「採卵」で私がやったこと、全部書く
先日、人生3度目の採卵が終わった。さすがに慣れたもんやで……と思いきや、前回が1年前のことだったので記憶が綺麗さっぱり消えており、「採卵ってこんな大変やったっけ?」と驚いた。
私の記憶力には非常にムラがある。過去の泥沼案件などを思い返すと「あのときの辛い気持ち」は仔細に思い出せるし、誰彼への恨みつらみなどは明確に心に残っているのに、そうした案件の具体的な内訳は見事なまでに脳から消去されているのである。それ故に、過去のやらかしと同じ轍を踏むことが度々ある。つまりは阿呆なのである。
そうした阿呆は、ものごとの具体的な内訳をできるだけ記録しておいたほうが良い……ということで、今回は採卵の仔細をここに記録しておきたい(自ずと生々しい話になってしまうので、苦手な方はご遠慮くださいませ)。
「また不妊治療の話かよ、もう飽きたわ」という方もいらっしゃるだろうけれど、当の本人も不妊治療ネタにはほとほと飽きている。もっと色鮮やかな出来事を綴りたい気持ちばかりが募るけれど、朝ドラのようにポンポンと問題解決していかないのが目の前にある現実なのだ。ただ私の不妊治療も「ここまでは頑張るぞ」と決めた終点に近づいてきているので、もう数ヶ月の間はご容赦くださいませ……!
──
ちなみに採卵とは、通常は1回の生理周期で1つしか排卵されない卵子を排卵誘発剤などで沢山増やし、排卵直前に針で卵胞膜を刺して卵胞液ごと卵子を吸引して取り出す……といったもの。
不妊治療では、そこで採れた卵子を精子と受精させる工程に進むのだけれど、その卵子をそのまま凍結すれば「卵子凍結」。つまり、不妊治療の採卵であれ、卵子凍結であれ、女性側がやることはほぼ同じなので、「卵子凍結って、実際なにするんだろう?」と気になっている方の参考にもなるかもしれない。
いや、でも、同じ病院で同じ薬剤を使って同じように誘発をしても、痛みや副作用、そして採れる卵子の数は人によってまったく違うらしいので、あまり参考にならないかもしれない……。つまり、正確な情報は厚生省や医療機関発信のものでご確認ください! ここから下はやたらと詳しい、個人の採卵雑記です。
(ちなみに私は3度目の採卵なので、採卵前にやるべき諸々の検査……つまり卵管造影検査とか、性病検査とか、風疹の抗体検査とか、その他色々をすっ飛ばして採卵周期に入れますが、初めての方はまず諸々の検査から入ります。それぞれの検査にも時間がかかるので、初診の次の排卵にあわせて採卵できることは稀だと思います。焦らず適切な検査を積み重ねて頑張りましょう🥹)
──
1.まずは日程調整から (9/29〜)
採卵は基本的に「排卵日」の直前、つまり生理開始日の2週間ほど後に決行される。
ただ、うちは夫がとにかく出張だらけなので、それを無視して自然の周期で予定を組んでしまうと「夫不在で、精子も不在」というアホな展開になりかねない。そこで私がしばらくピルを服用することで、生理開始日を遅らせることになる(精子凍結という手段もあるけれど、コストが数万円上るんですよね……)。
ちなみに10月の夫のスケジュールは、「国内出張〜2日戻る〜海外出張〜2日戻る〜国内出張」という感じ。そうした出張の合間の「2日戻る」箇所を採卵日にしようとするのは、綱渡りをするようでなかなか怖い。そこで夫がしばらく家にいる11月上旬に採卵日が重なるように、20日間の長期に渡って中用量ピルを服用することになった。
ちなみに私の服用していた中用量ピルには、吐き気・嘔吐、食欲不振、頭痛、乳房痛、むくみ、体重増加、発疹などの副作用が起こり得ると書かれている。私は副作用が出やすいタチなので、「なんかしんどいな……?」と感じつつ20日間を過ごすことになる。が、まぁここは大したことはない。むしろ通院も少なく、生理も来ないので、比較的快適に仕事も出来る期間である。
2.いざ、採卵周期へ!(10/22〜)
中用量ピルの服用が終わると、その2、3日後には生理が始まる。これ、毎回本当に予定通り始まるので、「うわ、正確!」とびっくりする。この生理日調整の術を若い頃から知っていれば、受験や修学旅行の対策が出来たのに……!
そして「生理が始まったら3日以内に! 来院してください」という絶対に逆らえない命を受けているので、10月22日にクリニックへ(つまり、生理が来るあたりの予定は空けておかなきゃならない)。
まずは採血をされ、そして経腟エコーを受けて、卵胞の様子を確認。このときに、どれくらいの卵胞が控えているかお医者さんが数えるのを「ふんふん……」と聞く。9月はその数が極端に少なかったので採卵を見送ったのだけれど、今回は問題なさそうでほっと安堵。
しかし、隅々まで明るい部屋で無様な姿を晒しエコーを受け入れる度に、ヒトとしての誇りのようなものが1センチずつ削られていきますわよね……。まぁ慣れたのだけれど。慣れた、のだけれど……。
──
その後、沢山の薬を処方され、それらの服薬管理表、そして採卵時の静脈麻酔にはじまり、様々な同意書などを渡される。同意書をしっかり読むと、なかなか怖いことに挑むんだなぁ……と改めてヒヤッとする。
また婚姻を証明する書類も提出してくださいと言われたのだけれど、我が家は事実婚で夫婦別姓。その場合は独身証明書か、戸籍謄本が必要になってくる。「あれ、戸籍謄本、前に提出しましたよね……?」と看護師さんに聞くと、「それから1年が経過して、更新しなければならず……」とのこと。治療が長引くと、そういう地味な作業も増えて地味にめんどい。夫の感染症の検査もあらためて必要になったので、急ぎで採血を予約してもらう。
帰宅後、数多の同意書に夫婦でサイン。何枚も何枚も、サイン会ばりに腕が疲れる。「住所のスタンプを作っておけば楽だよな……」と毎度思う。
3.卵、増やしていきます!(10/24〜)
生理も終盤に差し掛かった頃から、採卵に向けて卵を育てていく。
10月24日から、排卵誘発のための錠剤を朝夕に飲み、さらに毎晩の自己注射が始まる。これも卵子を育てるためだ。
不妊治療を始める前は「自分に注射を打つなんて…………絶対ムリ………」と怯えていたのだけれど、私の使っているゴナールFというペンタイプの注射は限りなく針が細いので、痛みはごく僅か。刺し方が悪いとやや痛むけれど、揚げ物の最中に油が跳ねてきた時のほうがよっぽど痛い。だから、揚げ物をする勇気のある方は自己注射も打てます!
