劇場の新しい扉はパントマイムから。感動の『いいむろなおき マイム小品集』
京都でロングラン上演されているノンバーバルパフォーマンス『ギア-GEAR-』の出演者でもあり、沈黙の詩人と呼ばれたフランスパントマイムの第一人者、マルセル・マルソーに直接指導を受けた関西生まれのマイム俳優、いいむろなおきさん。実は、5年ほど前、伊丹アイホールで開催していたいいむろさんの夏季パントマイム講座に息子と一緒に通ったことがあり、模範演技の素晴らしさにファンになったのだが、コロナ禍で3ヶ月ホールを閉鎖していたKAVC(神戸アートビレッジセンター)の再開公演として、KAVC新しい劇場のためのwork:01『いいむろなおき マイム小品集』が開催されると知り、即申し込んだ。比較的こじんまりしたホールだが、感染予防対策で限定50席+無料オンライン配信。もちろんすぐに完売する人気ぶりだ。
私にとっても生舞台は本当に久しぶり。でもよく考えればパントマイムはそもそもセリフではなく、動きで物語を紡いでいくのだから、実はコロナ禍で上演しやすいのだ。実際に、座席も一列に2人ぐらいしか座っておらず、横同士はかなり離れている印象。先日オンラインで柄本明さんの一人芝居を観て、そこでもマイム的要素が入っていたが、今回は100%マイム。演目は
・プロローグ
・ハエ
・エンジェル
・コップの中の宇宙
・てふてふ
・手
の6つ。舞台袖に用意されているフリップを、トンという足音と共にめくって一つずつ演目を紹介していく。もちろんそこでもちょっとしたサービス的動きは欠かさない。演目が進むにつれ、汗の量も増える。タオルで拭いて、息を整え、スイッチを入れて舞台中央に歩いていくなんとも言えない緊張感。これは間近で観ているからこそ感じられるものだろう。
最初こそカバンや風船の小道具があったものの、あとは真っ黒の舞台があるだけ。いいむろさんがマイムを始めると、そこがあっという間にウエスタンバーになったり、海底になったり、家の台所になったり、野原になったりする。「ハエ」はハエを握りつぶそうとする男と、手の中で握りつぶされそうになるハエの一人二役!その鮮やかさと皮肉な結末に驚かされる。ラストの「手」では頭から黒いタイツを被り、舞台上ではまさにいいむろさんの手だけが浮かび上がる。その手の動きからちょうちょうが羽ばたくように見えたり、花火が上がってはハラハラと落ちていくように見えたり、大地に撒かれた種から芽が出て、植物の一生を思わせるようであったり。この演目は、マルセル・マルソー直伝のものではないかしら。身近な小市民のエピソードに潜在願望や死生観をにじませ、笑えるけれど、シンとさせられる。そのエレガンスでスローモーションな動きがどれだけ体幹やバランス感覚が必要で、難しいものであるか。本当に惚れ惚れするような美しく、時には滑稽な動きに目が釘付け。シンプルな中に、あじわい深さが満ちた至極の舞台だった。28日13時から無料配信(投げ銭歓迎)が行われるので、ご興味ある方は以下から申し込んでぜひご覧ください!