来週の相場見通し(3/27~3/31)①
1.はじめに
市場はSVBショックで乱高下していたが、米国政府・当局の金融システムを守る強い意志により、ひとまず鎮静化しつつある。SVBについては引受先が未定なものの、分割して処理される見込みだ。シグネチャーバンクは、フラッグスターバンクが預金を引き継ぎことで合意となった。市場から売り圧力に晒されていたファースト・リパブリック銀行には、JPMを中心とする民間11行が共同で300億ドルを預金したほか、現在はその預金の一部を資本に充当することなどが検討されている。また、突然巻き起こったSVBショックは欧州にも飛び火し、予てより問題含みのクレディスイス銀行がUBSに買収される事態に発展し、スイスの金融史に残る大事件となった。今回は、SVBショック後の市場が、現在どのような位置にあるのかを確認する。信用収縮への不安、政策のトレードオフの難しさ、こんなことが今回のテーマとなるのだが、1つだけキーワードを挙げるなら、「合成の誤謬型信用収縮」である。
2.市場の不安の状況
① 市場不安の現在位置
まずは、下の図を見てほしい。シリコンバレー銀行(以下、SVB)の破綻は、突如として発生したことで、まずは金融システムの不安が募った。ここが、このSVBショックの1つの肝であろう。なにしろ、SVBは不正やスキャンダルを起こしたわけでもなければ、粉飾決算で投資家を騙していたわけでもない。投資していたMBSは超優良資産であり、ハイリスク・ハイリターンの投資をしていたわけでもない。今回、指摘されている「預金の偏在」や、短期の調達を長期の債券で運用していた「ALMのミスマッチ」などは、全て決算書で示されている。それが、3/8にSVBが市場で売却目的の保有債券を全て売却したことが明るみに出ると、市場で「SVBは流動性が危うい、現金化を急いでいる」という噂が拡散し、実に古典的な取り付け騒ぎが発生した。そして、3/10には経営破綻に至ったのである。古典的な取り付け騒ぎではあるが、預金者は一瞬で情報を共有し、支店に並ばなくとも、インターネットバンキングで簡単に資金を移動できるため、取り付け騒ぎの影響のスピードが速い。このスピードこそが、人々に恐怖感を抱かせたのであろう。従って、バイデン政権とFRBが迅速な対応を怠っていたら、本当に金融システム不安に波及した可能性は否定できない。
しかし、金融システムへの不安は、もう発生していない。バイデン政権が預金者を保護し、FRBが流動性を提供したからだ。また、仮にクレディスイスが突然、無秩序な経営破綻となれば、金融システムは脅かされたかもしれない。しかし、こちらもスイス政府の強力な介入と要請により、UBSが買収することが決定し、金融システム不安はひとまず乗り越えた。
ところで、金融システム不安とは何だろうか?決まった定義はないのだが、一般的には金融取引が円滑に行われる環境が脅かされることであり、経済を循環するはずのマネーの流れが止まることであろう。そして、よりマーケットに照らして定義するなら、流動性が枯渇した状態を意味する。そして、何故、流動性が枯渇するかといえば、市場参加者同士が相手を信頼できない状況になることがあるからだ。マネーは潤沢にあっても、それを市場で運用したくない、誰にも貸したくない、手元に留めておきたい、何故なら取引相手が信用できないから・・・時として、市場は1日でこういう状態になる。リーマンショックとはリーマンブラザーズという1つの金融機関の破綻を意味するが、それが世界金融危機(GFC)に発展したのは、前例のないほどの流動性枯渇が発生したからだ。今のマーケットは、普通に資金が調達できるし、流動性も十分にある。金融システム不安は発生していない。
上の図に戻ろう。金融システム不安はなにのだが、漠然とした金融不安は依然として残っている。その矛先は、ファースト・リパブリック銀行などに向かい、依然として株価は大きく沈んだままだ。
更に今週末にはドイツ銀行も「ネクスト・クレディスイス候補」として、株価は一時大きく下落した。しかし、これはお遊びだ。下の図は、ドイツ銀行の株価だ。大きく下落しているものの、昨年の安値を割り込んでいるわけでもない。売買高の急増等を鑑みると、投機筋の仕掛け的な動きなのだろう。
ドイツのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の状況が下のチャートであるが、上昇したとはいえ、大したレベルではない。(下図)現在の5年のCDSは250bp程度に過ぎない。クレディスイスの場合は、3000を超えたことは記憶に新しい。250bpなどというレベルは、市場参加者は本気でドイツ銀行が破綻するなどとは考えていないということだ。
いずれにしても、こうした個別行への金融不安は、いずれ解消するはずである。銀行が破綻しないわけではなく、これからも幾つかの中小の銀行は破綻するかもしれない。(G-SIBsは破綻しない)しかし、米国はもともと年間で数行は破綻している。過去2年半の間に銀行破綻がゼロ件であったことのほうが例外的なのだ。米国では、小さい銀行が破綻することは、そのうち気にしなくなるであろうが、今の市場にまだその鈍感力はないだろう。
今回のケースで厄介な点は、その次の段階の「信用収縮」と「二次的影響への不安」のほうである。今の市場は、この段階に移行していると思われる。
② 特殊な信用収縮
信用収縮とは、銀行の資金供給が細ることを言う。「貸し渋り」であったり、「融資の回収」、「審査の厳格化」などにより、銀行がお金を事業会社に回さない状態だ。何故、そんなことをするのかと言えば、通常は景気が悪化して、銀行の貸し付けが次々に焦げ付ぎ、不良債権処理に追われているとか、あるいは市場で金融システム不安が起こり、流動性に問題が生じている場合に起こる。ところが、現在の米国経済はまだ好調を維持しており、米国銀行の不良債権も極めて低い水準だ。下図はアトランタ連銀の今年1QのGDP予測であるが、0.7%程度だったのが、現在は3.2%まで上昇している。潜在成長率を超える成長である。
米国企業破綻件数も引き続き低水準だ。(下図)
更に、市場は一定のストレス下にはあるものの、金融システム不安とは程遠い。むしろ、窓口借入やBTFP(バンクターム・ファシリティ・プログラム)などにより、銀行の足元の流動性は高まっている。本来は、信用収縮が起こるような状況ではない。それでも、起こることが想定されるから、厄介なのだ。それは、意図的に信用収縮が起こされるからだ。
③ 合成の誤謬的信用収縮
今回予想される信用収縮は、中小の銀行経営者による意図的な信用収縮である。何故、そんなことをするのか?それは、先行きの中小企業の銀行経営に逆風が吹くことが目に見えているからだ。4つの要因を指摘したい。
1つには預金の流出を抑制するための施策を取らないと、預金が流出するリスクが高いことだ。調査会社モーニング・コンサルトが、衝撃的な調査結果を公表した。SVBショックの後の僅か数日間の調査であるが、回答した米国成人の10%が「全預金」をたった数日間のうちに他行へシフトさせ、6%が「預金の一部」を他行へシフトさせたとのことだ。預金の移動先は、「国法銀行(national bank)」と回答したのが36%、「コミュニティ銀行」が24%、「地域の銀行(regional bank)」が22%、「現金化」が22%、「デジタル銀行」が21%、「信用組合」が18%などだった。数日間で全預金を引き出した人が10%いるというのは、銀行の経営者にとっては恐怖であろう。
今の預金流出は金利差等による経済的要因ではなく、信用の問題であるため、預金流出策として、預金金利の引き上げが有効な戦略であるかは疑問であるものの、銀行には金利引き上げくらいしか、出来ることがない。ゆえに中小銀行は、預金金利を高く設定するだろう。当然、預金金利を引き上げれば、預金の流出は抑制できたとしても、銀行の資金利益は悪化する。収益力が落ちれば、銀行の体力は低下する。下の表は、3/24時点における米銀の貯蓄口座の預金金利である。JPMやBOAなどの大手銀行は、預金をもう受け入れたくないので、超低金利を提示しているのに対し、地方銀行はかなり高い金利をオファーしている。既に、これだけ差が出ているのだ。
