オウンドメディア運用で「陥りがちな罠」。 成長するメディアがしていること
はじめまして。CINRA, Inc. の梅原隆太郎です。UXデザイナーとして、ウェブサイトの情報設計やユーザー体験設計に携わっています。今回はウェブサイトのグロース、特にメディアサイトのグロースについて、お話したいと思います。
メディアグロースとは
メディアグロースというのは、ニュースメディア、オウンドメディアといった「メディア(Media)サイト」を「グロース(Growth)」、すなわち成長させることを言います。この記事では、メディアを成長させ続けるために私たちがやってきたことについて、ご紹介していこうと思います。
なぜメディアグロースが重要なのか?
テレビ、雑誌、オフラインの広告などのオールドメディアと比較して、ウェブサイトはよく「つくって終わりではなく、ローンチしてからがスタート」ということを言ったりします。それはウェブサイトが公開後の修正、調整が容易だったことに由来するのですが、最近ではその意味も変わってきました。
書籍『UXグロースモデル/アフターデジタルを生き抜く実践方法論』(日経BP)で語られているように、ユーザーは「性格や趣味嗜好、価値観からではなく、そのとき置かれた状況から判断して行動する」ようになり、我々はそのユーザー行動データや、ニーズの把握・分析することによって、サービスの改善に活かすことができるようになりました。
加えて、ここ5年10年でデジタル領域を取り巻く状況は大きく変化してきました。
テレビを持たずNetflixやAmazon Primeを見るという人が増え、億超えの収益を持つYouTuberが多数現れ、YouTubeはチャレンジの場であり第2の収益源になることが認知され、テレビを主戦場としてきた芸能人がYouTubeを始めるという事態に。
スマートフォンの所持率は80%を超え、決済から書類提出から出前まで、なんでもスマホで行なえるようになりました。企業でDX(デジタル・トランスフォーメーション)が急に取り沙汰され、推進されているのもこういった背景を無視できなくなった結果であろうと想像できます。
デジタルは現在の私たちにとって不可欠の存在であることは言うまでもなく、このテクノロジーの急速な発展はユーザーニーズの多様化をあと押ししました。そういった市場状況に呼応するように、後発の参入サービス・メディアはあとを経たず、多くのウェブ担当者が「オウンドメディアを立ち上げたい」と考えているようです。
これらの理由から、デジタルサービス・ウェブサイト / メディアはユーザーの取り合いが激化しており、コモディティ化から抜け出さないと淘汰されていく未来が容易に想像できます。現状維持こそ「停滞」であり、そのままではあっという間に後発のメディアに先を越されてしまいます。そのため、昨日よりも明日、明日よりも明後日、日々進歩している必要があるのです。
オウンドメディアのあるあるな失敗
ここからは、本題である「デジタル施策で超重要!なグロース」についてお話しします。ですがその前に、「陥りがちな罠」についていくつか紹介させてください。私も経験したので、これからグロースを目指す方の参考になればと思います。
データのみを参照する
Google Analyticsや広告の数値だけを見て、PVやUUが上がった下がったと一喜一憂する。これはメディア運用をするみなさんも経験したのではないでしょうか? PVが上がったのでいい調子! 先月よりも直帰率が下がった、そのまま運用を続けよう! これは一見褒められることのようですよね。また「直帰率が高いからよくない!」「このページは離脱が多いから改善する必要がある」というのも、「ちょっと待って!」と言いたくなります。大事なのは、そのデータを「どう見るか?」なのです。
問題がないならそのままでいいじゃん
「今月はUU、PVともに好調です。なので全体的に順調です!」このように報告をされているウェブ担当者の方々、多いのではないでしょうか。こういった考えでいると、「不具合対応や、極端に数値の低いものの底上げを優先しよう!」という考え方になり、効率の悪いグロースの循環に足を突っ込んでしまいます(※その対応自体が不要だと言っているわけではないです)。
現状維持バイアスが成長を止める
「このままで良い」という考え方になると、そこで思考が停止してしまいます。本当はこのバナーの位置はもう少し下のほうがよかったかもしれないのに、記事タイトルはもう少し興味を惹くものにできたかもしれないのに、回遊の導線があればもっとエンゲージメントを高められたかもしれないのに。そういったことに気づくための機会を、みすみす逃してしまうことになります。
データだけでなく、「定性での分析」もしていますか?
