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非伝統的安保分野における韓日協力の模索 -「新型コロナウイルス問題」を中心に
■はじめに
今年の3.1万歳独立運動記念の式典で、の文在寅大統領は「今日の世界では災害・災難、気候変動、感染病の拡散、国際テロやサイバー犯罪のような安全保障における非伝統的な脅威が増えている」とスピーチした。軍事力による伝統的な国家安保から、より多様多彩な脅威が我々の生活を脅かしており、これらの脅威は一国だけでは解決しがたいため、「北朝鮮はもちろん、隣接している中国、日本、また近くの東南アジア諸国との協力を強化してこそ対応できる」と国境を越えた協力の必要性を強調した。
そして今現在、韓国と日本の両国にとっては「新型コロナウイルス」がまさに非伝統的安保分野における脅威として立ちはだかっている状況である。本発題では、これら脅威に対する韓国と日本の国際協力とはどうあるべきかを考えたい。
■新型コロナウイルスの現況
まずは、新型コロナウイルスの現況について振り返ってみよう。
去年の12月1日に中国武漢市で初めて感染が報告された「新型コロナウィルス(COVID-19)は、急激にその脅威を全世界へと広めている。2020年3月8日現在、ウイルスの感染者は109,571人、死亡者は3,799人、回復は60,660人と報告されているが、まだ検査数が増えてなかったり、地域・クラスター感染が収まらなかったりと拡散は広まっているため事態の完全収拾の見込みはまだ見えてきていない。
初期の段階では武漢の一部で始まった新型感染症であったが、瞬く間に人口1100万人の巨大都市である武漢を飲み込み、2020年の始まりと共に韓国・日本はもちろん、アジア全域を超え、欧米にまで広まった。WHOは、季節性インフルエンザに比べて感染力は高くないとしながらも、重症化する患者も多く、致死率も高いと発表しているため、各国はその対応に追われている。
問題は、未だにウイルスの全容も解明されておらず、治療薬の臨床実験もやっと始まった状況であるということであろう。そのため、当分は感染者の拡大は免れないと予想される。
■韓国と日本の対応
韓国の初期対応は、武漢でのウイルスのモニタリングを行うレベルでの対処をしていた。状況が変わったのは中国がウイルスの人から人への感染を認め、また仁川空港に入国しようとした中国人観光客が感染者として判明した1月20日からであった。韓国政府は感染病危機警報レベルを「注意」に上げ、疾病管理本部に中央防疫対策本部を設置して国内へのウイルス流入を防ごうとした。
韓国国内で感染者が確認され始めた1月27日からは危機警報レベルを「警戒」に上げた。それに伴い保健福祉部に中央事故収拾本部が設置され、これをもとに政府横断型支援体制が敷かれるようになった。この準備が整った状況で、1月末からはチャーター便で武漢に滞在していた韓国国籍者及びその家族が帰国し始め、臨時施設に収容されるようになった。
保健福祉部や行政安全部などの新型コロナ対策が功を奏し、2月の中旬までには感染者も減少した。この時点では文在寅大統領も遠からず収束すると見込んでいて、日常生活と経済活動に復帰してほしいと発表している。つまり、次の段階として経済対策が必要だという考えを明らかにしていたのである。
しかし、2月下旬から大邱地域の新興宗教信徒を中心に感染者が拡大してからは状況が変わった。2月23日、韓国政府は感染病危機警報レベルを最高段階である「深刻」へ上げ、それに伴い国務総理を長とした中央災難安全対策本部を立ち上げた。一方、初期から対処を続けていた疾病管理本部では、検査対象を拡大し、検査方法を見直す方針を打ち出した。その結果、短時間で行える検査キットが普及し、ドライブスルー検査などが導入されて徹底して感染者を見つけ出だせるようになった。また、積極的疫学調査によりクラスター感染経路の把握も行えるようになった。
残念なことは、このような韓国政府の懸命な努力にもかかわらず、感染者は増え続けていることである。3月8日現在、7,313人が感染し50人の方が亡くなられた。最近になって、急激に増え続けて生きた感染者の増加は落ち着き始めているが、それでもまだ予断を許さない状況が続いている。
一方、日本の初期段階では、ウイルスの国内感染を防ぐための「水際対策」に力を注いでいた。特に、2月3日に感染が発覚したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に対する対応や、武漢からの日本人引き上げなどの対応は、日本国内へと感染を広めないための処置だったと言える。一方で、国内感染に対してはまだ十分な対応が出来ていなかった状況でもあった。
しかし、2月13日に感染経路が確認されていない状況での死亡が発表されると、日本でも対策方針も変えざるを得なくなった。特に中央政府より地方自治体の対応が早かったと言える。学校の休校の決定(大阪府、2月27日)や、より深刻な対応である「緊急事態宣言」(北海道、2月28日)など、地域の状況に応じた対策を取り始めた。このように、各地方での感染者が徐々に増えだした状況に合わせ、政府も2月27日には全国の学校に対しての臨時休校を要請、3月6日では検査への健康保険の適用や検査数の拡大を発表し、対策の強化に乗り出している。
ここまで、両国の国内状況を振り返ったが、感染拡大に伴って両国では同じ問題にも現れ始めている。まずは、感染拡大によって対応できる医療保健分野の人員や危篤感染者のためのベッド、医療用品の不足が問題となっている。特にマスクの問題は日韓両国共に深刻で、中々手に入らない状況が続いている。また、「Fake News」や「デマ」によってヘイトスピーチが発生したり、生活用品などの買い占めによる物資不足が発生したりもした。