……と思っていたのだけれど!
10月30日に通院すると、追加で「排卵を抑制する注射」も自分で打つようにと言われた。設定した採卵日よりも前にフライングで排卵してしまわないように、こうした排卵抑制が必要になってくるらしい。
で、こちらは針が比較的太い。あと薬剤の準備が複雑で難易度が高い。説明書を見ながら「ねるねるねるね」の50倍ほど難しい準備工程を終えて、恐る恐る腹に刺す。が、針が太いので簡単に皮膚を突き破らない。看護師さんが「恐れずに、一気に刺してください。躊躇うと逆に痛いので」と言っていたことを思い出す。
そして「えいや!!!!!!!(プチィィィ)」とひと思いに脂肪に刺した。痛い……というか、痛みもあるがそれ以上に勇気を要する。これを3日に分けて4回打った。もはや勇者である。
そして、注射を刺したところがたちまち腫れてきて痒い!痒いよ〜!と騒ぐ……が、これはよくある副反応らしく、おとなしく寝る。
採卵日が本決定(11/1)
11月1日にもクリニックで採血と経腟エコーを受けて、採卵の日時が11月4日10時半と最終決定。夫にそのことをすぐにLINE。男性側も「禁欲期間」が必要なので、足並みを揃えなきゃならない。
そして11月2日。ここで絶対に忘れちゃいけない点鼻薬の登場。
決められた日の決められた時間に、決められた回数だけ、必ず点鼻薬を打つのだ。これを忘れると採卵がキャンセルになるらしく重責がのしかかるが、使用感は至って普通。「この点鼻薬ごときにそんな効果が……?」と不思議になる。
さらにこの日から、採卵後の子宮を守るための錠剤、膣剤の服用も始まる。採卵時には卵胞を沢山傷つけるので、子宮内が炎症を起こしてしまうことがあるのだけれど、それを未然に防ぐための大切な薬である。
が、副作用の出やすい私は数多の薬を服薬しているこの時期には「ウッ、気持ち悪い……」というダウナーな状態に。食欲不振や吐き気などを感じながら、沢山の卵胞を育てている下腹部はパンパンに腫れ、座るとズキンと腹が痛む。気分はまるで養殖場。
加えて、採卵前日の11月3日は朝、昼、晩と排卵を止めるための座薬を入れなきゃならない。これがまた結構痛い。染みる。腹が壊れる(個人の感想ですけれど)!!!
ア〜〜〜もう薬が多すぎてしんどくって何がなんやら……状態だが、患者がやるべきことは「絶対に薬を飲み忘れないこと」。とにかく服薬の時間と数をしっかり把握しながら、飲む。刺す。挿れる(書いてないけど葉酸などのサプリはもちろん摂取しています)。
あと入浴中の夫に向かって「長風呂はしないで〜〜〜〜!」と叫ぶ。精巣は熱に弱いのだ。
そして採卵前日は、23時以降絶食。これは静脈麻酔を打つためである。
4.来ました、採卵当日!(11/4)
こうした準備を経ていよいよ迎えた、採卵当日。朝7時まで、僅かな水のみ摂取することが許されている。
ということで珍しく6時台に起きて少量の水で薬を飲み、二度寝したのち、スッピン眼鏡で電車に揺られてクリニックへ。採卵時は、アクセサリーなどの金属類はもちろん、メイクもマニキュアもコンタクトもNGなのである。身支度のいらない外出というのは、非常に楽なもんだな……と思わされる。でもここで、絶対に忘れちゃいけないのが精液。この日は祝日だったので、精液のみならず夫本人も同行してくれた。
そして夫は近くのカフェで待機し、私はクリニックの個室に入り、手術着に着替えて待機。いつものように採血され、さらに点滴が入れられる。しばらくして手術室に呼ばれ、手足を拘束され、いろんな器具を取り付けられ、「では、麻酔入ります〜〜」という声がするやいなや記憶が消えていき………
.
。
。
❍
◯
❍
。
。
.
深い深い眠りの中で「終わりましたよ〜」という優しい声が聞こえてきて、目が覚める。そこはもう手術室ではなく、個室の簡易ベッドの上。腹は沢山刺されているのでダメージ大のはず……だけれども、まだ麻酔が効いているのか、あまり痛さも感じない。
かつて、局所麻酔しかしてくれないクリニックで採卵をしたときは痛すぎて絶叫、「二度と採卵なんてしたくない」と泣いたこともあるけれど、静脈麻酔だと採卵にも耐えられる、私は(もちろん静脈麻酔はリスキーなので「お勧めです!」と素人が言えるものではないのだけれど……)。
その後点滴も終わり、着替えていつもの内診室へ。そこで腹の中に詰め込まれた沢山のガーゼを抜き出しつつ、今回の結果発表を受ける。
ここから先は
新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。