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やせタガールとの日常

こちらは『 山根あきら 』さんの企画への投稿作品です。

企画立案ありがとうございます。

ルールは以下です。

①「#青ブラ文学部」というタグをつける。可能ならば、この記事を埋め込んでください。
※⚠️② 今回は「やせたガールの日常」という言葉を、必ずしも使う必要はありません(もちろん使っていただいても構いません😊)。
 ダイエットの経験や、やせたいとな思った想い出話や、「人はなぜやせたがるのだろうか?」という哲学的な回答など、自由に書いてください。自分のことでも、知人のことでも、妄想でも、なんでもOKです🙆。
 「やせたガール」という言葉から連想することなら何でもOKです。
③ エッセイ、小説、イラスト・写真、楽器の演奏、自作の歌の熱唱など、表現方法は自由です。文字制限もありません。
④ 「お1人様、3作品」まで。
 締め切り、2024/4/28(日)まで。
⑤ ご応募していただいた作品は、私のマガジンに登録したり、作品を紹介することがあります。あらかじめご了承ください。
⑥ 多少、企画の趣旨からズレていても、御参加を歓迎します😊。もともと趣旨がなかったりしますが😳💦。
 なにかしら書いてみよう!という、きっかけになればいいかなぁ、と。

~4.28#青ブラ文学部お題「#やせたガールの日常」

シメキリ間に合わずでした!
それでも書いたので、タグつき参加お許しください(´・ω・`)





 やせタガール。


開封済じゃ新品として売れないな。ちょっとホコリかぶってたし。説明書に従って足裏のQRコードを読み込む。
 掴んでみると、デフォルメぬいぐるみとは思えないぷにぷに触感に指をくすぐる、何これ、産毛?最近流行りと検索したからぜひ新品扱いで売りたかったのに、読み込んだデータでは『名前』『呼び名』が設定されている。
こうなると、もう、本社に輸送しないと設定リセットできない。

 ため息をついて机の上に置いてみる。

どのくらいプレイしたのかと端末のアプリデータを見てみると、驚いたことにまだプレイしてないらしい。
可哀想な遺品だ。
大体のフィギュアの、売るアテと梱包が済んだからか…、面白みを求めて魔が差した。


 ギュッ。
『ん…………? ふわぁあ……! はじめまして!』


 しまった、と思ったが、凝り固まった体は疲れて、最新技術の粋を集めたダイエット用ロボットフィギュアが動き出すのをぼんやり眺める。

『わたし、ヤセ・タガール王国の使者、「タクト」だよ! 迎え入れてくれてありがとう、「ミカ」さん!』

 逆だろ。
 なんで命名が自分の名前で呼び名が彼女の名前なんだよ。
 タガール王国って何?
 インド辺りにありそう。(偏見)

『人間さんの「健康」について知るのが、仲良しの一歩になるって聞いて、わたし、たくさん勉強して、あなたのところに来たの。いっぱい役に立って、ミカさんを健康にしちゃう!』

 それにしても、本当によく表情が変わるし、腕は赤ちゃんみたいな指まで細かく動く。
3Dアニメの中から飛び出してきたみたい。それともマスコットキャラか、萌え系アニメみたいな顔つきと表情。
こりゃ、売れるわ。

『よろしくね! ミカさん!』

 ぴょんっ。
は…………跳ねた。最近のホビー技術、どうなってんのっ?

「…よ、よろしく、タクト」

返事しちゃった。

『えへへ、ありがとう! おしごと、頼みたい時は、お手て握ってね! そうしたら、いつでも、ミカの健康のためになるね!』

返答機能まである。…いや、当たり前か。
チュートリアルが終わってしまった。
やせタガール・タクトは姿勢を揃えて(ワンピースを整える仕草つき)、スリープモードに入ってしまった。

……やってしまったかもしれない。

そう思いつつ、『今すぐ、体をほぐすストレッチでも頼んでみようか』と思う辺り、既にやせタガールに毒されつつある……。



『たくとのフィギュアコワイョ〜>< ユウなら詳しいと思うし☆引き取って〜!(´ε` )』

 人を何だと思っている、メールが届いたのは一昨日だ。
美香の彼氏、卓人が死んだことを初めて知った。
 美香は、まさにイケイケ女子。卓人は、なんで美香と長年付き合えてるかわからないくらい、オタクで、ぷっくりした体つきで、部屋にマンガとかフィギュアとかたくさん並べてるタイプだった。そいつが突然の死。
自分だって別に美香ととても親しいわけじゃない、美香のたくさんいる友人のC-5くらいの関係なんだけど。
考えればわかるかもしれない。美香は広い交友関係のために卓人とアニメ系のサブカルチャーを勉強し、美香はリアルアイドルを卓人に布教していた。
カレカノというより、同じソファでテレビを共有する関係だったのかもしれない。


 自分が、友人の車を借りて卓人の家に行くと早速美香が出迎え、たどころかハグをかました。

「えぅ〜〜〜!!(´;ω;`)ユウ信じてた来てくれて助かったぁう〜>< ユウありがと〜〜マジありがと〜〜〜これでたくとの思い出捨てずにすむ〜〜〜〜!! ユウ〜〜!マジありぁと〜〜〜〜!!。゚(゚´Д`゚)゚。」

