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サーキュラーエコノミーってなに? ~循環型経済の基本と繊維業界~


サーキュラーエコノミーの誕生

 現在我々は、地球1.7個分の資源を必要としている経済に生きています。また、世界の人々が我々日本人と同じ生活水準で生活をすると仮定すると、地球が約2.7個必要になる計算になります(Global Footprint Network, 2022)。私たちはそれほど多くの環境資源を使っています。

 多くの資源を使って生産することは、多くの消費、多くの廃棄を促すことに繋がります。その結果、現代のような気候変動や生物多様性の減少などの環境問題が引き起こされています。

 これらの問題の1つは、人間活動において、生態系全体を考えられていない点にあります。自然から資源をどれだけ産出するのか、また自然界に廃棄物がどれくらい排出されるのかということを十分に考慮せずに拡大してきたのです。

 そこで、従来の「たくさん作ってたくさん捨てる」という一方通行の経済モデルではなく、今ある資源をいかに循環させるかという経済モデルが必要となりました。それが「サーキュラーエコノミー」という概念です。

サーキュラーエコノミーの実現を掲げる世界的組織のエレンマッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則を以下のように定義します。

1. 廃棄物と汚染を出さない
2. 製品と原料を使い続ける
3. 自然を再生する

Ellen MacArthur Foundation HP, “What is a circular economy?”

簡単に言うと、ゴミを出さず、長持ちする、そして環境にとってむしろプラスになるような製品を作ろうということです。

ビジネスモデルと日本の事例

企業がより積極的にサーキュラーエコノミーに適した形に移行するために、以下の5つのモデルが参考になります。それぞれのモデルについて、京都の事例もいくつか取り上げました。

1. 循環型供給
2. 回収とリサイクル
3. 製品寿命の延長
4. シェアリング・プラットフォーム
5. サービスとしての製品

アクセンチュア(2020), 「サーキュラーエコノミー」

1. 循環型供給

これは、「再利用を前提とした商品設計や、環境に無害な原材料の使用」を指します。例えば、アディダスが販売した「フューチャークラフトループ」という靴があります。これまで、ランニングシューズは複数のパーツを合成接着剤を使って結合していたため、リサイクルができず、多くの靴が捨てられていました。

そこで、この「フューチャークラフトループ」は、靴の全てのパーツを単一の素材で作ることに成功しました。そのため、靴を使い古したとしても、また新しくリサイクルしてもう一度靴を作ることが可能になったのです。

商品設計の初めの段階から循環を前提とした供給をしている取り組みです。

2. 回収とリサイクル

これは、材料や部品を、リユース・リサイクルすることで、新たな生産に利用することを指します。例えば、ごみカフェ京都が挙げられます。この会社は、コンポストバッグを飲食店などに設置することで生ゴミを回収して堆肥化し、農家さんに届ける活動を行っています。四条にある大丸やその他多くのレストランとも共同をしています。

これまで、フードロスはそのまま捨てられており、また生ゴミの90%は水分なので、焼却時には大量のエネルギーを必要としているという問題がありました。そこで、生ゴミを新たな「資源」として回収することで、新しくおいしい野菜の生産に使うことが可能になりました。

無駄になっていた生ゴミという「資源」を回収して新たな農家というセクターと繋げて循環を生み出した取り組みです。

3. 製品寿命の延長

これは、耐久性の優れた商品の開発や修理、また下取りや引き取りを経て再販をすること等を指します。例えば、京都紋付が挙げられます。これまで、まだ着られる服なのにシミがついてしまったというだけで捨ててしまうということはみなさんも経験があるのではないでしょうか。

そこで、シミがついてしまった服を郵送して黒染めしてくれるサービスをしているのが京都紋付さんです。京都の伝統的な黒染めの技術を使って、服を染め替えることで、シミのついてしまった服でも着続けることができます。

1つの製品をより長く大切に使うことで、消費・廃棄の激しいファッション業界をより循環したものに変えていく取り組みです。

4. シェアリングプラットフォーム

これは、デジタル技術によって資源の共有や交換、取引を促進するモデルを指します。例えば、MEGLOOという、リユース容器をシェアするサービスがあります。これまでは飲食店でお持ち帰りで使われる容器はプラスチックで、食べ終わったらすぐに捨てられるものでした。

そこで、このサービスは、繰り返し使える食品容器の導入を促進し、消費者がご飯を食べ終わった後にアプリを使って返却するシステムを構築しています。食品容器は必ずしもご飯を買ったお店に返す必要はなく、このサービスに加盟している飲食店であればどこでも良いという利便性もあります。

