ハロウィーン2.眠りの妖精

その名を——ティアナ


月の歌
妖精にだけ聞こえる、夜の調べ
夢の世界へと 誘う序曲

夜が、さらに深く、暗闇に溶けてゆく時
月の歌が聴こえてくる
それが、彼女の仕事の合図

必要なものは ただ一つ
妖精の布袋に入った 眠りの砂
粉砂糖のような その砂を
お菓子ではなく 人に振りかけるのが
ティアナの仕事 

「ノア、ウィルフレッド、おいで」

ティアナは そっと子どもたちの名を呼んだ
とたとたと近寄ってくるのは
小鬼と幽霊の仮装をした子どもたち

「ママ、お仕事に行ってくるから、おじいちゃんとお留守番、お願いね」

膝を付き、二人の体を抱き寄せる
バターと砂糖と汗、そしてほんの少し、まだ冷めやらぬ熱気の匂い

「お菓子、今食べちゃダメ?」
「明日まで我慢だよ、ノア」

ほんの少し不満げな、柔らかなブロンドを撫で、ティアナは立ち上がる
布袋から砂をほんの少し取り、兄弟の頭上に振りかける

「じゃあ、行ってくるね。おやすみ、ノア、ウィル」
「おやすみ、ママ」

ふわぁ、とあくびをしながら手を振る二人
微笑んで、ティアナは静かにドアを閉めた

そよ風が、すうっと吹き渡る
その風に乗って、ふわりと、夜に舞い上がる

「良い子は、もう、寝る時間」

おやすみ、人の子
そろそろ夢の世界へ行きましょう

だけどハロウィンは終わらない
この特別な一夜が明けるまで
世界をつなぐ扉が閉じるまで

あと、もう少し

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