デジマ専門家、自治体、総合商社の異色の経歴からスタートアップへ。プライバシーDXに見出したディープな面白さ
2025年のデータ関連のホットトピックは、昨年から続くAI分野のさらなる進化と、個人情報保護法改正の動向ですね。
そんな中、私はデジマ支援会社→東京都→三菱商事という官民を横断したDX推進の職業人生を経て、1月から「すべてのビジネスをプライバシーリスクから解放する」の理念を掲げる名古屋発スタートアップの(株)Acompanyにジョインしました。40代に入ってもまだまだ新しい領域にチャレンジできるありがたさを噛み締めています。
これからAIセキュリティと秘密計算の技術に強みを持つ会社やメンバーとともに、最新のデジタル技術とプライバシー強化の知見を学び続けながら、感謝と謙虚さを忘れずにがんばりたいと思います。
さて、アドテクやデジマの道を10年以上歩んできて、突然デジタル職として都政に携わったときも多少「もったいない」と言われましたが、今回商社からより不確実性の高いスタートアップに行ったことでも知人から驚かれる反応がありました。
そこで、今なぜこのルートを歩くことが熱いと思うのか、直感的にわかっている範囲で少しマジメにお伝えしたいと思います。
制度と技術の両面からルールチェンジが始まった
ファーストキャリアで見た、ネット広告を3兆円規模に押し上げたアドテクの世界でのイノベーション。次に公共の世界で見た、Govtechと呼ばれる自治体行政の全くゼロからのデジタルイノベーション。最後に商社で出会った、食品ロスや配送効率化などの産業課題を抜本的に変えるためのデジタル技術でのイノベーション。
これらの進化の過程に身を置いて仕事をしてきた結果、デジタル技術で産業や社会が大きく変わるためには様々な層(レイヤー)での変化が必要なんだなということがよくわかりました。
とくに大事なことは制度面の変化。食品小売業の流通の現場では「顧客を逃すから売場で商品を絶対欠品させないようにすべし」といった(世界的に見れば過剰な)認識がされがちなように、事業を営む上でよくも悪くも合意されている考え方や商慣習などのレギュレーションはDXのブレーキ要素になりえます。
また、事業が成り立つ上では、こうした「暗黙の了解」以外に、電気通信事業法のように法的に守るべき明文化されたルールが必ずあります。どんなソフトウェアもこうした文脈の中で動くので、まずはこの点が変わっていかないことにはなかなか最新のデジタル技術は普及しにくいなと感じていました。
その点、こと個人データを扱う領域については、今年多くの法や規定の改正が予定されています。テーマも不正利用に対する規定の検討から利活用の促進に至るまで多岐に渡っており、制度的な変化がなされる結果、今後企業のデータ活用の姿勢に大きな見直しが入るものと予想しています。
また、言うまでもなくAI関連の技術も爆速で進化しており、その技術の中で個人的にはDCR(データクリーンルーム)とプライバシーテックに注目していました。
DCR(データクリーンルーム)は、以下のような特徴をもつ仕組みです。組織間のデータの共有利用の敷居を一段下げる情報技術としてここ一、二年で大手企業を中心に急速に広がりました。
・大元のデータは自分のデータベースに保持したまま、あらかじめ共有先と合意した条件(秘密保持契約を交わしたA社にのみ、許諾した内容のデータ抽出だけを限定的に許可するなど)に基づいてアクセス権を制御できる
・個人識別情報を含む行レベルのデータではなく、相手には集計結果のみを見せる形で利用できるため、比較的安全にデータの仮想共有や突合ができる
こうした新技術と合わせて、データを暗号化して計算過程を秘匿化したまま複数データの結合処理を行い、より安全に計算結果を取り出せる「秘密計算」などのプライバシー保護技術もアップルを始め先端企業を中心に普及拡大が進んでいます。
少し専門的でしたが、ようするに技術の組み合わせで容易に外には出せない機密性の高いデータも、以前より安全に組織間で結合して活用できるようになってきたわけです。「実データは外に出せなくてもそのデータを共有利用できる」ということについて最初は全くピンと来なかったのですが、「こんなやり方があるのか!」と、日々感動を覚えています。社内の部門外秘や非開示扱いのデータを上手に利活用するソリューションにもなりえますね。
このようにデータを巡る法整備や制度の上書きによってルール空間が舗装され、同時に現場にプライバシー保護の新技術が実装されようとしている奇跡的なタイミングで挑戦を始めてみたら面白いんじゃないか、というのが一番の理由です。
1つのプラットフォーマーに依存するより、経済圏がゴロゴロある未来がきっと楽しい
次に、データがつながりやすくなった先の未来はどうなるのか、という話です。
データを使った事業企画をしようとすると、グローバルで大量にデータを持つテックジャイアントになかなか勝てない、という状況が日本で続いていました。データビジネスは基本大は小を兼ねる、いわゆるWinner take allの世界だからです。