その一方で、科学的な根拠に基づかない日韓の対立も深まっている。3月5日、安倍総理は韓国と中国に対するビザの停止と発行されている効力停止を発表した。これに対し韓国政府も外交の相互主義に基づき、日本に対して行っていたビザ免除を停止した。そのため、3月9日からは両国の人と物資の移動が難しくなり、交流が断絶される結果となった。これらの処置は期間限定ではあるが、両国への関係性の悪化に繋がっている。
■非伝統的安保分野における対応策
ここまでが現在、韓国と日本が置かれている状況であるが、根本的な医療体制から日韓の共通の問題に至るまで、様々な問題が山積していることが分かった。注目するべき点はこれらが新型コロナウイルスという感染病に限定された特殊な事例ではなく、「非伝統的脅威」として災害・災難、気候変動、国際テロやサイバー犯罪のように安全保障に拘わる問題であると言う事であろう。ここからはこれらの問題をどう解決するかに関するいくつかの「対応策」について考えたい。
①常設協力体制の整備
元々、伝統的な安保分野、特に戦争の回避のための国際協力には長い歴史があるだけではなく、国連などの国際機関を通じた協力体制が確立されている。しかし、非伝統的な安保分野を考えるとその協力体制は十分であるとは言い難い。
もちろん、災害・災難分野での協力は以前からもあった。例えば、韓国と日本の間で起きた地震や山火事に対してお互いが寄付金を送り、時には救援隊を派遣するなどの人道的な協力を行っている。しかし、これらの協力体制は非常時の協力、つまり「何か起こった時」に限定されているのが現状である。
また、災害・災難とは違って保健分野の協力は積極的に行われていない。非定期で日本の厚生労働省と韓国の保健福祉部が会談を行う事はあるが、常設の組織がある訳でもなく、災害時の医療スタッフの派遣ぐらいで協力の経験もあまり多くない。
世界に視野を広げると、感染病はもちろん、地震や台風、もしくは鳥インフルエンザ、口蹄疫、豚コレラ、害虫などの伝染病、また、近年大きな脅威になっている国際テロやサイバー犯罪に至るまで、どの問題も一つの国家の能力では解決しがたい難題であり、周辺国家にも影響を及ぼす脅威が毎年のように起きている状況でもあると言える。
そのため、国家の安保にも大きな影響を与えるこれら非伝統的な脅威に対応するべく、情報や対応方法の共有から共同対応まで行える新しい「安保協力体制」を韓国と日本の新たなの未来像として提案したい。絶対命題である「人命」を掲げる事で、言葉だけに留まり続けている「未来志向」を前進させ、政治的な対立を乗り越えた協力関係が築ける。また、周辺国家への波及も期待できるため、伝統的安保とは違った形で協力関係が期待できるであろう。具体的にはより幅広い議論が必要となるが、新たな協力関係を模索する上で「非伝統的安保分野」の協力体制の構築は一つの答えになるのではないかと考えられる。
②IT技術の共有
新型コロナが拡散し始めた12月ぐらいからIT技術を通じた対応は始まっていた。中国のテンセントは新型コロナウイルスのデータを確認できるサイトを立ち上げた。台湾では、ITエンジニアでもあるオードリー・タン、デジタル担当政務委員主導で不足しているマスクの在庫が分かるアプリを製作した。韓国でも国民健康保険審査評価院(日本の診療報酬支払基金に当たる組織)と薬局との連携システム(Drug Utilization Review)を通じてマスクの安定的な普及を行おうとしている。日本でも東京都とCode for Japanが主導して新型コロナウイルスのデータの視覚化を通じたソースを開発し、他の地方自治体にもシェアしている。
このように新しい脅威に対して、各国ともIT技術を積極的に駆使して対応している。これらのIT技術を国内だけではなく、オープンソース化して共有できる枠組みが作れるのであればより対応能力は高まり、国家間の協力も積極的に行う事に繋がると思われる。
③地方自治体レベルでの国際協力
東北アジアは複雑な歴史により政府間の外交は上手くいかないケースが多々ある。しかし、地方自治体レベルでの国際協力は、それらの縛りから自由であり、より身近な形での協力が可能である。
今回の新型コロナウイルスでも自治体レベルの国際協力が積極的に行われた。大分県大分市や滋賀東近江市は友好都市である武漢市や常徳市にマスクを提供した。韓国の仁川市や釜山市も姉妹都市である威海市、上海市にマスクを提供して、先週は中国側からその恩返しとしてマスクを提供してもらった。
このように姉妹都市・友好都市などの自治体レベルの国際協力が、普段の交流はもちろん、災害・災難、もしくは保健分野の未曾有の危機も乗り越える力となれる事を示している。したがって、より多くの地方自治体レベルの草の根交流を増やすことは、危機状況をより早く脱することに繋がるであろう。
■終わりに
現在、日韓ではビザの停止による人の往来がしづらい状況になってしまった。水際対策としての処置は理解ができるが、むしろ両国の国民感情を刺激する形となってしまっている。これではお互いの状況へ理解や共感はもちろん、問題解決を図るための共同対応などは期待できない。
人類(ホモサピエンス)の最大の能力は「共感」であると言われている。お互いの痛みを理解し、分かち合う事によって互いに協力できる方法を模索してきたのが人類の繁栄のきっかけになった。韓国と日本、または北東アジアまでを含めた危機状況に対する協力関係が深まれば、今まで対立してきた問題に関しても「共感」できるのではないだろうか。これからも新型ウイルス問題や自然災害などの問題はいつでも起こり得ると考え、早急に新しい協力関係を築く努力をするべきである。
-本原稿は2020年3月11日に駐大阪韓国総領事会主催で開かれた専門家討論会にて発題文として作成されました。
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