デジタル技術を使って廃棄を減らし、循環を促していける取り組みです。

5. サービスとしての製品

これは、製品の購入ではなく、走行距離や利用時間、印刷部数、転送データ量など、利用に応じて料金が発生するモデルです。日本での導入はまだ少ないですが、サブスクというイメージが1番近いです。

例えば、CLASという家具のサブスクに関するサービスがあります。これまで、家具は1人1つ所有する必要があり、経済的にも物質の消費量的にも問題がありました。

そこで、月額で支払いをすることで、所有することなく家具をレンタルでき、使い終わったら返却することで過剰な消費を抑えることができます。経済的にも環境的にも良いことに加え、買うには高すぎるような高性能の商品にまで手を出せるようになるのはプラスアルファのメリットです。

日本・世界のサーキュラー情勢

日本

さて、日本はサーキュラーエコノミーについてどれほど対策を進めているのでしょうか。循環経済に関する重要な法律や政策については以下の通りです。

1991年からリサイクル法という形で循環経済への取り組みが始まり、直近では経済ビジョンという大きな枠組みまで出来上がってきています。

ここでは、循環ビジョン2020と成長指向型の資源自立戦略について取り上げ、最新のサーキュラー情勢について簡単に説明します。

循環ビジョン2020

2020年に策定された循環ビジョンの概要は、一言で言うと「経済システム全体をサーキュラーにしていこう」ということです。重要な点を3つ挙げて説明します。

1つ目は「ビジネスモデルの転換」です。これまでは、リデュース・リユース・リサイクルと言うように、使い終わった製品や材料を回収し、もう一度使うという形が取られていました。

しかし、これからは「リソーシング」という概念を用いてビジネスモデルの転換を促します。「資源化」という意味を持つ「リソーシング」は、廃棄された製品を新たな再生材に変換することで新たに生産を促すことを指します。その際、廃棄物を自動で選別したり、再生材に変換する技術が必要になるため、従来のリサイクルよりもっと広く産業全体で転換する必要があります。

2つ目は「社会からの適切な評価」です。サーキュラーエコノミーの概念が広がってきたとはいえ、まだ社会的にそれがどのように実行されていくのかは不透明な部分があります。そこで、「循環性ラベル」のような、1つの製品がサーキュラーエコノミーの基準に適合しているのかを消費者が見て判別できるような評価システムを作ろうとしているのです。

3つ目は「循環システムの構築」です。これは、プラスチックや繊維、バッテリーなどの、まだ循環できるシステムが整っていない領域に関して、企業の協業など、循環のシステムを構築していこうということです。特にバッテリーは、IT化やEV化の流れを受けてこれからも需要が高まり続けるので、いかに今あるものを使って循環していくかを考慮する必要があります。

成長志向型の資源自律経済戦略

次に、日本の最新のサーキュラー情勢です。こちらは、前述の循環経済ビジョン(2020)を元に、日本のサーキュラーエコノミーを実施していくための戦略です。ここもポイントを3つに絞って解説します。

1つ目は「ルール整備」です。循環経済ビジョン2020で「社会からの適切な評価」を具体的にしたもので、サーキュラーエコノミーの表示を適正化することを目標にしています。また、海外のサーキュラーエコノミーの基準とも連携して適切なルールを作ることを発表しています。

2つ目は「投資支援」です。サーキュラーエコノミーに経済活動自体をシフトしていくにあたって、新たにサーキュラーエコノミーに関連するスタートアップに多額の投資をしたり、既存の企業がサーキュラーエコノミーの取り組みを加速するための投資をしたりと、新たな経済を生み出すための支援をすることを決めています。

3つ目は「産官学連携」です。サーキュラーエコノミーを推進するにあたって、一元化された情報プラットフォームを民間と連携して作成したり、地域の循環プロジェクトを推進したりなど、より多くのセクターを巻き込んだ施策を打とうとしています。

以上のように、単に環境保護のための活動というわけではなく、経済政策として国の動きをサーキュラーの方に向かわせることを示しています。特にEUではサーキュラーエコノミー関連で規制が厳しくなっていく中、日本が国際競争力を失わないためにも重要な政策です。

欧州

次に、環境への取り組みが先進的だと言われるヨーロッパはどうでしょうか。ここでは、代表的なEUの2つの政策について紹介します。

1つ目は「サーキュラーエコノミーパッケージ(2015)」です。この政策は一言で言うと、「2030年までのリサイクル目標を策定したもの」です。リサイクル分野は、プラスチックや食品廃棄物、建築物、バイオマスなどです。欧州全体でよりリサイクルを進展させていくことを決めました。

