続。但し、政権基盤が強まったことで、石破首相が12月の与党税制大綱で、増税路線を打ち出せば、株式市場は上値が重くなる。
市場動向:初動は株高、日経平均は3万9千円台回復、ドル円は147円台
(自公で過半数確保、自民単独では過半数割れ)
可能性:高い
自民党内:自民党内の権力闘争活発化、参院選前には石破降ろしも。
政策運営:
来年の参院選を鑑みると、やはりポピュリズム的な政策を志向。補正予算の規模は可能な限り大きくし、バラマキ政策を実施。石破首相の勝敗ラインはクリアーするも、自民党内では石破降ろしも含めて、権力闘争が活発化。
市場動向:株式市場は今週の下落分を取り戻す動きで、日経平均株価は3万9千円台回復も、4万円台を積極的に買い進む材料に乏しい。為替市場は上下に乱高下しつつ150円台で膠着感を強める。
(自公で過半数割れ)
可能性:高い
自民党内:石破政権はレームダック化、首相、幹事長は辞任。
政策運営:
石破首相の勝敗ラインを割り込むため、引責辞任の可能性。但し、今回の選挙は岸田政権への国民の審判であり、石破政権はまだ何も実行していないため、新たな連立政権の枠組みによっては、石破首相が当面は継続する可能性もあり。
市場動向:最も荒れるシナリオ。株式市場は、日経平均株価で3万6千円台前半まで一気に売られるイメージ。リスクオフの中で円高も同時に進行して、145円近辺へ。その後は連立政権への思惑が高まる。国民民主党との連立となれば、高圧経済への期待から急速に株高、円安、金利低下となる可能性。すなわち、高市トレードと同じような展開が、「玉木トレード」として起こる。維新の会との連立の場合は、マーケットの反応は難しくなる。
だいたいこんなイメージだろうか。自公で過半数割れとなった場合は、どこと連立を組むかがポイントだ。現実的には国民民主党か維新の会であろう。従って、次の点は注意しておきたい。
(国民民主党)
・名目賃金上昇率が4%になるまでは積極財政と金融緩和の「高圧経済」路線で経済を回復させる。
・消費税を実質賃金が持続的にプラスになるまで一律5%に減税
・NISAの非課税制度の拡充で家計の金融資産形成をサポート
・最低賃金は全国どこでも自給1150円以上
・トリガー条項の凍結解除、電気代値下げ
・原発推進、SMR、新た発電、送電、蓄電、核融合技術の研究開発加速
・玉木代表は日銀の過去2回の利上げも反対姿勢
・国民民主党が連立政権入りすると、同党への失望から参院選で惨敗するリスクがある。従って、連立を組む場合には、玉木党首は「首相の座」を要求する可能性もあり得る。(可能性は低いかな)
(維新の会)
・消費税は8%の単一税制、軽減税率制度の廃止
・所得税、法人税などのフローに関する税金も現役世代活性化のために減税方針。
・社会保障改革で現役世代の社会保険料を軽減。高齢者負担増加。
・最低賃金1500円は反対。中小零細企業へのダメージが大きい。
・日銀法を改正し、日銀の目的として物価の安定だけでなく、雇用の最大化・名目成長率の上昇の3つを明記。(これは相当に市場では物議を醸す)
来週のマーケットは、日曜日の選挙次第で大きな展開となりそうだ。自公過半数割れの場合には、めまぐるしい展開となるだろう。新たな連立として、国民民主が入ると、リフレ政策がイメージされやすい。維新の会との連立もリフレ政策気味ではあるが、日銀に対する踏み込んだ発言もあり、この辺が不透明要因となる。いずれにしても、日本の選挙が終わっても、その後に米国大統領選が控えている。あまりに不確定要因が多過ぎるため、イメージは持ちながらも、臨機応変に状況を織り込んで調整していくしかないだろう。
来週からの2週間は、年内でもっともドキドキする、忙しい日々になりそうだ。最後に海外投資家の直近までの日本株へのフローだが、下のチャートのように全く盛り上がっていない。日本人でもよく分からない状況なので、海外投資家は当面は動けないだろう。
2.おまけ
BRICSプラス拡大
第16回BRICS首脳会議がロシアのカザンで開催された。BRICSは着実に拡大している。当初はブラジル、ロシア、インド、中国であったが、そこに南アフリカが加わり、BRICSとなった。今年の1月からは新たにアラブ首長国連邦、イラン、エジプト、エチオピアが加わり現在9ヵ国に拡大している。ちなみに、昨年の南アフリカでの首脳会議では上記の4ヵ国に加えて、アルゼンチンとサウジアラビアの加盟が認められたが、アルゼンチンは政権交代でBRICS加盟が撤回された。サウジアラビアは加盟の検討中である。
この9カ国で世界人口の約45%、世界のGDPの26%を占めると目されてきたが、単にそういう規模のみならず、BRICSという存在そのものが大いに注目を集めている。この複雑な国際情勢の中で、BRICSの成長が著しいのは、内政不干渉を徹底し、各国の政治理念や指導体制などには踏み込まず、あくまで利害関係で結びついているからだ。もちろんBRICSにも難しい課題は山積しているのだが、それでもBRICS加盟を検討している国は後を絶たない。ロシアのカザンで各国首脳と対談をしているプーチン大統領の様子を見ると、「ロシアが世界で孤立している」という表現は間違いで、西側諸国との関係が絶たれているに過ぎないことを感じる。今回の「カザン宣言」では、BRICSパートナー国制度の創設が明記された。パートナー国として、以下の13ヵ国が想定されている。
まずアルジェリア、ナイジェリアなどのOPEC諸国が加わることになる。加盟が認められているサウジアラビアが正式に加盟を決定するなら、原油価格への影響力という点でも見逃せないものになる。更にASEAN諸国が4カ国も名を連ねている。興味深いのはトルコの動きだろう。トルコはNATO加盟国であり、EU加盟も申請してきた中東の大国だ。
こうしたBRICS諸国は、敢えて明確なリーダー国を作らないようにしている。中国とインドとの政治的な対立など、色々と難しい問題を抱えているからだ。それでも、やはり主役は中国であり、習近平主席の存在感は格別だろう。今回、習近平主席は、BRICSの今後の発展について5つの提言をしている。以下のようなものだ。
①「平和のBRICS」の構築、共通の安全保障の維持
②「イノベーションのBRICS」質の高い発展の先駆者
③「環境に配慮するBRICS」 持続可能な発展の実践者
④「公正なBRICS」 グローバル・ガバナンス体制の構築
⑤「人と文化のBRICS」文明共生の提唱者
この上記のBRICSの今後の発展への提言と、習近平主席が中国で掲げる「グローバル発展イニシアティブ」、「グローバル安全保障イニシアティブ」、「グローバル文明イニシアティブ」は驚くほどシンクロしている。つまり、習近平主席はBRICSを通じてグローバルサウスに、中国が主体となる共通の価値観を拡大しているとも言えるのである。今後のBRICSの動きは注目しておこう。
今週は以上です。明日は選挙。ちょっと怖いな~。