「コモニングする都市」のデザイン原則: 自然資源と都市のコモニングの違いとは
「City as a Commons-コモニングする都市」では、イタリアを中心とした「Co-Cities Project」の概要や、「コモニングする都市」を実現するためのプロトコールについて紹介した。今回は、そのプロトコールの基盤といえる「5つのデザイン原則」について、より詳しく見ていこう。都市研究/実践家であるジェイン・ジェイコブスや、コモンズ研究者エリナー・オストロムからの影響についても紹介する。
「コモニングする都市」の5つのデザイン原則
まず、初めに「コモニングする都市」の5つのデザイン原則を振り返ろう。「City as a Commons-コモニングする都市」では掲載できなかった、個々の原則の説明も紹介する。
複雑で有機的なシステムとしての都市:ジェイコブスの視点
「コモニングする都市」という概念は、「Co-Cities Project」メンバーの10年以上に渡る事例調査や議論の結果生まれた。その議論を触発した思想家に、都市研究/実践家であるジェイン・ジェイコブスや、コモンズ研究者エリナー・オストロムがいる(Foster & Iaione 2019)。
『アメリカ大都市の死と生』で知られるジェイコブスは、都市を複雑で有機的なシステムとして分析し、生態学者が自然環境やその中での生物間の相互作用を研究したように、ネイバーフッド(近隣、ご近所)や通りのレベルで都市内の活動を観察した。その結果、ニューヨークのような大都市における都市生活の生態学的バランスを維持するためには、土地利用が多角化していること、そこにいる人々やネイバーフッドが多様であること、そしてそれらの間の相互作用が重要であると強調した。
また、ジェイコブスは、1940年代から50年代にかけてアメリカで行われた都市再生計画(例:スラム街の再生)を批判し、そのような都市再生は「かけがえのない社会資本(ソーシャル・キャピタル)」を破壊してしまうことを指摘した。ここでいう「かけがえのない社会資本」とは、長い時間をかけて協力関係を築き、それを強化していくことで、長期的に信頼と自発的な協力の規範を通じて資源を維持していくことができる住民のネットワークのことである。このようなネットワークは、都市のコミュニケーションの核であり、ネイバーフッドの「自己ガバナンス」には欠かせない。
このような社会資本の力で共有資源を統治していく姿勢は、そのまま「コモニングする都市」の原則に受け継がれている。
共有資源は、利用者が共同管理できる:オストロムの視点
コモンズについてのエリナー・オストロムの研究は、さらに大きな影響を「コモニングする都市」研究に与えた。
オストロムは、世界中の共有資源(コモンズ)管理の事例を調査していく中で、資源利用者が、土地、漁業、森林などのさまざまな自然資源を「公私混同」して協同で管理していることを発見した。すなわち、「共有資源は、利用者のニーズを満たす方法で、利用者が共同で管理することができる」ということを発見したのだ。さらに、オストロムは、共有資源の長期的な集団統治の可能性を高める条件と「デザイン原則」を抽出した。
都市と自然資源のコモニングの違いとは?
こうして発見されたオストロムのコモンズ管理の原則は、自然資源だけでなく、デジタルコモンズなどにも適用されてきた。「Co-Cities Project」メンバーも、オストロムの原則の都市への適用について検討した。その結果、アーバンコモンズは、天然資源や伝統的なコモンズとは重要な点で異なるため、オストロムのデザイン原則を都市の文脈に合わせて大胆に変更する必要があるという結論にいたった。
オストロムが対象とした天然資源のコモンズと、アーバン・コモンズでは、一体、どのような違いがあるのだろうか。Foster & Iaione (2017、2019)の論文では、4つの大きな違いが指摘されている。
都市は内外の脅威によって時間の経過とともに非常に脆弱になることはあっても、一般的には枯渇することも再生不能になることもない。都市の多くは、広場、公園、廃墟、空き地、道路などの都市インフラで構成されており、これらは様々な用途や利用者のために目的を持って再利用することができる。このような資源は、オストロムの研究の対象となった森林、海底盆地、灌漑システムとは、全く異なる特質を持っている。
都市は、社会的プロセスと制度設計の結果、「構築された」コモンズである。つまり、都市のコモンズでは、既存の資源を共有するだけでなく、アクターのグループやコミュニティで共有される新しい資源の生産を可能にするガバナンスやマネジメントの仕組みを構築することが必要になることが多い。
都市は前政治的な空間に存在するわけではない。むしろ、都市は厳しく規制された環境であり、コモンズを都市に持ち込もうとする試みは、都市の法律と政治に直面しなければならない。都市の共有資源を作るためには、公有地や私有地の規制を変更したり、微調整したり、地方公共団体を通じて共同で資源を管理できるようにしたり、保護したりすることが必要になることが多い。
都市は非常に複雑で社会的に多様なシステムである。その結果、高い頻度で社会的・経済的な緊張と対立が発生する点が、天然資源の場合とは異なる。このような都市の複雑さは、都市のコモンズのガバナンスが、単にコミュニティが自分自身を統治するだけのものではないことを意味している。アーバン・コモンズの集合的なガバナンスには、ほとんどの場合、いくつかの形態の入れ子になったガバナンスが含まれており、多くの場合、他のアーバンアクターとの協力が必要である。
再生可能な、構築されるものとしてのアーバン・コモンズ。都市の法律と政治に直面し、他のアクター との関係の中で統治していくアーバン・コモンズ。このようなアーバン・コモンズの特徴を踏まえた上で、「コモニングする都市」の5つの原則は生まれたのだ。
市民都市研究会
編集家/プロジェクトエディター 紫牟田 伸子
相模女子大学 准教授 依田 真美
福井県立大学 准教授 高野 翔