うえーん!!
…マジで、顔文字とか絵文字込みで喋るような女なのだ、美香は。
 胸の中で化粧を流し、鼻水を啜り上げ、本当に大切だと思って、キャピれる仕草を取れるのは、天性だな…と思いながら。泣き止んだ彼女の案内で、卓人のフィギュア部屋に案内してもらった。
空の本棚。整然と並んだダンボール。

「まんがね(^_^)ユウの前に、詳しい人来てもらってて、ちゃんとした本屋さん売ってくれるって〜(´ω`)」
「…あのさ、一応労力使うんだけど、いくら?」
「っや〜〜(^3-)ユウたん現金☆ 美香たんを憐れんで(-人-)くれるなら、お気持ちは受け取る、感じだよぉ」

その気はあるんかい、と思わず口をついてしまった。
 こうしてグッズを売る理由は、『前に、「旦那しゃんのオタクグッズ全部捨ててぇ(´・ω・`)旦那しゃんにガンギマリされた話」がはやってたからだぉ〜( ´∀`)b』とのこと。
美香はオタクグッズの価値がわからない。遺品は美香の家ではとても引き取れない。かと言って捨てられない。ポップな美香のことだから、次の彼氏も早そうだけど、そこに少しでも卓人のグッズがあったら気まずいだろう。
なので、その交友関係を活かして、価値のわかる関係者に引き取ってもらってるわけだ。

 賢いな。
 協力者に全額寄付。
 しかしお気持ちなら受け取るつもり。
 したたかな。

 オタクグッズ部屋は、整理されている上、歩いて回れるスペースが確保されていた。そりゃ、卓人は横幅が大きかったから、自分が体をぶつけてグッズを台無しにしたくはなかったろうし、そこを自分たちがスイスイ歩けるのは当たり前だ。
 フィギュアやポスターやぬいぐるみは全て、見えない場所にある物まで引き取った。コラボグッズなんかもだ。ガンプラ系や、鉄道模型とかは、その道の者に頼むよう助言した。
 車に積んでいた、ダンボールや緩衝材は足りた。
午前に来ていた、マンガ引き取り係とすれ違った。

「さすユウ、準備がいい」
「卓人のオタクレベル、ナメてたの?」
「いやそーゆーワケじゃなかったけどよ、ガチで人生かけてたんだって思ってな」

美香にもさ。アイドル誌、買ってたし。
そう言ってヤツは涙ぐんだ。



 祖父母から続く痩せ型体型の自分には正直『やせタガール』はいらない。
卓人の思い出を追うために美香に渡すことも考えたが、こんな初期データしか入ってないんじゃね。
寄付ということは使ってみてもいいってことだ。

『いち、に!さん、し!ご! 次は逆だよー!』

 等身が低いわりにガチで人間の仕草を真似に来ている。
在宅中、体をほぐしたい時のストレッチに付き合ってもらっている━━持ち出せるわけもないし。前に、ストレッチ中に、やせタガールの前を離れようとしたら、

『運動中だよー!休憩するの?』
「……いや、水」
『お水ね!給水は大事なんだよね!』

リアクションが豊富だし、目の前に人がいなくなるのに気付くの、芸が細かいよ、ほんと。踏み出す、回る、とかの足を動かすストレッチもあるのに、一度も机から落ちたことがない…、そういうセンサーもバッチリらしい……。
 卓人みたいなプニプニの体つきのタク……もといやせタガールは、ダイエット以外でも男女共に人気みたいで、『やせール本舗』では着せ替えも売り出している(トラブルシューターも受け付けている)。自分もフィギュア売却で潤った財布で、一瞬、服の一着くらい買おうか思い直したくらいだ。
 雑談もできる。
豆知識や、料理レシピも教えてくれる。
目覚ましもしてくれる。
スリープせずに放置していれば、その場でキョロキョロしたり、伸びしたり、仕草も豊富でかわいらしい。
QRコードでインストールできるアプリの中で健康チェックしたり、さっきのレシピとかの見直しもできるどころか、性格を変えたり、有料ではあるが声も変えられる。
やせタガール、恐るべしだ。

『おしまい! 別のストレッチする?』
「……じゃ、もっかい、全身運動で」
『はい! ミカ、体をほぐす全身運動、始めるよー! 周りの物に気をつけてねー!』

 いち、に、さん、し、ご…。
 みんな、ダイエットに本気なんだな。
 自分には必要ないはずなのにな、やせタガール。
 肝がふてえガールなら友人にいるけど。

タクトは日常の光景になっていた。


 卓人もこうやって運動していたんだろうか。…痩せた彼女にふさわしい男になるために。
 少しずつ、タクトの腕が細くなっている。
 壊れたとかではない。やせタガールの機能だ。