ちなみにJPMなどの大手銀行も、「預金が集まっていいですね」という状況ではない。彼らは預金が大量に流れてくると困るのだ。それは補完的レバレッジ規制(SLR)があるからだ。これは銀行の中核資本を分子として、分母をその銀行の貸出や国債保有などのエクスポージャーで割って求められるものだ。大手銀行は、これを5%以上に維持する必要がある。問題は、分母のエクスポージャーに国債やFRBへの準備金が含まれることだ。コロナショック後にFRBが大量の資金供給を行った際には、銀行の預金は増加してしまい、大手銀行はリスクの小さな国債へ投資したり、FRBの当座預金に置かざるを得なかった。そこで、コロナショックの後は、SLR規制の緩和措置が行われ、分母のエクスポージャーに国債と準備金を含めなくても良いという措置が取られた。しかし、この緩和措置は既に終了してしまっている。こうした中で、預金が大量に集まってしまうと、大手行は困るのだ。つまり、預金が流出する中小銀行は深刻に困っている一方で、預金が集まる大手行も全然ハッピーではないのだ。(SLR規制は修正される可能性が高い)
また銀行預金は大手行の預金に流出するだけではない。MMFなどのほぼ流動性制約のない金融商品にも流れている。下の図はMMFの残高であるが、急増している。もちろん過去最大の積み上がりだ。預金からMMFへという流れを反映しているのだろう。(下図)
先行きの2つ目の不透明要因は、中小銀行への規制強化の動きだ。今回のSVBショックを受けて銀行規制が強化されることは明白だ。但し、今のところ、その詳細は分からない。FRBのバー副議長がSVBの監督体制の検証を行い、5/1までに結果報告するとのことだ。その上で、新たな中小金融機関への規制は決まっていくのだろう。少なくとも、どのような規制が課せられるか分からない間は、銀行経営者とすれば、当然リスク量を抑えようとするだろう。
3つ目として、このような信用収縮の結果として、好調な米国の景気が悪化して、実際に不良債権が増加するリスクがあることだ。実に悩ましい。銀行経営者からすれば、こうした保守的な行動が信用収縮を引き起こし、結果として自分の首を絞めることは想定できる。でも、他行が保守的な経営に取り組むなか、自らが積極的なリスクを取ることは命取りだ。むしろ、いち早くショックに耐性があるバランスシートに改善したいと考えるだろう。いわゆる個別の行動は合理的でも、それを皆が一斉に起こると悲劇が起こるという「合成の誤謬」である。そう、今回の信用収縮は、「合成の誤謬型の信用収縮」なのである。通常型の信用収縮は、経済の悪化に伴って徐々に起こる。しかし、意図的な信用収縮は一斉に起こる可能性があり、それが怖いのだ。
4つ目の不透明要因は、「国民の不安が落ち着く時間軸が不明」なことだ。これも厄介だ。イエレン財務長官や、パウエルFRB議長が「金融システムは健全である!」と訴えれば、市場参加者はそれに従う。しかし、一般の国民はパウエル議長の言葉など聞いていない。声が届かないのだ。さすがに米国大統領の声は届きやすい。従ってSVBショックが起こった時、まずバイデン大統領がテレビで国民に向けて「安心しろ、君たちの預金は守られる」と太鼓判を押したのだ。しかし、こういう効果は何度も言われると、その効果は薄れてくる。一般的な米国人においては、大統領の声よりも、むしろ、友人たちからの「銀行が危ないらしい」、「早く引き出したほうがいいぞ」などの、不確かな情報やアドバイスで左右されるものだ。先ほどのモーニング・コンサルトの「預金シフトの状況調査」を紹介したが、その中では預金を移動させた人たちの世代も公表している。ジェネレーションZ世代が17%、ミレニアル世代が58%に対して、ジェネレーションXが18%、ブーマーは6%であった。つまり、若い人は素早く動いている一方で、年代が上がるにつれて、行動は鈍いことが分かる。情報へのアクセススピードが世代間でかなり異なるのだろう。こうした世代間の違いがあると、銀行への不安や預金引き出し行動が、いつ抑制されるのかの時間軸が読みにくく、銀行経営者には不安の種となる。
こうした4点の不透明要因から、米国の中小の金融機関は当面は保守的な銀行経営になる可能性は相応に高いだろう。その合成の誤謬型の信用収縮が引き起こす影響は、今のところ、誰にも分からない。先般のFOMCでは、パウエル議長は何度も「We do not know」と言っていたが、まさにその通りなのである。
③ 各種データが示すSVIショック後の市場環境
さて、こうした不透明感が強い市場環境の中、データで現在の状況を確認しておこう。
◆シカゴ連銀金融コンディション指数
下の図の通り、昨年後半から今年の1月にかけて、金融コンディションは緩んでいたが、2月の米金利の急上昇、3月の金融不安を受けて、上昇傾向にある。
◆ FRBの流動性供給状況
