「完璧」を諦めたら、散らかっていた部屋が片付き始めた話
私は部屋をよく散らかす。
気を抜いている隙に洗濯物は積み上がり、飲みかけのコップたちが各所に点在し、どこから湧いてきたのか大量の紙類があちこちに散らばっていく。あ〜〜〜嫌だこの部屋! そして、この部屋を生む我が怠惰な性格! ……と、2日に1度は自己嫌悪の渦の中に吸い込まれていくのが常であった。
ただその一方で、片付けるという行為は好きなのだ。こんまり御大のお片付けメソッドもおおよそ履修済みだし、整理整頓が趣味と言っても過言ではないという程に、片付けに熱中して取り組む日は多い。いや、多すぎるくらいだ。なぜって、部屋がいつも散らかっているからである。
「片付けが好き」でありながら「部屋を散らかす」。
なぜか相反する2つの性格が共存していて、細部まで完璧に片付けた次の日には、着実にとっ散らかし始めるのだ。そしてまた完璧に片付ける………という無限ループの中でずっと自らに労働を課している。私は人生の有限な時間の多くを「片付け」に奪われているようだった。人生が滞る片付けの呪いである。
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おそらく、「片付けが苦手」という人はざっくり二つに分かれている。
「本当に片付けが嫌いで、どこから手を付けたら良いのかさっぱりわからん」という人と、「やるときは徹底的に片付けるのに、日常的には散らかしてしまう」という人である。そして世の中の片付けマニュアルの多くは、前者を想定して書かれていることが多い。
けれども私は後者。美しい空間が好き。気に入ったもので部屋を満たし、出来る限りプラスチック製品を視界に入れたくない。だから気合を入れて片付け、佇まいの美しくないものは徹底的に隠す。が、日常的には散らかしてしまう……ずっと美しい空間で優雅に生活したいのに、なんで散らかるんやこの部屋は!!!
……という積年の悩みがあったのだけれど、色々と書き出して、整理して考えていたらその原因と解決策が見えてきたので、ここに書き留めておきたい。
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恐らく、私の部屋が散らかる理由は、片付け……というか整理整頓及び室内美観に対する理想が高すぎたからなのだ。たとえば、こちらは前に住んでいた家の書斎。
棚にずらりと並んでいるのは無印のトタンボックスなのだけれど、それぞれが「工具の箱」「玩具の箱」「配線の箱」などに分けられており、中もそれなりに整理整頓していた。
その上にあるファイルボックスも同様に、「税金関係の書類」「健康関係の書類」「手紙や思い出系の紙類」など、用途別にきっちり分けて収納していた。こんまり先生が「片付けは、ものの住所を決めてあげるといいですよ」と仰っていたけれど、私は細かなケーブルに至るまでほぼすべてに住所を決めていたのである。
……が。
こうした整理整頓、及び室内美観への強いこだわりが、逆に部屋を散らかしていたのだ。あとゴミの分別もきっちりやりたい派なので、さらに事態は複雑化する。
たとえば、税金関係の手紙が届くとする。理想の処理方法は、それをすぐに開封し、スマホで支払ったり、然るべき項目を記入して返信用封筒に入れポストへ投函したりすることだ。さらに個人情報部分と透明フィルム部分は剥がして燃えるゴミにして、残りは資源ゴミ、そして必要な書類はファイルボックスの「税金関係の紙」の箇所に収納する。
以上が「完璧な処理方法」だけれども、それを実行するには時間がかかるし、めんどい。
だから、税務署かどこかから手紙が届いていても「中確認しなきゃな〜……でも今、完璧に処理できないな〜…」と思ってそのへんに放置してしまい、そうした塵が積もって山になる。あと、ファイルボックスが全部黒いので、中に何が入っているかよくわからん。6つ並んだトタンボックスも同じく。まるで神経衰弱である。
その結果、未処理の書類が積み重なっていくのである。それと同じような理由で、コップだとか、衣類だとかも散らかり始める。
あなたの汚部屋はどこから?