そして2つ目は「サーキュラーエコノミーアクションプラン(2020)」です。こちらは「2050年カーボンニュートラル達成のための行動計画を策定したもの」です。どちらも「サーキュラーエコノミー」という名前は付きますが、こちらは本気度がより上がっています。

2015年までは、物質的な循環について言及していましたが、2020年からはそれがより広い概念へと変わり、欧州経済全体で多くのセクターで環境への配慮が必要になりました。

サーキュラーを優先する分野に関しても、2020年からは、電子機器やバッテリー、繊維、水、食品、栄養など、かなり広がりました。様々な分野でサーキュラーエコノミーに適応していくことが必要とされています。

国際標準化

次に世界的な潮流です。サーキュラーエコノミーの概念自体は1970年代からあるとされていますが、これからはその要件が標準化され、世界の基準が作られます。

2024年5月には国際標準化機構(ISO)が新たにISO59000シリーズを発行し、サーキュラーエコノミーの規格が出来上がりました。

ここでは、ISO59004という規格について少しだけ紹介します。この規格はサーキュラーエコノミーの基本的な性格を定義したものであり、企業が取り組むべき施策について明確化しています。

簡単にまとめると以下のようになります。

価値の創造: 循環型のデザインや循環型の調達ができているか
価値の維持: リデュースやリユースに取り組んでいるか
価値の回収: リサイクルやエネルギー回収に取り組んでいるか
生態系の再生: 土壌・水域の浄化、生物多様性の保護に取り組んでいるか

“ISO 59020 Measuring and assessing circularity performance”, 10 July 2024

エレンマッカーサー財団のサーキュラーエコノミーの3原則の3つ目に「自然を再生する」という項目がありましたが、ここでも「生態系の再生」という項目があります。世界的な「サーキュラーエコノミー」の定義の中には、ネイチャーポジティブと言われる「自然や生態系の再生」が含まれているということを理解しておく必要があります。

この規格に承認されていると、サーキュラーエコノミーに適切に取り組んでいることが世界的に認められていることを示すことができ、世界市場でも選ばれやすい企業になることができます。

繊維業界の動向

次に、今回ワークショップのテーマとなった繊維業界に関する動向についてです。まずは現状として、ファッション業界のリサイクル率について見てみましょう。

ご覧の通り、日本のファッションの廃棄は全体供給量の64.3%にも上り、リサイクル率は17.4%、リユースは18.1%に止まっています。ファッション業界は世界第2位の汚染産業と言われる通り、問題は山積みです。

そんな中、グローバル企業は多くの取り組みを始めています。

グローバル企業の取り組み

H&Mは2020年までにサステナブル素材利用率100%を達成しており、素材調達への取り組みが注目されています。例えば、服に使用されるコットンに関しては、オーガニックコットン、リサイクルコットン、適切に管理された認証付きのコットンのいずれかを使用して生産を行っています。

また、グローバルブランドとして名高いGUCCIは、廃棄物管理の取り組みが先進的です。2022年に「Re. Crea」という使用済み繊維やファッションの管理とリサイクルの研究開発を行うプロジェクトに参加し、廃棄物の管理を徹底しています。2018年~2020年の間に、生産過程から繊維端材が1204トン回収され、世界中で新たな素材として活用されています。

日本の企業の取り組み

京都にも繊維・ファッション業界の問題に取り組んでいる企業があります。京都に本店を構えるシサム工房です。

このお店自体、環境や人権に配慮した製品作りをされているのですが、ファッションに関しては全8店舗でアパレルゼロウェイスト認証を得ています。

この認証を得るには、以下の9つの項目の達成が必要です。

1. 配送時は繰り返し使うことのできる資材やより簡易的な包装とすることでごみの発生を抑制している。
2. 事業者及び従業員がゼロ・ウェイストについて理解し、自身が出すごみを削減していくために具体的な取り組みをしている。
3. 長く使えるように製品の修理、メンテナンスできるサービスが整っている。
4. 店がお客様に提供する“サービス品”から使い捨て品を出さない、もしくは削減に取り組んでいる。
5. そのまま放置するとごみになるような未活用資源や、修理・リサイクル可能な資材を店舗に取り入れている。
6. 製品が使い捨てにならないような仕組みを取り入れている。
7. 日常の業務で使用する紙類、備品の削減や代替品の使用により、ごみの発生を抑制している。
8. リサイクル素材やアップサイクルを活かした製品を積極的に店舗で取り扱っている。
9. 利用者がゼロ・ウェイストについて知り、取り組みについて参加できる仕掛けがある。

ゼロウェイストジャパンHP, For Businesses(事業者向け)