さて、ここでやっと一番お伝えしたい「メディアグロースの施策」をお話しできます。ウェブサイトのグロースには、データと定性の両面での分析が必要です。データを見て「直帰率が高いからよくない!」ということに気づけたあとは、メディアの本質を捉えるような定性的な視点で「なぜ?」といった理由や経緯を考え、こんな仮説を持ってみてください。
「サイト内に、次のアクションにつながる導線がないのかも?」
「SNSから来たユーザーは記事を読んで満足して離脱したのかも?」
「タイトルと記事が一致していないと感じられたのかも?」
などなどの仮説を立てたあとは、実際にサイト内を見てみます。そこであなたはこんな示唆を得られるはずです。
「確かにほかのページに行けず行き止まりになっているな。回誘導線をつけて検証してみよう」
「記事を読んで満足したかは、あまりわからないかも? 滞在時間を見てみよう or ヒートマップを見てみよう」
「これはタイトルが内容と合っていないな。次回のタイトルのつけ方の参考にしよう」
仮説は、次の仮説を生みます。そして、そのデータがどうであったかを効果検証し、さらなる仮説を見つけます。このデータと定性分析のいったりきたりこそ、メディアグロースに重要なプロセスなのです。
改善に大事なのは「話すこと」
そのような「仮説」って、画面とにらめっこしながら一人でウンウン考えて、捻り出すものだと思っていませんか? 私もそう思ってました。
データサイエンティストとして、アクセス解析に携わる者として、かっこよく仮説と効果レポートをビシッと決めたい! 手柄を独り占めしたい! という気持ちでした。しかし結論から言うとそんなプライドや見栄は必要ありませんでした。
大事なのは、グロースのためのチームをつくり「話す」こと。
あなたがウェブ担当者なら制作会社と、ウェブディレクターならプロジェクトメンバーやクライアントと、「メディアを成長させるためのチーム」になることが大切です。グロースにとっては「失敗」も財産。チームメンバー同士が共通の理解と目的を持って進んでいければ、すべてのアクションに価値があるとわかってもらえます。
この信頼関係があれば、起案された施策を「とりあえずやってみよう!」と小さくイテレーションを回すことのできる、理想的なサイクルをつくることができます。
「話すこと」を実践した事例
CINRA, Inc.ではクライアントワークとして多くのメディア運用に携わっています。そのなかで、あるタウンメディアの運用にUXデザイナーとして関わる機会があり、そのときに「話すこと」により前進していることを感じました。その事例を少しお話ししたいと思います。
そのメディアはすでに数年、メディア運用をしていたため、グロース施策としてKPI、KSF、KGIの3つを改めて策定する段階でした。まずはKPI、KSF、KGIそれぞれの役割を簡単に説明します。
企業やプロジェクトが目指すべき大きな目標・最終ゴールが、KGI(Key Goal Indicator / 重要目標達成指標)です。
KPI(Key Performance Indicator / 重要業績評価指標)は、その最終ゴールから逆算した中間目標となる指標です。KPIを設定することで、目標達成に向かって進捗しているかを計量的に評価することができます。このKPIを定期的に追いかけることによって、目指すべき姿に近づいているかを判断します。
KPIを決めるには、KSF(Key Success Factor / 重要成功要因)の策定も行ないます。KSFとは、企業やチームがKPIを上げるための要因を考え、取るべきアクションやプランに落とし込むもの。最終のKGI達成にあたって具体的に必要な要素はなにか、どうすれば目標を達成できるのかをKPIとKGIそれぞれで定義します。
初めの対話はどんな人に届けたいか、どんな価値を感じてもらいたいか
KSFの策定により、「メディアが力点を置くべきポイント」を言語化することができます。「我々のメディアの記事や企画は、このいずれかの価値を提供するものであるべき」と定義することで、立ち返る場所をつくりました。
その後、以下をあらためて整理しました。
● KPIの策定
● コミュニケーションマップの整理
● 各コミュニケーションポイントの戦略
ここではそれぞれの戦略を割愛しますが、もちろん戦略の策定だけではメディアの成長につながりません。
