『ハニーボーイ』父との実体験を、自ら演じ、映画にすることで受け止める
小池百合子の圧勝に終わった東京都知事選。そして関西に甚大な被害を及ぼした平成30年7月豪雨を彷彿とさせる、熊本をはじめ九州全域に大きな被害を及ぼしている豪雨。自然の猛威が私たちを襲う中でも、着実に新型コロナ感染者は増え続け、個別の施設の感染情報から、京都の舞妓さん感染情報まで、なんとなく4月上旬に覚えた感触を思い出すようなニュースが続く。それでも10日から5000人までは入場OKでプロスポーツに、ついに観客が入るのだ。なんとも言えないな。
つい先日、本当にクズな父と、そんな父を知らずに育ち、父の血を引くということだけで村の人間から白い目で見られてきた息子の尖った親子物語『いつくしみふかき』を取材し、大山晃一郎監督が自身が体験した父とのエピソードを随所に入れ込んでいることを明かしてくれた。父と息子の、大人になったからこそ受け入れられる関係であったかもしれないし、映画で描くことでようやくきちんと向き合えるようになったのではないかと、お話を聞きながら感じていた。
8月7日に全国公開されるアメリカ映画『ハニーボーイ』は、純度100%の実話を基にした父子物語だ。子役から活躍し、『トランスフォーマー』シリーズの主役で人気俳優筆頭株になったものの、私生活の問題行動の末交通事故で逮捕後、セラピー治療を受け続けたというシャイア・ラブーフが、セラピー治療の中で、自身の過去を書き留める中、トラウマ的存在となっていた子役時代の父とのエピソードを書き出し、ラブーフが才能を認めるアルマ・ハレル監督に打診したのが映画制作のきっかけになったという。セラピーを受けながらハレル監督と草稿をやり取りする日々の中、ハレル監督は父親を演じるのはラブーフしかいないと告げたのだとか。
こうして、父と二人で生活するために働く人気子役の主人公オーティスと、元々は道化師をしていたものの前科ができたため、今は息子の付き人として働くしかない父、ジェームズとの物語が始まる。まさにラブーフが受けているセラピーの様子を描く現代パートでは、大人になったオーティスを人気若手俳優のルーカス・ヘッジが説得力のある演技で、その葛藤を見せる。そして胸に秘めた父との嵐のような日々で、稼げないのに、仕事に口を出し、自分の思うようにできないジレンマを抱える若きオーティスを次世代スタート呼ばれるノア・ジュプ(『ワンダー 君は太陽』)が、ラブーフ演じるジェームズとがっぷり四つに組んで熱演。そして何よりもちょっと腹が出て、かなり剃り込みが入った中年男ジェームズを演じるラブーフのトリッキーさや、父としての意地を感じずにはいられない。落ちぶれながらもニワトリを使った道化師芸は、今でも自身のアイデンティティで、ニワトリがタイトルのロゴをはじめ、映画の中でも度々登場するのも面白い。
演じることがトラウマになることもあれば、それがセラピーになることもあるだろう。本作のジェームズを見ていると、ダメおやじだけど、やはりどこか憎めない。そして息子のオーティスは、父に決定的な言葉を言い放っても、やはり父と一緒にいたいと願うのだ。かつての自分のようなオーティスを目の前に、ラブーフはどんな気持ちで演技をしていたのだろう?父を自ら演じ、人間としても、役者としても一皮剥けたのではないか。そんな気がした。業界ものでありながら、『フロリダ・プロジェクト』の匂いもする、超尖った父子物語。映像も音楽も、アメリカのインディーズ映画の魅力が詰まっていた。