ククリ物語 序章 

 まるで「これから自殺しますよ」とでもいうかのように整えられた、誂えられた、お膳立てされた、そんな浴室にとって、それは明らかに異物だった。

 浴槽のヘリにそっと置かれた、深緑色の封筒。中には何も書かれていない、真っ白な便箋。

 文字ではなく、その存在をもって、手紙は雄弁に語る。
「この部屋の持ち主は、自殺したのだ」と。


 だが——自殺したからと言って、死んだわけではない。


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