シサム工房は、延3年かけてこの認証を全て取得しました。リサイクル率がまだまだ低い繊維・ファッション業界も、このような先進的な取り組みをしている企業もあります。

日本の繊維業界の政策

次に、日本の繊維業界の政策についてです。日本は2030年までに繊維業界のサーキュラーエコノミー実現を目指しており、その先には2050年のカーボンニュートラルを見据えています。

そのために、2023年に「環境に配慮した製品設計の指針」を策定しました。このガイドラインは、主に情報開示についてです。EUを中心に、製品の製造や輸送、廃棄の際にかかる環境負荷を開示する動きが進んでいますが、このガイドラインもその流れに沿っています。

情報開示の内容については以下の通りです。

1. エネルギー・温室効果ガス排出量
2. 水使用量
3. 環境に配慮した素材・原料の使用
4. 使用・廃棄にかかる環境負荷
5. 化学物質の使用量
6. 販売製品の排気量

経済産業省(2024)「繊維・アパレル産業における環境配慮情報開示ガイドライン 第1版」

これらの情報を全て開示するように指定はしていませんが、企業の担う役割に準じて必要な情報を開示していく必要があります。

例えば、以下のように、原系メーカーであれば、エネルギー・温室効果ガスの排出量と環境に配慮した素材や原料の使用についての情報の開示が求められます。生産の各段階に応じた環境配慮行動や情報開示が重要になります。

ディスカッション: サーキュラーエコノミーの難点

最後に、サーキュラーエコノミーのデメリットにも触れておきます。これまでより環境に配慮した経済の仕組みとして登場した概念ですが、一歩間違えればビジネスとして成立しなくなったり、むしろ環境に悪影響があったりする可能性があります。

まず1つ目は、「長期的な利益創出の必要性」についてです。サーキュラーエコノミーのビジネスモデルとして、「製品寿命の延長」や「製品のシェアリング」について挙げましたが、これによって利益創出が難しくなる可能性があります。

例えば、より長持ちする良い製品を作ったり、それを消費者間でシェアする仕組みが出来上がると、単純に製品の購入頻度が減少し、利益が減るということです。

この場合、顧客との接点を持ち続けるために、長持ちする良い製品を作ることに加えて、製品の回収や修理など、付加サービスを設計する必要があります。その意味で、前半に紹介したビジネスモデルは単一のモデルで実行するのではなく、織り交ぜながら実行することが必要になります。

もう1つは、「リバウンド効果による環境負荷の増大」についてです。リバウンド効果とは、エネルギー効率の向上によって節約されたエネルギーが、人々の行動の変化によって相殺されてしまうことを示す経済現象のことを指します。

例えば、電気の発電効率が上がり、電気代が下がったとします。発電効率が上がると言うことは、電気を作るためのエネルギー消費が減ると言うことなので環境負荷も低くなります。しかし、電気代が下がり、家計の負担が減ったことで、飛行機に乗って旅行に行こうとなれば、むしろ全体として環境負荷は高まります。

以上の例はアナロジーなので、実際の値段や環境負荷などは分かりませんが、「リバウンド効果」の理解はできたかと思います。これが、サーキュラーエコノミーの推進でも起こる可能性があります。

例えば、以下の図のように、環境に配慮した製品設計がより進められていくと、環境効率や経済効率が上がり、より環境負荷が低く、安価に生産ができるようになります。そうなればその効率の上昇が価格に反映されて製品の価格が下がり、それを見た消費者はよりたくさん製品を買えるようになります。結果として物質の使用量が増加し、環境負荷も増大する可能性があるのです。

だからこそ、サーキュラーエコノミーへの転換は生産部門だけで進めるものではなく、大量に消費するという文化も一緒に変容していく必要があります。

まとめると、企業側は、より循環型の製品を作る際、長持ちする良い製品であるが故に消費の頻度が鈍化する可能性があり、また消費者側は、環境にやさしい製品が安くなることで、より消費が促される可能性があります。

このようなサーキュラーエコノミーのビジネスモデルの難点に対して、企業側は、回収や修理などで、長期的な利益創出を考え、消費者側は、本当に必要なものだけ買うことが大切です。

両者共に、循環経済によって生まれる「買わない」という文化を以下に受け入れ、経済活動をしていくかと言うことが肝になってきます。

IMPACT HUB 京都では、こうしたサーキュラーエコノミーを実践するためのワークや勉強会を随時開催しています。興味関心があり、参加されたい方がおられましたらぜひご連絡いただけますと幸いです。
次回のワークショップは2024/8/10(土)、IMPACT HUBで行います。


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