消火器の格納箱を赤提灯にするお父さん
夜の帳が下り、あてもなく歩いた。
コンビニエンス・ストア。
その真横にある、行政に設置させられたであろう、真っ赤な消化器の格納箱。
確かに、直方体の上部の面は、地面と平行であるように見える。
いや、多少傾斜があるかもしれない。
どうして使い勝手の悪い、その小さな箱を、カウンターに選んだのだろう。
溢れんばかりのビニール袋を2つ、膝の間に挟むように地面に置き、銀色の缶を、そっと、大切そうに、箱の上部に置く。
銀色の缶のプルタブを引き上げると、思いのほか音が響き、周囲を気にしている。
眼鏡を外し、銀色の缶の横に置く。
自由になった手で、こめかみを押さえ、お絞りさえあれば、顔を拭けたのに。
家に居場所が無いのだろうか。
或いは、梅雨晴れ間の夜、風に当たりたかっただけかもしれない。
この赤提灯の小さなカウンターが、桃源郷であることを願う。
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ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
至極しあわせです。