風邪には引き始めがあり、部屋には散らかり始めがある。その「散らかり始め」の因子が何であるか? という点を認識できれば、初手で汚部屋化を封じ、平穏に暮らせるはずだ。
まずはいつも通り、しっかり片付ける。完璧に! その後、部屋の「散らかり始め」を観察してみると……
① 処理前の紙類
② 今飲んでいる薬類
③ 一度脱いだけどまたすぐ着るかもしれない衣類
④ ハサミやカッターなど、よく使うもの
⑤ 新しく買った本、借りた本
⑥ 食料品類
⑦ コップのような使ってる途中の食器類
⑧ 資源ゴミになる予定のもの
などが因子となっている。こうしたものが散らかり始めると、「完璧」にノイズが入り、「じゃあ洗濯物も干しっぱなしでいいや」「段ボールを畳むのも後でいいや」と全てがどうでもよくなっていって見事にとっ散らかるのである。
さらに、先程の散らかり因子たちは、以下のように分けられる。
これら4つの原因にそれぞれに対策を立てることが出来れば、部屋の「散らかり始め」を未然に防止し、健やかに暮らせるのではないか……という仮説の上で、色々と実行してみた。
Ⅰ. 収納すると逆に不便なものは「とりいそぎボックス」へ
まずは処理前の書類、飲んでいる途中の薬、また着るかもしれない衣類などの「収納すると逆に不便なもの」たち。これらの仮りそめの置き場、その名も「とりいそぎボックス」を設置することにした。
① 処理前の紙類
まず、処理に時間のかかる紙の書類。これまでは写真左側に並んだ黒いファイルボックスの中に分類しよう……と思いながら散らかっていたのだけれど、それらをゴミ箱の横に新設した「とりいそぎファイルボックス」にぶっこむ。
ただ、税金関連の封筒などは紙束の中に埋もれてしまうと存在を忘れて社会的制裁を受けるので、引き出しの「処理前」ゾーンに入れておく。処理済みの書類は奥に移動し、確定申告の時期まで寝かせる。
レシート類はその下段にバサッと。
日々練習している古琴の楽譜も散らばりがちだったので、「楽譜収納ボックス」をひっそりと設置。
紙の処理には頭を使うけれど、とにかく1秒で「これは、取り急ぎここ!」と決定できるようなざっくり分類ボックスを各所に設置してみたところ、紙の散乱が劇的に減った。
② 今飲んでいる薬類
常にちょっと体調不良、かつ不妊治療中の身なので、とにかく「今飲んでいる薬」が多い。薬箱にそれらを収納してしまうと、朝、昼、夕の出し入れが面倒くさい。でも、派手な色のプラスチックケースに入った薬などを卓上にずっと置いておくのも嫌!
そこで以前は、こうした薬瓶に毎日飲むサプリなどを入れていたのだけれど……
これだと成分の詳細がわからなくなり、「え〜っともとの説明書は……」と探したりして、結局二度手間に。
そこで今は、薬を含めて「毎日使う細々とした小物」をまとめてぶっこむ「とりいそぎバスケット」を設置。
以前の私であれば、この上に目隠しの布をかけていたところだけれど、そうした「完璧に隠そう」という心意気こそが諸悪の根源。やや妥協しつつ、薬の他にも、テレビやエアコンのリモコンなどもポイポイ投げ込む。そうすることで机の上が簡単にスッキリ片付くのである!
③一度着たけどまた着るかもしれない服類
肌寒い朝と夜だけ羽織るパーカーのような、何度も脱いだり着たりする服をそのへんに放置する……というのも散らかりの初期症状の大きな一因である。
そこで寝室に大きめの「取り急ぎバスケット」を置いて、また着る服は雑につっこむ。口が大きく開いたものじゃないと、中に入っているものの存在を忘れてクローゼットから新しいものを引っ張り出すので、とにかくパッと見てわかりやすいものがいい。
そしてマフラーや手袋などの防寒具は、玄関入ってすぐのバスケットへ。
あと、冬は出入りの度に「コートを脱いで、クローゼットを開いて、ハンガーにかけて戻す」という行為をしなきゃいけないのが微妙にめんどくさい。なので、コート類は扉のついていないオープンラックにサッとかけられるように。
「一度扉を開けて中に収納する」という動作がなくなるだけで、面倒が減り、普段遣いのものがうんと散らかりにくくなる。
④ ハサミやカッターなど、よく使うもの
頻出のものも引き出しの中に収納するのではなく、使う場所の近くに置いておくように住所変更。
Ⅱ.容量オーバーして収まりきらない場合、収納をあちこちに増やす
次は、増えすぎて溢れる系のもの。私にとっては主に本。片付けメソッドなどでは「最小限まで減らしましょう」と提唱されていることが多いのだけれど、そんなむごいことできない……。ということで、対処療法ではあるけれど「収納場所をあちこちに増やす」ことにする。
⑤ 買った本、借りた本
我が家は、本が置けそうな場所にはだいたい本を並べている。たとえば、玄関の靴箱の上。
テレビの横(これ、テレビ裏の配線の目隠しにもなっている)。
レコードプレーヤーの棚に文庫本。
キッチンの近くに料理本。
その他諸々、雑誌や漫画……
ただ、これらの収納スペースにも収まらなくなってきたので、最近、鏡の前にも本エリアを新設。
ちなみにこれ、構造的にはこうなっている。
Amazonで長い箱が届いたので、それを敷いて二段構えに。本の重さで段ボールは壊れるので、中にクッションを詰めている。
さらに、図書館から借りた本などはデスクの横のブックタワーへ。
……と、とにかくあの手この手で本を置く場所を確保。こうした置き方の利点としては、生活の導線の中に本のタイトルが入ってくるので、ふと読みたくなって手が伸びること。欠点は埃が積もることと、時おり足の小指をぶつけて泣くことである。
⑥食料品類
続いては食料品系。これらが散らかる理由は既に見えている。
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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。