肉税について思うこと

毎週掲載しているエシカルフードニュース、今週のネタには「肉税」の話題をチョイスした。

記事でも書いた通り、肉税とは、昨今の畜産業の環境面や健康面からの批判を背景に、ヨーロッパを中心に真面目に検討されている”悪行税”(sin tax)であり、他にも悪行税としてはタバコ税などが有名だ。まあ、"悪行税"ってのは、ずいぶんなお名前じゃないかと思わなくもないのだけど、とにかく最近、肉に対しては風当たりがきつい。「肉を食べることは悪行だ」とヨーロッパの人々が言い出すのも想像できる。

で、エシカルフードニュースには、ちょいと細かい話なので書かなかったのだけど、いまこの肉税をおそらく世界で最も真剣に検討している国はドイツだと言われている。

これはEUの政策に関する動向などを扱うメディア「euractiv」の今年1月付の記事。内容としては、昨年夏に環境保護派を中心にドイツ議会で肉税の導入を検討しようとする動きがあり、それがどうなるかということを解説している。

ドイツで検討されている肉税の内容はこうだ。ドイツでは消費税(VAT)が19%のところ、食品に対しては軽減税率として7%が適用されている。そこで、肉類に対してはこの軽減税率措置を撤廃し、通常通りのVAT税率をかけようじゃないかということであり、それによる増収分は国内農家のアニマルウェルフェア(AW)対策にまわそうということらしい。

ちなみに、euractivによると、ドイツ人の年間肉類消費額は230億ユーロとも言われ、仮に肉類の税率を19%に引き上げた場合、52億ユーロの追加税収が見込まれるという。つまり、この52億ユーロをAW支援予算にまわそうというわけだ。

なお、ドイツ政府の財政の建付上、VATの税収をAW支援にまわすのは不可能だという財務大臣のコメントはあるのだけど、いったんそれは無視して、肉税の税収をAWに充てることの意義を考えたい。

個人的な意見として、昨今の肉離れであるとか代替肉ブームというのは、持続可能な畜産業への移行というムーブメントと表裏一体の関係にあると考えている。つまり、現代型の集約型畜産(CAFOと呼ばれる経営形態など)から脱却するための手段として代替肉などを使って、少し畜肉から離れましょうということだろうと理解している。

この文脈においては、肉税の税収をより良い畜産環境を実現するためのAW支援予算に使うということは非常に理にかなっているし、肉税の推進にもある程度は理解が出来なくもない。しかし、問題は逆進性への対処だ。

エシカルフードニュースの記事内でも強調したし、考えれば誰でもわかると思うのだけど、肉税という租税システムはどう考えても逆進性が強すぎる。低所得者層ほどエンゲル係数が高いということを考えれば明らかで、2011年のデンマークでのファット税導入もこれを証明している。すなわち、仮に肉税をやるなら、野菜生産に補助金をつけて供給サイドを強化するとか、"望ましい食品"へのアクセスに対する支援が不可欠なはずだ。これは、肉税の税率シミュレーションを行ったオックスフォード大のスプリングマン教授も指摘している。

ということで、増収分をAW支援と逆進性対策の双方に対して有効に使えるなら、肉税はわりとアリなのではないか。というのが現在の自分の見解となる。というか、畜産業界と世論の両方を納得させる方法は逆にいうとこれしかないということになろうとも思う。

ただし、いまのところ、ドイツでもそういう議論の方向性になってないし、実際、有効な逆進性対策が何かを見出すのは容易ではないだろう。もっと言うと、動物愛護団体を中心とする推進派が、肉税をソーダ税とかジャンクフード税の延長線のようなものとしか捉えてないのも問題だ。エシカルフードニュースで書いたように、この両者は質的にまったくの別物。で、この両者をごっちゃにして考えるとどうなるかは、2011年のデンマークが教えてくれている。

なので、エシカルフードニュースの結論部と同じになるが、肉税はいまだ要検討事項が多すぎるし、安易に推進するのは危険だ。前述のとおり、肉税に可能性がないわけではないと思うが、今はまだ数ある選択肢のひとつに過ぎないと思うし、慎重に検討を進める段階でしかないのだろう。

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