編集者によるコンテンツの見直し、運用チーム全体での会議や進行の再ディレクションなどいろいろな視点から成長を促すことができますが、私はUXデザイナーの視点で、記事のタイトルや構成についてコメントをするようにしてみました。
プロの編集者ではないUXデザイナーの意見は編集者に受け入れられないんじゃないか、余計な口出しだと思われるんじゃないか、という気持ちもあったのですが、思い切って伝えてみることにしました。
記事制作に、UXデザイナーが貢献できる余地があった
編集者たちへの伝え方は、あくまで数値ベースを切り口としました。かなり簡素にしていますが、大枠はこんな感じです。
このように、定性の分析とデータを混ぜて、事実をお伝えするようにしています。重要なのは、「伝えている目的は、もっと多くの方に読んでもらいたいから」というのを認識してもらうこと。編集者と目的と認識をそろえることで、そのためにどうしたら良いかを一緒に考えることができると考えています。
ユーザーが気になる話題は、雑談から見つける
編集会議でのもう一つの対話として、1か月の記事企画の振り返りを行ない、そこで得られたファインディングをもとに次の記事での企画方向性を議論します。この会では雑談を重視していて、UXデザイナーである私の私見を交えた意見や企画の種が歓迎される、稀有なケースです。
「コロナ禍のマスク生活でのオーラルケアの記事をつくってみては」
「最近ヘッドフォンにハマっていて、延々と解説やレビューの記事を読んでしまう」
「ラーメンが大好きなので、いま注目の進化系ラーメンを知りたい」
「選挙って若いときにもっとわかりやすかったらよかった」
「SDGsの実際の取り組みってどんなことがあるんですかね」
上記は一例で、毎回できるだけたくさんの種を出します。実際にどれだけの種を企画に取り入れていただいているかわかりませんが、こういった雑談が歓迎され、それがヒントになったりならなかったりしています(笑)。
ただここで大事なのは、「練りに練った企画を持ち寄ってドン!」とか、「企画を出しまくるブレストしましょう!」という形式ばったものではなく、日頃気になっていること、世の中で話題になっていることなどをざっくばらんに話すということです。
編集チーム以外の客観性が加わることで、読者とのギャップを埋めていくようなイメージかなと思います。この雑談が、本メディアの企画づくりではうまくいっていると感じています。
対話を続けたことの効果
対話を続けたことにより、定量的な数値にも少しずつ成果が出てきました。SNSではTwitterのフォロワー数が増えるだけでなく、100〜3,000近くのいいねがつく記事も増え、着実にメディアのファンが増えていることを実感しています。
そして何より、社内、クライアント、編集チームが1つのチームとして同じ方向を向いて進んでいけるようになってきていると感じています。
最後にメディアグロースにおいて重要なポイントを整理します。
KSF(Key Success Factor / 重要成功要因)の策定
KPI(Key Performance Indicator / 重要業績指標)の策定
コミュニケーションマップの整理
各コミュニケーションポイントの戦略
メディアを成長させるためのグロースチームをつくる
編集チーム以外の客観性を会議のなかで加える(UXデザイナーの視点で記事のタイトルや構成についてコメントをする)
世の中で話題なことなどをざっくばらんに話す雑談重視の会議体を実施
まとめ
オウンドメディアなどの運用は地道なトライ&エラーの積み重ねで、一朝一夕に爆発的に成功する方法はほぼありません。しかし、問題点を見つけ仮説を実証し、改善を繰り返していれば、必ず成果につながってきます。そのために欠かせないことのひとつが「話すこと」です。
メディアの目的や目標をクライアント、チームとともにすり合わせ、グロースチームをつくる。そして、会話を通して次の打ち手、試したいことを一緒に決めていく。そのコミュニケーションを諦めないことが、プロジェクトを成長させる鍵になるのだと思います。
CINRA, Inc.では、それぞれのオウンドメディアの目的・ターゲットに合わせてグロース提案と施策を行なっています。メディアオーナーと運用側が、「一つの生命体」であるメディアを維持していくために、同じ目線で「対話」することを私たちは大事にしています。
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