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ゲームから去る者とバトンを受け継ぐ者 ~eスポーツ漫画『オリオン明滅す』を描き終えて思ったこと

こんにちは、ご無沙汰しております。西倉新久です。

今年3月、拙作『オリオン明滅す』の第1巻が発売した際に初めてnoteに記事を投稿し、非常に多くの反応をいただきました。ゲーマーの方に共感していただけたり、ご購入いただいたりなど、少なからず本作品に興味を持っていただけた方がいらっしゃったことが大変嬉しかったです。その節はありがとうございました。

↑『オリオン明滅す』って何?という方は先にこちらの記事に目を通していただければと思います。全ての始まりとなった同人誌版(無料で読めます)へのリンクもあります。


ご報告

さて、その後『オリオン明滅す』はどうなったかと言いますと…。
去る2024年9月26日発売の第2巻をもって「完結」ということになりました。

スナイパーライフルを構えるダイアが目印です

打ち切りです。大変申し訳ありません。
理由としては、シンプルに「売れなかった」からです。
完全に私の実力不足ですし、チャンスを与えてくださった編集部にも申し訳なく思っています。
担当編集者(フォートナイト競技シーン視聴者)は「我々が追い求めていたロマンが儚く砕け散っただけ」という趣旨のことを仰っていました。そう、わかる人にとってはたまらなく面白いFPS/TPSの競技シーンの魅力を、この世界を知らない人に伝えることができなかった。それだけです。

ですが、私個人としては非常にスッキリとした気持ちでいます。
なぜなら、思いのほか良い作品になってくれたからです。
終了宣告を受けてから気を取り直して、残りの話数を計算しつつなんとか最終話のネームを描き上げたとき、ああ、これでいいじゃんって「思ってしまった」のです。
もちろん、もう少し長く続いていた場合の展開も考えていましたし、伏線も色々と張っていましたが、全てを明かさずにここで終わることが最も美しいんじゃないかと今では思います。
それだけの気持ちになれた2巻の最終話までの流れ、ぜひ単行本で読んでいただきたいと思います。

オリオン明滅す 第16話「全て倒してやる」より


ひとつの歴史が終わる時

さて、このような理由から『オリオン明滅す』完結後は、燃え尽き症候群のような…どこかフワッとした日々を過ごしておりました。自分としては満足していますが、物足りない、もっと読みたかったというお声をいただくこともあり、そういった期待に応えることができなかったことに対する申し訳なさもありました。モヤモヤした気持ちを抱えつつ、惰性でXを眺めていた10月22日、このようなニュースが続けざまに飛び込んできました。

ざっくり言うと、PUBG(PC版)の日本最強チーム(E36)と日本最強選手(Kein選手)が揃って活動終了、ということです。特に2021年頃からずっと国内トップを走ってきたE36の解散とそのメンバーの活動休止という事実は大きく、一瞬にして国内PUBGシーンの歩みが失われることとなってしまいました。そもそも今年の後半からリージョン(地域)統合により、国内大会が完全になくなっていたのですが…。
今年3月の記事の中でも国内PUBGシーンの現状については書きましたが、この日をもって、本当に大きな歴史のひとつが終わったと感じています。

そりゃあショックです。私がPJS(当時の国内大会)に魅了されて『オリオン明滅す』の同人誌版を描き始めてから約5年、今でもPUBG観戦自体はとても楽しいのですが、日本勢の活躍を見ることはもう叶わないかもしれないという寂しさがどうしても付き纏ってしまいます。「競技シーン(実力を試す場)そのものがなくなる」…これはフィジカルスポーツでもあまり起こらない現象なのかなと思います。

そんな中、私も私で描き終えたばかりの『オリオン明滅す』について、改めて考えていました。世の中には他にも沢山のeスポーツ漫画が存在します。そのライバル達に敗れたわけですが、それでもこの『オリオン明滅す』が最もよく描けたと自負できるところは何だろう―――そう考えていた時にこのニュースを見て、ひとつの答えが浮かびました。

「eスポーツ選手の儚さ」。

思えば同人誌版から、『オリオン明滅す』はペーソスを帯びた作品でした。そもそも主人公が引退を意識し始めている30手前フリーターのゲーマー…という時点で全く華がありません。しかしそういったある種の「敗者の美学」のようなものは本作中で描き切れたという実感があります。

改めてeスポーツ選手は、自分自身の選手生命はもちろん、運営のさじ加減ひとつでシーンそのものが無くなるかもしれないという不安定な環境の中で戦っています。タイトルの流行も目まぐるしく、誰もが安心して今取り組んでいるゲームに骨を埋めることはできません。彼らはただ好きなだけゲームをしているわけではなく、そういう事情とも戦っている、ということを改めて伝えたいと強く思いました。

というわけで本記事では、『オリオン明滅す』のチームオリオンに所属する4人のメンバー+αのことを振り返りながら、それでも「eスポーツ」に夢を見ることをやめられない理由について語りたいと思います。
そして、これからゲーム漫画やeスポーツ系の創作活動をしようと思う人たちにとって、この記事が少しでもヒントになれば光栄です。
これが『オリオン明滅す』最後の役割になるのかなと思います。
どうぞ最後までお付き合いください。

M4RU(マル)、Dia(ダイア)、KYTE(カイト)、NAO8(ナオヤ)のロースター。なんだかんだこの4人は描いていて楽しかったし、これからも愛してほしいと思っています


以下、多少の本編のネタバレを含むのでご留意をお願いします。
(物語の結末部分についてはもちろん書いていないのでご安心を!)


