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CIZEN design②「デザインって、なんだろう。」

デザインって、なんだろう。

人の間をよくするデザイン。

こんにちは。デザイン会社・株式会社自然農園の常務取締役の村瀬です。
1回目の記事で、地元の大学での講義をきっかけに自然農園がめざすデザインの定義について、あらためて考える機会をいただいたことについて、お話ししました。

ぼくは、人の間をよくしようとするものなら、ぜんぶデザインと呼びたい。
奥さんが毎週楽しみにしてくれる休日も、会議の進行も、学校の時間割も、地域で古くから伝わるお祭りも。かたちがなくたって、誰かが誰かのためを思って考えたものには、きっとデザインがあると思うのです。
ではなぜ、デザイン=かたちを成すもの、と考えてしまうのでしょうか。


デザイン=意匠は、日本だけ?

デザインを辞書で調べると、「設計」「計画」「企画」「構想」「目的」「意図」などと出てきます。わたしたち日本人は、デザインという言葉に、かたちや色、模様、質感、雰囲気や世界観、つまり造形をイメージします。でも辞書で引いた中には、「造形」に近しい言葉が見当たりません。
なぜでしょうか。

ちなみに英語にはアピアランス、という言葉があります。「外観」「外見」「見かけ」「容姿」「印象」のほか「現れること」なんて意味もあります。わたしたちが思うデザインは、このアピアランスに近くはありませんか?

日本人にとって、デザインという言葉には「造形」という意味が根強く存在しています。これは明治自体、デザインという言葉が日本に輸入されたとき「意匠」と訳されたことに由来する、という説があるんです。
日本語の「デザイン」について、フランス語訳を試してみると、conceptionと出てきます。英語ならばコンセプトですから「概念」「構想」「思考」「考え」といったあたりですね。
たとえば今度の休日の過ごし方も、社内の定例会議をもっと楽しめる時間にしようと考えることも、「考え」ですからデザインって呼んでいいんです。
むしろ、かたちになる前の思考の段階こそが、思いっきり胸を張って、
「デザイン」と呼べるんじゃないでしょうか。

かたちのデザインは、かんがえのデザインで、できている。

note「CIZEN design」はじめます。の回では、自然農園が考えるデザインを「つなげる」「うごかす」「よくする」こと、とお伝えしました。いわゆる造形が「かたちのデザイン」ですが、「よくする」というデザイン行為は、造形作業の前から発動されます。

まずは問いを立てる、コンセプトを考える、どんなふうに伝えて、受け手や社会にどうなっていただきたいと願うのか考えます。まさに「構想する」、という表現がぴったりです。「よくする」デザインとは、考えをぐるぐると巡らせて構想するという、ワクワクするようなプロセスを踏みます。
そうして受け手にとってよりよい経験となるよう、「かんがえのデザイン」をぐるぐると螺旋状にまわしていったところに、自然と立ち現れてくるのが「かたちのデザイン」なのだという感覚が、わたしにはあります。
すこし前まで、わたしも「かたちのデザイン」と「かんがえのデザイン」はちょっと重なる横並びくらいに考えていました。今は「かたちのデザイン」を構成するすべての要素に、「かんがえのデザイン」が埋め込まれていると感じています。

採用デザインへの問題意識が情熱に。

ほんとうのデザインってなんなのか、すこしわかってきた頃、もうひとつの気づきが生まれるできごとがありました。それは3年ほど前、就活イベントを視察した日のことです。

企業の新卒採用活動に使う、パンフレットや採用サイトのデザインをご依頼いただくことが増えました。エージェントさま主催の、就活イベントを拝見する機会がありました。
学生をキャッチすべく装飾されたブースや、パンフレットが設置された競合ひしめき合うテーブル。弊社からご提供したデザインが、まさに学生と接触する場面を目の当たりにし、内心ドキドキしながら観察しました。
別会場では300名ほど集まった学生を前に、持ち時間10分間の、10社によるプレゼンテーションがはじまりました。

