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名作として名高いアニメーション映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
押井守監督の最高傑作に挙げられる方も多く、この映画が公開されていた当時、私は中学生でした。
端的に映画の主旨を掻い摘めば、人生で最も楽しい瞬間とは‘祭りの前日’であるという真理を様々なディテールを駆使して、ある種の観念論に基づけて物語を構成していく凄さ、『うる星やつら』というキャラクターを利用する巧さに舌を巻きます。
未見の方にはぜひご覧ください。

そこで考える‘祭りの前日’についてです。
つまり祭りの当日はもはや終りに向かうだけというのは言い過ぎですが、どこか成功が前提で義務を果たすかのような、結果、よく言われる‘祭りの後の静けさ’と言った寂寥感が襲ってきます。
‘祭りの前日’とは過程=プロセスを意味します。成功裡に行く為の準備や期待からのモチベーションの高さの中にあるのです。
よく歴史上の人物評伝にあって人気の高い豊臣秀吉の立身出世のエピソードは何度もドラマになっています。
秀吉が天下を獲るまでが最も彼の魅力を放っていると感じられる展開への共感に他なりません。
まさしく人間はプロセスに如何に惹かれて止まないか、小説でも映画でもその部分にスポットを当てて何度も繰り返し表現し続けるのです。
創作に限りません。仕事でも恋愛でももしかすると成就の前に真剣に取り組んでいる悲喜こもごもこそ、思い出という記憶の引き出しに入れてしまう、入れたくなるものなのです。

それもこれも共通するのは‘祭り’という一大行事を言い換えると‘高い目標設定’に向かっている事が肝要だと考えます。
前述の『ビューティフル・ドリーマー』ではその肝が絶妙な按配で描かれております。

現在は困難や苦しいと思えし事も案外、いつしか振り返ってみた時、思い出に昇華されていることは多い筈です。
その渦中にいる時には当然自分の事ばかり考えるあまり、周りが見えずにいます。どの年齢時分にも言える事でしょう。
しかし、終わって欲しくないと思える時とは当日(成就)ではなく前日(成就前)であるという発想はどこか言い得て妙です。
秀吉の場合は天下を獲った後は自己保身が前に立っているように映りました。よく‘人が変わる’という言い方がある様に、とかく成功体験が傲慢の種を宿す方向になりやすいのでしょう。

‘祭りの前日’を思い起こすと人それぞれ、思い当たるものがあると思われます。
ひたむきに何かに打ち込む姿は美しく印象に残ります。
普遍的かつ大切な時間と等価なのです。

【漁港口の映画館 シネマポスト 次回上映(2月1日より)作品のご案内】

原題または英題
Il sol dell'avvenire/A Brighter Tomorrow
製作年: 2023年
製作国:イタリア・フランス合作
配給:チャイルド・フィルム
上映時間:96分

監督:ナンニ・モレッティ
出演:ナンニ・モレッティ、マルゲリータ・ブイ、シルヴィオ・オルランド、バルボラ・ボブローヴァ、マチュー・アマルリック
脚本:フランチェスカ・マルチャーノ、ナンニ・モレッティ、フェデリカ・ポントレモーリ、ヴァリア・サンテッラ
音楽:フランコ・ピエルサンティ
撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
後援:イタリア大使館
特別協力:イタリア文化会館

「ローマ法王の休日」「息子の部屋」などで知られるイタリアのナンニ・モレッティ監督が、時代の変化についていけない映画監督が痛い目にあって初めて大切なことに気づく姿をユーモラスにつづったヒューマンドラマ。
主人公の映画監督ジャンニをモレッティ監督が自ら演じ、モレッティ作品の常連俳優マルゲリータ・ブイ、フランスの名優であり映画監督でもあるマチュー・アマルリックが共演。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。




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