現在、市場はFRBが週次で提供するH4を注視している。下の表は3/9からの状況を示している。直近データはFRBの窓口借入が15日の153bnから110bnに約▲43bn減少し、新たな流動性供給プログラムであるBTFP(バンク・ターム・ファシリティ・プログラム)にシフトしたことを示している。BTFPからの借り入れに必要な適格担保(米国債、MBS)を保有する銀行においては、窓口借入よりも、借入金利の面でも、借入期間の面でもBTFPのほうが有利であるので、このような動きになるのは当然だ。Other credit extensionはシグネチャーバンクへのブリッジローンが追加されたもので、無視してよい。
次に前週と直近の借入期間も確認しておこう。引き続き15日以内の借り入れが8割を超える。窓口借入からBTFPへのシフトにより、前週よりは15日以内の借入は減少した。一方で16日~90日が増加している。BTFPは最長で1年まで借入可能であるが、銀行はとりあえず1年間借りるのではなく、3ヵ月程度の借入を増加させているようだ。様子見といったところか。
ところで、このBTFPについて、1つだけ注意しておきたいことがある。このBTFPを使用するためには、米国債かMBSなどの有価証券の担保を必要とする。破綻したSVBのように預金を原資に、大量の有価証券運用を行っていた銀行は、保有している有価証券を担保にFRBからお金を借りられる。しかし、例えばファースト・リパブリック銀行のように、銀行の本業である融資業務を中心に行い、有価証券投資に消極的だった銀行は、この制度を活用できないのだ。担保となる保有している有価証券額が小さいからだ。つまり、極論をすれば、「有価証券運用に積極的な銀行を支援し、貸出業務を中心とする普通の銀行に厳しい制度」なのだ。このことは、これから信用収縮が起こり、伝統的な貸出業務の状況が悪化すると、その問題点が浮き彫りになるだろう。ファースト・リパブリック銀行などが売り込まれているのは、こうした脆弱性を突かれている可能性もあるだろう。
さて、こうしたFRBの流動性対応により、FRBのバランスシートは急拡大中である。但し、先般のFOMCで、パウエル議長は、「量的緩和による債券を市場から購入するケースのバランスシート拡大と、今回のような流動性対応によるバランスシート拡大は全く別物であり、このバランスシート拡大が金融緩和効果を引き起こすものではない」と説明している。従って、量的引き締めのペースもこれまで通りということだ。
但し、私はFRBは結局、長期的にはバランスシートを減らせないのではないかと考えている。下の図はFRBの総資産残高の長期推移であるが、リーマンショック前は約1兆ドル程度だった。リーマンショックで量的緩和を行い、市場をサポートした結果、バランスシートは2015年には4.5兆ドルを超えた。そこからゆっくりとバランスシートは縮小して、2019年には3.7兆ドル程度となった。しかし、コロナショックが発生すると、これが一気に拡大し、22年には8.9兆ドルに達したのだ。そこから量的引き締めを開始して、少しスリム化していたところに、またSVBショックが起こり、バランスシートは拡大している。つまり、金融ショックが数年に1回起こると、FRBはその対応で資金を供給して、じゃぶじゃぶにするため、バランスシートは短期間で急拡大する。一方で量的引き締めはゆっくりとしかできないため、何年もかけてバランスシートを縮小していく。しかし、その過程でまた次のショックが起こる。するとバランスシートはまた拡大する。そうしたことを永遠と行っているのだ。
◆ATI債の状況
クレディスイスのAT1債のショックは、市場では物議を醸した。経営破綻ではないため、株式の価値はゼロにならなかった一方で、クレディスイスのATI債はベイルインの対象となり無価値となった。しかも、CET1比率が下限基準5.125%を下回った場合の条項が発動されたわけではない。クレディスイスのCET1比率は昨年末で14.1%もあり、実質的な破綻が生じた場合のトリガー条項にかすりもしていない。
今回のベイルインは、十分なCET1比率を維持した中で、別の条項に沿って実行された。それはFINMA(スイス政府市場管理当局)が、その「裁量」でベイルインできるという、いわゆる「Statutory bail in」の発動によるものだ。かなり異例の事態ではあるが、法的に問題があるわけではないだろう。但し、これがクレディスイスのようなG-SIBsではなく、中小の銀行であれば、決してこのような対応は取られなかったはずだ。普通に経営破たんとなり、まずは株式が無価値になるという市場でお決まりの優先劣後の順位が守られたはずだ。あくまでクレディスイスが決して「突然死」することが許されないG-SIBの一角であることから、資本的には健全な中で、当局の強い要請でUBSが買収することになり、AT1債が政府の裁量でベイルインとなったのだ。
