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ジャズが最も輝いていた1950年代から1960年代前半の枚挙に暇のない名盤群を聴くにつけ、概ねの録音状態の良さに、筋に詳しくなくてもハッと気付くリスナーは多いと思います。
オーバーダビングをせずに一発録音のスタイルならではの、この古典的な方法論が最も音質が良いのは至極納得です。やがて、技術革新、進歩を経て、マルチ録音や多チャンネル強化が音質劣化のないバラ録りでパートやセット毎に録音するスタンダードな形となります。特にポップスやロックの世界では当たり前となります。
ジャズは今もバンド録音については一発録音が殆どだと考えられます。プレイコンタクトからなる‘ゆらぎ’‘うねり’はオーバーダビングではなかなか作り出せ得ないと想像できます。

このシンプルと思えし一発録音に実は録音の妙があり録音技術に優れたエンジニアがジャズ発信で存在していました。方法論はその後の音楽ジャンル形態に影響、派生したと考えられます。

私見で驚きの録音作品と言えば、ザ・ビートルズ『サージャント・ペパーズ・ロンリーハーツクラブバンド』が4トラックのマルチ録音でオーバーダビングを駆使して制作された点と大瀧詠一『ロングバケーション』が一発録りの事実上のスタジオライブだった点、この2作品を挙げます。まさに想像の範囲を越える凄さ、技術力の結集を思い知ることができるからに他なりません。

その2作品は録音スタイルとしてはある種の両極にあります。
ビートルズの場合はあの凝った編曲構成をオーバーダビングは然もありなんですが、まさか4トラックのマルチ録音でレコーディングしたとするならば、オーバーダビングの特徴である音を重ねる度に音質が劣化するリスクと向き合う必要がある点をどのように回避、逆転の発想で形にしていったのか興味惹かれて止みません。楽曲的にオーケストレーションも加わってきますので尚更です。

大瀧詠一も究極のポップスを作ることに全身全霊で臨んだとご自身のコメントで読んだ通り、エヴァーグリーンサウンドの金字塔と誰しもが認める作品を具現化したのです。実証的エピソードを挙げるならば、SONYミュージック初のCD化に選ばれたのが『ロングバケーション』だった点で十分だと思います。
そのレコーディングがストリングス込みで、大スタジオでの一発録音とするならば、ミュージシャンの緊張は尋常ではなかったと普通に想像がつきます。自分のケアレスミスで最初からとなる訳です。
ロングバケーションを最初に聴いたのは中学1年時分の1983年でした。友達からレコードを借りて初めて聴いた時の、音が立体的に感じた不思議な質感と体感的な勢いがあったのです。
後々知るその理由がレコーディングにあり、マルチトラックも最先端の形であったにせよ、録音配置と録音設計は相当に練り込まれた筈です。オーケストレーションを含めればトラックが足りないのは自明の理です。

私はどちらかと言えば書類仕事をする際、無音より音が鳴っている方を好む傾向があります。書類作成時、言葉の選び方やセンテンスの構成をその瞬間に聴こえた音から触発、インスピレーションを与えられる感覚があります。
その点で、言葉としての意志が強い邦楽より洋楽、取り分けジャズや音響派をセレクトすることが多いかもしれません。
クラシックジャズはデジタルリマスターの有無に関わらず、本質的に音が良いと感じたふとした気づきは仕事の作業中でした。

録音の妙に思いをきたす余裕なのか、集中力散漫なのか、BGM有り無しの仕事のやり方は人それぞれですので何とも言えないですが、
私みたく映像を生業にしている人間に、音楽からの影響は避けて通れないことだけは真理と言って過言ではないと思う次第です。

ヴォーカル系ジャズの中でも30年聴き続けている大好きな一枚が1975年のブルーノートからのマリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway?』になります。これまた大好きなドナルド・フェイゲンの『Nightfly』と並ぶクロスオーバーの代表的な名盤です。
耳馴染み良過ぎると、単なる音楽鑑賞になり、仕事にならなくなる危険があります。
要注意です。

最後に私の仕事から、オリジナル制作の劇伴と写真家・野村佐紀子さんの写真を組み合わせた下関市立美術館での野村さんの写真展のプロモーション映像をご覧ください。
音楽はラウンジリザース的なイメージです。

下関市立美術館 特別展  
野村佐紀子 写真展「海」
2022年2月11日(金・祝)-3月27日(日)

開館時間  午前9時30分-午後5時
休館日  月曜日(祝日の3月21日は開館)
観覧料  一般 1,200円/大学生 960円
主催者  下関市立美術館/毎日新聞社/tysテレビ山口

助成芸術文化振興基金

協賛  やまぐち文化プログラム/山口県立下関南高等学校翠ヶ丘同窓会

協力  九州産業大学 芸術学部/(株)写真弘社/山口県立下関南高等学校/山口県立下関南高等学校S61同期会

下関市立美術館 083-245-4131

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