『あのね、タクトね、そろそろ国に帰らないといけないんだって』

 そう言い出すのに、前兆がなかったわけじゃない。
これこそ、ダイエット補助人形『やせタガール』の真髄。はじめは“ふっくら”した体型だが、運動を共にするにつれ、『やせた子』の体型になっていく。人工皮膚の中に、そういう素材が入っている。

「お疲れ様、タクト」
『ミカ…、わたし、さみしいよ。一緒にいられるの、あと一週間くらいだって。ばいばい、さみしくない?』
「……そんなに、かな」
『ミカ、もしかしてさみしくないの?』

 どうだろうか。 わからないな。
故人と同じ名前の人形に話しかける生活が終わるって変な感覚だ。でも、卓人とタクトは全然違うし、なんならずっとデフォルト設定だし。
自分の体型も、相変わらず痩せ型のままだ。
 黙っていると、タクトは両手をうんと上げた。

『もしもね、またタクトに会いたいって思ってくれるなら、おかあさん・・・・・に相談してみて! もしかしたらタクト、ミカのところに帰ってこれるかもしれないから!』

…“しれない”じゃない。
やせール本舗ほんごくは、設定を受け継いでの製品の再利用リバウンドを受け付けている。


 ━━感心するものだ。
ダイエットのために使った人形が、自分と一緒に痩せていく。人形の皮膚下の何かしらが、限界まで来たら、『お別れ』という形でダイエットにも一区切りをつける。そして、完全にスリープ状態になる。その上で、まだ痩せたいという人や、オキニのガールと一緒にいたい人のためのサービスが充実しているというわけだ。
有料ではあるが、複数購入より安い。
…設定をリセットしての製品の再利用リバウンドも受け付けているところに、ニンゲンやべぇなって想うところもあるが。


話がひと段落したらしく、両の手をこすり合わせているタクトの髪をワシャワシャッと撫でてやると、キャアキャアと笑う。一通り、すっかり固くなった人形をもみくちゃにする。
 タクトを机に置いたまま、夕飯の準備を始める。端末のアプリから、『タクト』の通知音がする。スリープモードになっていた、タクトが『ミカ!』と声を上げる。

「……なーに」

タオルで手を拭きながら、前に立つ。そうしなければ、通知をしてしばらくすれば人形はスリープモードに戻ってくれる。

『ごほうびの日だよ!』

あと一週間で帰還、となっても健気にやせタガールは奉仕を続けてくれる。

『ミカ、ケーキ好きだよね?』

…こういう好みまで記憶してくれる。これだから、思い入れるファンができるのだ。

『チョコケーキね!今、チョコケーキの気分?』
「うん」

ケーキは好きだ。
あからさまなチョコレートも好きだ。
…太れる気がするから。

『えっとね……、 …………、 近くのコンビニで、チョコケーキが売ってるよ!情報を送るから、良かったら買ってね!』

 社会現象と化しているやせタガールのため、コンビニやデパートにスーパーまでが商品情報を提供している。前はフルーツタルトだった。その前はシュークリーム。
タクトは、私がケーキが好きで、チョコが好きだ、と記憶している。
アプリが地図情報を受信する。

 …………実感が湧かない。
 この日常も、もうすぐ終わりだ。



 タクトが『時間が欲しい』と言う以外はスリープモードに入るようになった。
タクトのために時間を取った。
思ったより時間はかからなかった。
最後に、起動した時と同じように、タクトの両手のひらを合わせてギュッと力を入れる。
姿勢を整えたタクトがゆっくり目を閉じる。
それが、『お別れ』だった。
あっさりしていた。

 試しに、やせタガールのアプリを起動してみる。ページの一番上には『タクトはタガール王国に帰りました』という通知が出ていた。
その下には、やせール本舗のホームページへのリンク…、に飛ぶまでもなく、『やせタガールが国に帰ったら』の説明項目が出ている。
更にその下に、今までしたストレッチの数や、散歩の記録、目覚ましでちゃんと起きた数、などが墓標のように確認できる。


 タクトの体を両手で持ち上げる。
これでも充電式のやせタガールは、しばらく放置すればスリープモードどころか永眠する。今の充電器が取り替え必要になるのにどれくらいかかるか、自分は知らないが。
そのまま、部屋の隅に背景のように置いてあるダンボールを開ける。

9体の『タクト』を少し寄せて、『タクト』をその中に加えた。

少しずつ服装や髪型が違う『タクト』たち。自分のだけ、デフォルトの格好だ。9体は既に電池切れだろう。


 ━━卓人と過ごしたらしい『タクト』。


美香から聞く『やせタガール』の話は他人事のようだったし、卓人もそんな話をしていなかったし、奥にしまわれた彼女らを無言で引き取ったのは売却のためではない。
 本舗に持っていけば、『売却のための引き取り』はしてくれる。それでも、QRコードで読み込める9人のタクトの情報を、自分だけが持っていたかった。
 9体、いや、10体分お金を使ってまで、自己流で、卓人は美香のために痩せようとした。


そんなやせタガールとの日常は、誰も知らなくていい。

自分だけが知っていればいい。





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前回『祈りの雨』宣伝


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