但し、ここで市場が突き付けられたことは、G-SIBsの場合は、決して突然死することが許されないがゆえに、逆に健全な資本を維持していたとしても、今回のように実質的に破綻させられる(合併させられる)ことがあり得るということである。
下のチャートは、ドイツ銀行のAT1債と、BNPパリバと三菱UFJFGのAT1債であるが、欧州金融機関のATI債利回りは急上昇しており、市場が安定しているとは言えない。一方で三菱UFJFGの場合は、ほんの僅かな変化しか生じていない。日本の金融機関への影響はほとんどないだろう。
余談だが、今回のAT1債のベイルインが発生した時に、最初に思い出したのは、ドイツ銀行を中心とする過去のAT1債を巡る不安の連鎖だった。例えば2015年にはドイツ銀行がAT1債の利払いを停止すると噂された。AT1債の利払い停止は発行体の任意で行える権利である。もちろんデフォルトではない。しかし、ドイツ銀行が利払いを停止すると噂されただけで、同行の株価は売られた。また2020年はドイツ銀行がAT1債のファーストコールをスキップするという話が出た。その時も、市場はドイツ銀行が破綻するのでは?と騒いだ。AT1債は永久劣後債なのだが、慣行として償還可能日(ファーストコール)を迎えると、償還してきたのだ。償還をするかしないかは、発行体の選択肢であるが、市場は「償還しない=償還できない」と受け止めてきたのだ。このように、AT1債を巡っては、これまでも色々なことが市場では起こっている。現在はAT1債に神経質なので、ファーストコールがスキップされると、市場は材料にするかもしれない。
◆ 投資適格債スプレッド
投資適格債のスプレッドは、節目の1.5%を挟んだ展開で推移している。まだ、これから起こり得る信用収縮を織り込むような展開にはなっていない。銀行は不安なものの、一般事業会社への悪化は生じていない。
◆格下げ動向
下のチャートは、大手格付け機関のS&Pが格上げした企業の数を、格下げした企業数で割ったものである。チャートが1を超えていれば、格上げされた企業の方が多いということを示す。月次データとなるが、ここ最近は格下げされる企業が増加してきたことを示している。米国政府のコロナ支援終了や、FRBの利上げが少しずつ効いているのであろう。
◆ 米国オフィス・リート
下のチャートは、米国の全セクターのリート指数の価格推移である。下落はしているが、昨年の安値をまだ更新していない。
一方で下のチャートは、米国のオフィスリートの価格推移である。かなり大きな下落となっている。このことは、米国の中小銀行がこれから保守的な経営を取ることと無縁ではない。まず、商業用不動産へ影響が出るので、それを先取りしていると思われる。
◆新興国スプレッド
米国、そして欧州は今回のSVBショックからの金融不安に揺れているが、新興国のスプレッドは少し拡大しているものの、懸念すべき水準ではない。むしろFRBの利上げ停止の思惑、ドル安への期待から、新興国の金融環境には追い風となるかもしれない。
◆ 商品価格
商品市況も見ておこう。原油価格は明確に下落している。
ドクターカッパーの名前を持つ銅価格は、いったん下落するかと思われたが反発しており、金融不安が世界経済を鈍化させることを見込んでいないようだ。
ブルムバーグ商品スポット指数の推移は下落基調が継続している。
リスクオフ時の質への逃避の対象となる金価格は一時2000を超えて話題になった。(下図)
デジタル・ゴールドとも言われるビットコイン価格も上昇している。ビットコインもいつの間にか質への逃避の有力なアセットクラスになってきたようだ。
こうしたデータを総じて眺めると、「まだら模様」である。金融不安の影響は確認されるが、その先に起こるかもしれない信用収縮については、まだデータでは当然だが確認されていない。
長文になってしまったので、こうした市場の環境変化を踏まえた、債券市場と株式市場の見通しは、レポート②として、明日以降に出そうと思う。続く・・・