短い時間で、代表の方や人事担当の方が熱意をこめてプレゼンを行う姿と、一生懸命に聞き入る学生とのコミュニケーションの場です。
なんて直接的で、純粋なコミュニーションの場なんでしょう!
この場面にこそ、すぐれたデザインが役にたつはず!と感じました。
合同企業説明会とは、企業と学生が直接情報を伝えたり、受けたりしあう、他にはあまり見られない貴重なコミュニケーションの場だったのです。

ところが、とっても熱意のあるプレゼンなのに、説明用のスライド資料が...残念!ということが多々ありました。自動で出てくるデザインテンプレートで作成した資料が、なんとも重苦しい雰囲気を醸し出してしまっていたり。PPTが推奨してくるデザインモチーフが、資料の貴重なスペースをぐんと狭くしていたり。びっしりと注釈が書かれた銀行のパンフレットのように、文字が1枚のスライドにひしめきあっていたり。
いくら学生の若い視力をもってしても、その文字では小さすぎるんじゃ…と思いながらも、落ちゆくわが視力を疑い、目をこすり、気づけばかなり身を乗り出していることもしばしばありました。

もっと気になったのは、今説明しているのは、いったい画面のどこをさしているのか、必死に探すも見当たらない場面です。プレゼンターも、どうやら話しにくそうではありますが、学生の方は置き去りです。必死に聞いていた学生さえも、中盤あたりで熱が徐々に冷めていくのがわかります。伝えたい企業の魅力がどうも伝わりきらない。そんなもどかしさを覚えました。

なぜあそこにデザインがないのでしょう。パンフレットやwebサイトより、直接学生に会える機会の方が貴重です。会えて、話をきけたから!という、運命の出会いをデザインし、特別な時間にしなければならないのです。
時間をしっかりとデザインすれば、コミュニケーションをよりよくできる!そう気づいたのです。
この強い想いが、新事業開拓への一歩となりました。

好きすぎると、伝えるのが難しくなる?!

プレゼンと聞くと、話の得意な人が行う立ち回りの場みたいで苦手と感じる方もいるでしょう。私もそうでした。人前に出るのは恥ずかしく、ゆううつです。社員のみなさん、ほんとなんですよ。

でも考えてみてください。日常で、会社で、仕事で、誰かに自分の想いを「伝える」場って、どれくらいありますか?
ほんとは伝えたいことって、いろいろとあるはずです。でもなかなかうまく伝わらなくて、もやもやします。誤解を招いてしまい、悲しい気持ちになることだってあります。

伝えるのが苦手とか、うまくいかないと思ったら、情報のデザインを考えてみてください。伝えたいことを順序立てて丁寧にわかりやすく整理します。情報量のコントロールも肝心。自分の話すペースにあわせた時間をデザインに組み込めているか。これが、プレゼンテーションの出来を左右します。
だれかに伝えたい、という想いがあるからこそ、丁寧にデザインする必要があるのだと思うのです。

わたしは、愛猫のことを社員の方々にあまり語らないようにしていますが、それは何を隠そう、好きすぎて冷静になれないからです。あの愛くるしさを人にどう伝えたらいいかなんて、皆目検討もつきません。
自社のことを想う気持ちが強すぎて、伝えたいことを丁寧に整理するなんて難しい!と思う採用担当者は、ほんとうにすばらしいです。学生と気持ちがつながったら、きっといい成果が出るでしょう。けれどひょっとすると好きすぎて、今ひとつ伝わらない資料になっているのではありませんか?
そんなときには最初のつなぎの部分だけでも、客観的なデザイナーに任せた方がいいかもしれませんよ。

プロのデザインは、安全性を高めるために、役立ちます。
伝えたいことが正しく伝わるということは、とくに現在のネット社会では、人の誤解を防ぎ、会社の安全を守ることにつながるのです。
たとえば客観性や多視点をもつデザイナーやコピーライターが、表現を吟味し疑問を投げかけてくれます。一つひとつ疑問に向き合うことで深く考える機会となり、存在意義を高めていく企業も多く拝見してきました。そうした企業の姿は、誠実で、とても美しいと感じます。
デザインが、よりよくするって、そういうことなんですね。
伝えたかったことが正しく伝わって、理解が得られたら、学生と話すことが楽しくなります。それがよい結果にもつながると、わたしは思っています。