現役時代×退職後 第6回 ■定年後に漠然と不安を抱いている方へ
私は現役の技術者を離れ会社に席を置きつつ、業界団体の活動を主たる活躍の場としている。大まかに振り返ると、40代は現役の技術者として多くの設計に携わり、50代は管理職として技術から徐々に離れ、60代は技術全般に携わりつつ学協会活を中心に活動をし、現在に至る。今は、現役と退職後の中間に位置するということであろうか。この立場から、退職後に備えておけばよかったことと、今後の活動に備えて準備すべきことを考えてみる。
現役の技術者がシニアに求めていること、シニアとの隔たり
現役の技術者がシニアへ求めていることは、少なくとも管理職的な振る舞いではない。「困った時に見解を求める。技術的アドバイスを求める」ということも言われるが、これもあまり機会がない。
現役は、自分たちのスキルで問題を解決しようとする。なぜか? 若者が求めているのは、業務の特徴や置かれた状況を踏まえた解決策そのものである。そのピンポイントの疑義に適切な解答ができるのは、よほど優れた技術者か、業務の内容をよほど理解している技術者でない限り難しい。通常は、一般的な解答となってしまい大局的なアドバイスとなってしまう。これでは若者は満足しない。これを繰り返すうちに疎遠になってしまい、現役の技術者は、自分なりに課題を解決してしまう。その解決法が一番楽だからである。要するに周りからとやかく言われたくない、良く言えば、自分たちで解決できる力を持っているということであるかもしれない。
それでは、シニアは何をすれば役立つのだろうか
この悪循環を避けるには、定期的なミーティングを通した現役とのコミュニケーションかもしれない。自分の周りを見てみる。比較的活躍されているシニアの方は、自ら技術力を持ち、設計成果に対する照査活動を行っている方である。シニアの活躍の場は、照査活動をとおして、技術を若手に伝えていく、ということに尽きるのではないだろうか。やはり技術力が必要である。技術力の日々研鑽が一番!
また、シニアから若者の中に飛び込んでいく努力が必要である。待っていても向こうからは来ない! 敷居が高いのである。面倒臭がらずに、若者に声をかける。この努力を怠ってはいけない。相談されるのを待っているのではなく、自ら現場へ近づく努力が必要である、と思うのだが、なかなか実践できない。
日々のコミュニケーションを通して、業務の状況や課題を適切に理解していれば、現役世代が望む回答が提案できるかもしれない。
技術力が必要 手を動かして仕事をしている人が羨ましい
照査を行うためには、自らも設計する技術力が必要である。多くの場合、現役の技術者においても、設計計算や作図を協力会社に依頼し、自らは「これらの作業を協力会社に依頼する」発注者の立場になっている技術者が多い。ましてや管理職になれば、設計から離れていく。設計全般は分かるのだが、細かなことは分からない。私もそうであった。その点、設計業務そのものを行う協力会社の技術者は、自ら手を動かし設計ソフトウエアを使いこなして設計を進めていく、設計全般、大局的なことは分からないかもしれないが、実に細かな設計基準まで知りつくしている。こういう技術者が重宝がられるのである。
立場により、どこまで設計に関与するかは異なるが、設計基準に精通していることが技術者として後輩を指導する必要条件かもしれない。
ITスキルを身に着けよう
ITスキル程実務処理能力に差が出るスキルはない。きれいなプレゼン資料があれば、多少内容がお粗末でも通用することさえある。いくら高度な知識や判断を行っていても、報告書の見栄えが悪いと評価されず、信用されず、誤った判断・評価をされてしまう。同じ処理を行う場合も、そのスピードと出来上がりの美しさにおいて、なぜか若者に負けてしまう。高度な知識を身に着けた技術者が、設計ソフトウエアのみに頼る初心者に負けてしまう。そんな時代である。
また、社内のIT変革についていけない。説明されても言葉が分からない。簡単なことを新人に教えてもらう。新人にとっては、迷惑な話である。
こうならないように、ITスキルだけは、常に最新の情報をアップデートしておきたいものである。
定年を迎えるまでに数回は海外で仕事をしよう
国内で求められる設計技術よりも、海外で求められる設計技術の方が、細かな基準に捉われることなく、技術者の経験を生かした設計ができるような気がする。技術者としての経験・総合力が発揮できる場である。海外での活動が躊躇なくできる環境にいる方は、海外での設計業務に挑戦してはどうだろうか。定年までに海外経験を積んでおくと、定年後に海外で仕事をすることにも抵抗なくなる。
健康維持のために
何といっても健康第一、現役世代とのコミュニケーションが大切と思いつつ、相変わらず、1日中パソコンの前に座っている。WEB会議で済ませることも多くなり、外出する機会が少なくなった。これは極めて効率が良い仕事の仕方であると感じているが、一方で、足腰の筋力が落ちる。最近、ハイキングを始めた。
執筆活動
私の当面の目標は、長く意欲的に働くこと、それができる立場に身を置けるよう研鑽すること、と考えている。また、これまでの会社での業務経験を書籍にして残すこと、これは、後輩への技術の伝承や会社の歴史を総括する際にも多少役立つかもしれない。何よりも個人の技術者としての総括になる。さらに、趣味の旅行や旅先で撮影した写真の集大成を行うこと、今後は、まだ行っていないところに出かけ、行き尽くすこと、これを書籍に追加していくことを考えている。
取り留めもないことを思いつくままに書かせていただいた。私の反省と抱負が漫然と不安を抱いている方への参考になれば幸いである。
2023.01.06 執筆:やっさん
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