ナオヤについて

オリオン明滅す 第11話「革命前夜」より

ナオヤ(NAO8)は、同人誌版にはいなかったキャラクターです。
連載版でなぜ彼を出したかと言うと、初めから「途中で抜けるメンバー」という立ち位置を想定していたからです。
マルと同じチームオリオンのベテランという立ち位置ながら、彼はマルとは違いきちんと就職している社会人です。しかし段々その二重生活に耐えきれなくなっていきます。彼が一番「現実の日本にいるプロゲーマー」に則したキャラなのではないでしょうか。

その現実世界では先日、『スマブラ』のプロゲーマー、あばだんご選手が一般企業に就職するという記事が出ていました。

私もこの記事を読み、スマブラシーンの難しさを想像しました。ゲームの数だけ競技シーンの事情は当然違ってくる。なので外野が「eスポーツ」と雑に括ったところで、現場にいる人たちの事情を測りきれないのは当然です。そこもeスポーツを語るということの難しい部分のひとつだと思いました。

カイトについて

オリオン明滅す 第17話「オリオン明滅す」より

カイト(KYTE)は同人誌版から存在するキャラですが、同人誌版ではほとんど語られず、なんか地味な高身長の男という立ち位置でした。
連載版でも変わらず地味でしたが、彼については掘り下げることができたかなと思います。「元々はスポーツ系の大学生だが、怪我で練習ができなくなりぽっかり空いた時間でFPSを始めてどっぷりハマる」という設定です。
大学生こそ将来に一番悩む時期だと思うので、彼にもそうやって本気で悩んでもらいました。
また、体育会系の部活で培われる上下関係や勝負に対するマインドは、当然eスポーツにも活かせる部分だと思うので、彼の存在がオリオンの雰囲気をビシッとさせられていたのかなと思います。

ダイアについて

オリオン明滅す 第17話「オリオン明滅す」より

みんな大好きダイア(Dia)について。
彼はこの作品において、約束された勝者です。圧倒的な力で無双する天才。彼にBETすれば間違いありません。しかし精神的にも大人びていた同人誌版とは違い、連載版では「強いけど圧倒的に精神性が幼い」というディスアドバンテージを加えました(あまり流行りのスタイルではないのですが)。これにより、マルとの師弟関係をはっきりさせる王道展開にできたと思います。ただ、彼の大会での無双シーンはもっと早くても良かったな、と個人的に反省しています。
彼は作中ゲーム『PULSATE』のこれからを背負う選手として、全ファンの期待を背負う存在…つまり主人公になります。そのために必要なことは、マルのいるオリオンだったからこそ得られたのかもしれません。ダイアは明確に、マルから「バトン」を渡されたのです。

マルについて

オリオン明滅す 第16話「全て倒してやる」より

最後はこの物語の主人公、マル(M4RU)について。
彼はそれこそダイアのように、未熟な精神性のままこの世界に飛び込んできたと思われます。キャリアが長いということは、それなりに活躍していたのでしょう。しかし時代の流れに翻弄され、気付いたら大人になってしまい、エイムにも気持ちにも衰えが見えてきた。「怒る」ことで丸くなっていく自分を否定しようとしていたのかもしれません。
そんな彼はプロゲーマーとしての「死に場所」を探していました。それは大会での優勝なのか、それとも自分がやりきったと思える瞬間なのか。その答えは、皮肉にもダイアと出会ったことで見つけることとなります。同人誌版とはまた違った形での彼の選手生活のエンディング、ぜひ見届けてほしいです。

その他のキャラクターについて

バトロワゲーを扱うということなのでライバルとなるプレイヤーは多めに描きましたが、その中でも描いていて一番楽しかったのは、同人誌版にも登場した、第1話でオリオンを離れてしまうRedOrange(レッドオレンジ)です。
イヤな奴のように描いていますが、基本的に彼は正論しか言いませんし、何より勝負に取り組む姿勢は真面目です。真剣に取り組んでいるからこそ当たりが強くなる。彼がマルに嫌味ばかり言っているのは、マル自身も真剣になればなるほど周りが見えなくなるタイプなので、好意の裏返しかもしれません。

