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13年くらい前でしょうか。シネマポストの由来となった以前の職場において、一般的な映画ファンを自称される同僚のお二方を、地元の映画祭でプログラムにあったある映画の鑑賞にお誘いした事があります。
ホウ・シャオシェン監督の『珈琲時光』です。小津安二郎監督の生誕100年を記念し『東京物語』のオマージュという形で日本で製作された映画です。製作と配給は松竹になります。
『珈琲時光』は2000年代初頭、東京で仕事をしていた時分、ユーロスペースに映画を観にいった際に予告編で最初に観た時、琴線に触れて以来、勿論本編もその後観て、刺激と感動に包まれた…自分自身の映画への考え方を組成する上でも大事な一本となった作品です。

「全く意味が分からなかったです…?マークで終わりました」
「この映画のヤマ場は何処ですか」
という映画鑑賞後、彼らの率直な感想が寄せられました。
私はこの映画の良さを自分の感覚を前提にして、ツーカーな関係にある人たちに語る話し方では伝わらない、単に映画素養という問題ではない世界観のギャップを目の当たりに感じました。
「娘が親父に告げるシーンがあって、いたたまれなくなった親父は日本酒の一升瓶からお酒を注いで呑み続けますね、無言で。さらにそのシーンは長回しのワンカットです。その緊張感と親父の複雑な心情が良く描かれています。そこが敢えて言えばヤマ場でしょうね」
その返しは彼らの溜飲を下げるには足りないものであったかもしれませんが、劇的な展開や喜怒哀楽を全面に出す事がヤマ場ではないという理屈だけは何となく覚ってもらえたかもしれません。
時間を経た今でも、彼らと年に一二度会う度に「あの時の珈琲時光は…」と愚痴めいたお約束のやり取りがあります。とは言いつつ忘れられない映画体験になっているように映って見えるのが、少し可笑しくもあるのです。

映画の嗜好性は例えば他の媒体、ジャンルに当てはまるものがあります。
嗜好性という意味で料理を挙げてみましょう。
宴会料理は豪華で確かに美味しいですが、毎日3食宴会料理では飽きると思われます。そこで飽きないと言い切れる方もいるとして、シンプルにご飯と味噌汁、漬物、おひたしに煮魚か焼き魚、焼き海苔があれば尚良しと。朝飯メニューでもお昼でも夕飯でも通じる日本的スタンダード、ただ食材への拘りの差異、そこに粋を感じるか否か…故に飽きは来ない仕組みがあります。
装飾を削ぎ落とし軸があるものに惹かれる要素です。
『珈琲時光』にたまらなく惹かれるのは、申し上げた類いでもあり、源流にやはり小津映画への憧憬を垣間見るからだと思います。
小津映画はその点では食材に拘り抜いたある種の贅を尽くしたとも解析できます。
分かりやすく料理の例えを出しましたが、日常と非日常への消費経済を生み出すアイテムの捉え方が生活習慣として、自身の考え方に反映しているという読みがあります。どこにお金を使うかです。これぞ各人性質の違い、まさに個人差です。

そこで、そうした実際は肯定した方が良いと考えます。
相手は自分と異なる価値観がある事を前提に置くことで、発する言葉も変わります。
一喜一憂しながら平静心を心掛ける日々です。

【cinepos配給 映画『幽霊はわがままな夢を見る』公開情報】
7月15日現在、東京と大阪で絶賛公開中です。これから全国に展開して回りますので、どうぞお近くの方にはご鑑賞いただけますと幸いです。

〈全国上映館一覧〉

北海道・サツゲキ 2024.9/13~
TEL 011-221-3802

栃木・宇都宮ヒカリ座 2024.9/27~
TEL 028-633-4445

東京・渋谷ユーロスペース 2024.6/29〜7/19
TEL 03-3461-0211

愛知・名古屋シネマスコーレ
公開日未定

TEL 052-452-6036

京都・アップリンク京都 2024.8/23~TEL 075-600-7890

大阪・シアターセブン 2024.7/13〜19
TEL 06-4862-7733

最新情報、他館につきまして随時決定次第、公式X、映画ホームページにてお知らせいたします。


【漁港口の映画館シネマポスト 次回7月20日より公開作品紹介】

『フィリップ』
監督:ミハウ・クフィェチンスキ
キャスト:エリック・クルム・ジュニア/ヴィクトル・ムトゥレ/カロリーネ・ハルティヒ/ゾーイ・シュトラウブ/サンドラ・ドルジマルスカ
2022年製作/124分/R15+/ポーランド原題:Filip配給:彩プロ

ポーランド人作家レオポルド・ティルマンドが自らの実体験を基に1961年に発表し、その内容の過激さから発禁処分となった小説『Filip』。
第2次世界大戦、ナチス支配下のドイツを舞台に官能的な要素を加えて映画化。
監督はポーランドの名匠アンジェイ・ワイダの後年のプロデューサーを務めたミハウ・クフィェチンスキ。

フィリップはナチスによって両親や恋人を目の前で銃殺され、ナチスへの復讐を誓いフランス人になりすまし、ナチス上流階級の女性を次々と誘惑していく。しかし、プールサイドで見かけた知的で美しいリザとの出会いによって、復讐から一転愛に目覚め困難な時代でも心を自由にして生きていく姿を描く。





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