私がいた自治体行政は例外的にシェア100%のサービスを出せますが、多くの業界では三大○○、五大○○のように、市場シェアを一定の割合で分け合うことが多い状況です。そうなると、たとえばそのうちの一社が顧客基盤のデータを使って広告サービスをやろうとしても、ざっくり全人口に対して4割満たないカバー率。微妙に物足りない出力の広告リーチや分析結果となり、構造的にグローバルプラットフォーマーに国内企業はなかなか勝つのは難しい、という状況が続いていました。
その点、データを秘匿化して安全に共有利用できるようになると、それぞれの企業単体では足りないデータの深さや広がりを埋める手法として、資本関係がない企業間であっても、データのつながりと共有利用が進む可能性があります。
「生データを外に出さずに統計化して活用する」となれば、以下のケースのように企業間でのデータ連携の企画を構想し、テスト・実行するためのハードルがこれまでより一段下がるからです。
昔から「擦り合わせ」が得意な日本のビジネスカルチャー。自分も一人の人間として、1つのプラットフォーマーに依存するよりも、色んなプレイヤーの集まる多面体の経済圏が頭を捻りながら切磋琢磨する未来の方が、きっとバラエティ豊かで楽しい社会になるんじゃないかなと思います。
またその一方で多様に見える経済圏の水面下では、秘密計算を行うためのハードウェアやコンピューティングリソースの独占的立場を巡ってグローバルの熾烈な戦いが行われていて、変わるがわるその状況を観測するのも興味深いです。
企業データを扱う脅威が増大し、デジタルスキルの拡充が課題に
ここまで大きなレベルの未来を描いてきましたが、現実論で考えると、これからのデジタル担当者は、「AIなどの最新技術が出てきているんだから、今こそデジタルを活用した企画を考えてどんどん実行しなさい。でも、データ(プライバシー)保護もしっかりやりなさい」という、なかなか大変な両立を迫られることになります。
つまり事業プロデューサーはこれまでのデジタル系と業務系の基本知識に加えて、高度な情報処理の技術と法律学や倫理学が横に並んでいて、それら全てをクリアしないと次の事業を作ることができないという途方もない状況になるわけです(実際もうなってきていますよね)。
たとえば、技術的にできるからといってAIカメラでデータをきめ細かく取りすぎたり、データを適切に処理し損なったり、利用者への不当な選別や差別に繋がりうるデータの扱い方をしたりすると、SNSの監視の目もあって後々ネット空間で取り上げられ、以下の例のように厳しい議論を呼ぶ結果になることも。最悪の場合事業が終わってしまうケースも散見されます。このように、たしかな知識と経験則がなければ自分たちのやっていることについて「どこに落とし穴があるかわからない」というのは、非常にストレスがかかる状況です。
増え続けるスキルを会社として早急に整備するためには、現場がガイドラインを作って実践力をつけることはもちろん、経営者がプライバシー対応やDXに対する企業姿勢を宣言し、マネジメント人材の要件に「システム・技術や法務担当と正確な意思疎通を図れること」を加え、そのために必要な知見や実行能力を研修し育てるといった、全社的なプライバシーガバナンス対応が求められます。
・・・ということを聞いてボンヤリ感覚的に状況を理解できる人と、全く理解できない(しようとしない)人同士が社内で会話して、理解度と重要度が噛み合わずになかなか話が前に進まないというのが、日本のデジタルガバナンスの現状かと思います。
だからこそ外から具体的なリスク評価の手法や業務プロセス、仕組みを用意して背中を押す役割を背負いたいと思いますし、ガバナンスの変革は自分のように大きな組織で自ら試行錯誤した経験があるのとないのとでは説得力が全く違うので、ここにやりがいと伸びしろがあると感じています。
プライバシーの究極解を目指せるかも!
最後になりますが、個人情報保護法では、以下のように法目的が定められています。
いってみれば、「個人の権利利益に関わる有害性を最小化」しながら、「個人の情報の有益性を高める効力を最大化する」ことが個人データを扱う者のあるべき姿であり、これはビジネス側にとっても普遍的な共通目標ではないかと思います。
私はプライバシー技術とは、「個人の権利利益に関わる有害性」が表面化する前にひとりでに取り除かれ、使えば使うほど「個人の情報の有益性を高める効力を最大化する」究極のテクノロジーに化ける可能性があると淡い期待をもっています。
Acompanyはまさにこの可能性を切り拓く開拓者集団であり、私も技術と法、倫理の重なりに新しいビジネスを見出すコンサルタントとして挑戦していくつもりです。これから応援よろしくお願いします。
長くなりましたが最後に、Acompanyに興味を持った方に少しだけリクルーティングのお誘いを。
この会社は、「会社が人を選ぶのではなく」、「人に選ばれる会社であること」にこだわっていて、自ら「ここで花を咲かせるぞ」と夢中になって仕事をしているメンバーが多数います。
また、「しくじり先生」的に失敗を赤裸々に語れるカルチャーもあり、心理的安全性をものすごく大事にされている印象があります。
そんなカルチャーで自分も働いてみたい方は、是非採用ページをご覧ください。カジュアル面談も、いつでも歓迎しています。