オリオン明滅す 第16話「全て倒してやる」より

オリオンのメンバーと同様に、作中の選手の一人一人に語られることのないストーリーが存在します。少しでも気になったキャラクターがいたら、彼らのバックボーンや行く末を想像してみるときっと楽しいと思います。

バトンは必ず誰かが受け継ぐ

それでは、「eスポーツに夢を見ることをやめられない理由」の話に戻ります。(この項目は、ただのファンである私の主観的なポエムであるということを先にお伝えします)

推し選手の引退は必ず来ます。
ネームバリューにもよりますが、全体の人口で言えば「引退」とも言わず、気付かれずに去って行く人の方が多いでしょう。

競技シーンを去る理由は様々ですが、最も大きな理由は「次のステップに進まざるを得ないこと」かと思います。
次のステップというのは、平たく言えば社会です。就職もそうですし、家業を継ぐこともそうです。生きていて大きな選択を迫られる瞬間というのは、ゲーマーにも平等に訪れるのです。

オリオン明滅す 第17話「オリオン明滅す」より

それでは、去りゆく選手にとっての最大の幸福とは何でしょうか。

それは、「自分のバトンを受け継ぐ人」が出てくることではないかと思います。
例えば、自分の達成できなかった目標を代わりに成し遂げてもらう。
あるいは、自分が達成したことをノウハウを伝授することで続けてもらう。どちらも嬉しいはずです。

しかしそんな存在は簡単に見つかるはずがない。自分の気持ちを伝えられず、ずっと孤独の中で戦っている人も少なくないでしょう。
そもそも反射や直感が重要なスポーツの世界で、自分の経験したことや感じたことを言語化するなんて難しいに決まっています。だから特に若いプレイヤーの中には、言葉にできない気持ちを抱えたまま競技の世界から去る人も多いのではないかと思っています。

それでも、たとえその瞬間に言葉にできなくても、eスポーツの世界で魅せたプレイは後世に残ります。eスポーツの公式試合はアーカイブに保存されるものがほとんどです。その過去のプレイを観て、時を超えて今、新鮮な感動を覚える人もいるはずです。そしてその人が「バトンを受け継ぐ人」となる可能性は誰にも奪うことができません。

だから私は、あらゆるゲームにおける競技シーンを彩った選手たちに対して、あの時あのゲームを選んでプレイしてくれてありがとう、という気持ちを捨てられないのです。
その感謝の気持ちは連鎖して、やがて一つの大きな文化になる。「もしかしたら」という夢が可能性を帯び、叶う瞬間が来る。競技シーンの盛り上がりは、そうやって作られているのではないでしょうか。

つまり…推しへの感謝の気持ちは日頃から積極的に伝えるのがいいと思います。モチベーションを保ちながら最前線で戦い続ける戦士たちに、改めてエールを送りたい。
こうして私は、いつまでもeスポーツに夢を見てしまうのです。

おわりに

語弊がある言い方になりますが、私は対戦形式のゲームに人生を狂わされている人のことが好きです。これはスポーツにも通じる話です。課題に本気で取り組み、できるだけフェアな環境で勝負することができる。そこから生まれるドラマに、どうしても心を動かされてしまうのです。
作者自身がそんなものですから、良くも悪くも、とことん「理解できる人だけしてもらえればいい」というスタンスを貫いた漫画が『オリオン明滅す』でした。完結した今となってはどのタイミングでも良いので、その「理解できる人」がこの作品に触れる機会がもう少しだけ増えたら良いな、と思っています。
そして、私の達成できなかった「FPS/TPSの競技シーンのリアルな面白さを多くの人に伝えることのできる漫画」というバトンを誰かが受け継いでくれることを願っています。

オリオン明滅す 第1話「オリオン敗北す」より

謝辞

『オリオン明滅す』連載に際して、GLOE株式会社(旧社名:ウェルプレイド・ライゼスト)様に取材させていただきました。私の大好きなPJSの運営に関わっていたスタッフさんから、当時のお話などをたっぷり聞けたことは宝物です。連載版では「ぜひ裏方にもスポットを当ててほしい」というご要望をいただきましたが、本編で描けず、叶えられなかったことは申し訳ありません。ただ「裏方あってこそのeスポーツ」ということはこの機会に改めて声を大にして言いたいです。

そしてこの記事で初めて『オリオン明滅す』の存在を知った方、前の記事から見てくださった方、同人誌版から読んでるよという方、私が過去に参加したPUBGのリアルイベントで知り合った方、全ての読者の皆様に深く感謝を申し上げます。

こんなにわかりやすさを排除し、好き勝手やった結果短命に終わった漫画でも、楽しんでいただけたならそれに勝るものはありません。
短い物語ではありますが、eスポーツ(競技シーン)の面白さの一端はしっかり描き切れたと自負しています。全2巻ですぐにでも読めるので、eスポーツに関する創作物について触れるとき、この漫画の存在を思い出していただけたら心より嬉しく思います。

FPSは光だ!!!



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